解決策立案と実行

第2章 問題解決の主役:最終ページ(5)

2.4.2 解決アイディアを出して絞り込む(解決策立案プロセス)

課題が明確に設定されると今度はその課題の具体的解決策を考えるステップに進む.解決策立案プロセスでは前項の「本質的問題・課題を明確化する(課題形成プロセス)」で課題化した課題の「解決策の基本方向」に沿って解決策を考案するための適切な枠組みを設定し,枠組みに沿った複数の解決策のアイディアを出し,それらを評価し,最も適切と考えられる仮説案を選択して絞り込む.

解決策の仮説案に対しては本当に問題が解決できるのか検証した後,実施計画を立てる.このプロセスにおいては論理的思考と創造思考が活躍する.

解決策立案プロセス
図2.5: 解決策立案プロセス

枠組みを設定してアイディアを出す

解決策の考案において重要なことは,解決策には通常複数の案が考えられるということである.それらの複数の案というのは,互いに代替案(オプション案)であるが,代替案を創出するためにどのような案を創出したら良いのかを考える適切な枠組み(=フレームワーク)の設定が役に立つ.

ここで枠組みというのは「第4 章論理ツリーに展開して活用する 4.3 フレームワークを活用して思考する」にて学ぶが,例えば,「目的達成に適したA,B,C の3 つの方式があり,それ以外にはない」といった解決策の方向性とそれがすべてであることを明確に示すものである.

問題解決案創出のための枠組みは論理的思考によりロジックツリーを使って設定することができる.その際に適切な枠組みを設定するには前の課題形成プロセスの結論を踏まえて,「目的達成志向で」,すなわち,「解決策の基本方向に沿って,有意義な解決策の創出を志向して(良い答えが出せるように)」設定する必要がある脚注2-6)

解決策創出のための適切な枠組みが設定されると,アイディア出し(解決策の創出)が容易になる.アイディア出しにおいては「創造思考(クリエイティブ・シンキング)」が活躍する.つまり,「論理的思考」は解決策の創出に際して「創造思考」を支援しているということになる脚注2-7)

ところで,アイディアを発想する際のポイントは大きく分けて2 つある.上位概念という枠組みによる「創造思考」への支援を含めて紹介しておこう.

1)論理思考的観点に立つ
  • 目的・原点に立ち返る

現象や策にとらわれ,考える目的を見失うとどうでも良いアイディアから脱却できなくなってしまうものだ.そういう場合,目的を再確認する,原点に立ち返ってみるといったことが役に立つ.あるべき姿や基本コンセプトを再確認し,脇道や途中の道筋にこだわらず,遥か遠くの目的地の方向にこだわることが大事である.

  • 本質を見直す

課題を表面的・短絡的に捉えようとせず,課題を明確に定義し,背後にあるテーマの本質を見極め,時には別の角度,異なる視点,別の立場から見直してみる.過去の経験から自動的に発想したり,反応で答えを出すというのではなく,一呼吸おいて課題を定義し直し,本質的問題解決プロセスに沿って考える.

本質というのは,多くの場合,その問題・課題の根底にある法則や仕組みに関わる原理や意味を深く追求することによって見えてくるものである.

  • 概念に沿う

論理的思考による上位概念としての枠組みから,あるいは同一概念のものからヒントを得て考える.枠組みの設定は論理的思考によるアイディア創出への支援の中核をなすものである.

2)創造思考的観点に立つ
  • すべての制約条件をはずす

自分に染みついている世の中・業種・業界・自社・組織の常識・従来の枠組み,会社の現状・事情・文化・風土,自分の立場・役割,成功・失敗体験,偏見,先入観,固定観念,既成概念,ビジョン,コンセプトなどの一切を取り払い,オールゼロクリアして考えてみる.

  • 自由度を拡大する

方向・位置・時間・組合せ・追加・削除などあらゆる変更可能な自由度を使って思考する.アナロジーからの飛躍などを試み,大胆に大きく飛んで,思いつき程度のことを遥かに越えようと,「あり得ないこと」を思考してみる.

普通の(天才でない)人のアイディア創出の基本はまず論理的に考えることが先決であり,論理的思考を繰返し,適切な枠組みに沿ったアイディアを考え抜くことである.そして,行き詰った段階では,いくつかの発想法を試すなり,一切の制約を排除して考えてみるといったことを勧めたい.

誤解のないように補足しておくが,アイディアを創出する際に上位の枠組みが必須だというわけではない.当初から特定の発想法でアイディア創出ができるなら,あるいはすべての前提となる条件を一切クリアして全くのゼロベースで創造的なアイディアが考えられるのであれば,それはそれで大変結構なことである.アイディア創出には根拠など無くても一向に構わないのだ.

価値のあるアイディアを創出できるようにするには普段からいろいろな機会を捉えて自ら課題を設定し,アイディアを創出する習慣を持つと良い.環境を整えるという側面からは個人が自在にアクセス可能な情報環境を整えるだけでなく,自発的に発想できる雰囲気といった心理的な面の環境を整えていることも重要な要素となる.

創造には個人の問題意識に加えて,視野を広げる異質な人との交流や顧客との接点,深く考える相互刺激の場の存在などが効果的である.最近ではインターネット上の場を活用した,問題解決に参画する人々どうしの意見交換や共創という高度な方法の可能性も開かれている

もちろん,社長の「思い」や,たまには上司の「思いつき」に耳を傾けるのも悪くはないだろう.是非,読者の皆さんは様々な機会を通じて体験的にアイディアを創造するポイントを掴んでいただきたい.

最適な解決策案を選ぶ

次に解決策を評価し,どの解決策を選択するかを意思決定する.評価は課題を取巻く状況に応じて,選択が最適となるような評価項目と内容を設定して行う.評価項目には実現可能性といった項目は必須である.なお,ここでも必要に応じて発散と収束を繰返す

例えば,もし解決策の方向を定めたという程度の段階である場合や選択した解決策が具体的でない場合には,具体策のための枠組みを再度設定し,再び解決策を創出・選択するということを繰返す.

選択された解決策は行動が可能なレベルまで具体化されていなければならない.具体的な行動レベルまで見通されていない解決策は再び見直しが必要になることもある.どの解決策を選択するとしても,解決策はこの段階では仮説である.

ここで多少わき道に反れるが,解決策の評価や判断と関連してロジカル・シンキングへの誤解を解いておこう.

ときどき「論理的に考えられた結論は冷徹な合理だけに基づいており,情緒に欠けるものだ」などと批判している著名人がいたりするが,その非難は多くの場合認識不足による誤解のように思われる.

結論が不適切であるとすれば論理的な考え方に関する特有の問題ではなく,その結論を導いた解決プロセスそのものが適切でなかったと見るべきなのである.あるいは,解決策の評価や判断においてそのような不適切な結論が選択されたに過ぎないという場合もある.

もし,費用や効率性といった評価項目だけでなく,例えば情緒面の評価項目が重要であれば明確に設定するか,あるいは判断基準などに不可欠な要素として盛り込めば良いのだ.

そもそも論理的思考を正しく展開している限り,解決策において情緒的な側面が非常に重要な場合には,現状分析等における情報収集の段階で把握されてしかるべきなのである.つまり,偏った情報収集でない限り,解決策の評価以前に課題化段階で課題命題の中に関連する事柄が盛り込まれるはずである.

しかし,だからと言って情緒面を優先して結局は本質的問題の解決に至っていないという結果になるようでは,本末転倒である.いかに難しくても必ず解決の道があることを信じ,粘り強く全力を注ぎ矛盾を解くような解決策を創出しなければならない.

解決策案を検証する

最終的に選択した解決策案について「問題が解決できること」を検証する.検証は実験,見積り調査,シミュレーション,テスト販売,ヒアリング,アンケート調査など目的と状況に応じて実施して確認する.なお,評価・選択に先立って検証し,その結果を踏まえて解決策を選択するという進め方であっても構わない.

検証できたなら,行動が可能なレベルの解決策にまで具体化した案の実施計画を立案する.

コーヒーブレークはいかがですか

「問題解決プロセス」の話、ここまで読み進めたあなたは結構熱心に学習されたということです。さぞお疲れのことと思います。

筆者はロジカルシンキングの基礎をベースにして、自分が体験した問題を踏まえて本章を書いていますが、原因のある問題も創造的な課題もそれらを解決して行くプロセスは、普遍的であり同じだという認識です。違いは、どのプロセス(ステップ)に重きを置くかという程度で、本質的には一緒です。

次のセクションからはいよいよ実行ステップということになりますが、ここからは大抵の場合、他の人と一緒に、たとえばチームで取組むと思います。その際にどうしても必須となることがあり、端的に言えば「人を巻き込み、解決に取り組む」、つまり、同僚・部下や関係者達に本気で取り組んで貰えるように仕向けなければなりません。

要するに人が意気に感じて「よし、一緒にやろう」という気持ちにさせる「対人力」が要るということです。

「人の心を揺さぶる」といった力は、なかなか身につくものではないと思います。しかし、忙しくてそれどころではないという人であっても、そのような力を身に付けるために何か1つだけなら努力できるというのであれば、「人との関わりにおいて、いつも相手の立場に立って考えてみる」努力だけは惜しまないようにすることでしょう。

すると、長い間の知らぬ間に、必ず「共感を喚起する能力」が自然と身に付いていることに気づくはずです。

2.4.3 関係者の納得の上で実行する(実行プロセス)

いよいよ解決策の実行である.実行プロセスではまず関係者に問題をどのように捉え,その解決策が何故最適であるのかについて論理的説明を行い,感情的にも納得して貰う.そして,計画に沿って進め,必要に応じてモニタリングや見直し・修正を行う.

実行プロセス
図2.6: 実行プロセス

結論と説明論理を明確に

計画に沿って実行すれば良いわけであるが,多くの場合,自分1 人で実行して済むということはないだろう.企業内であれば自分1 人で取組む場合であっても上司や関係者への説明と了解を得ることが必要であろう.

チームで問題解決に取組むのであれば,チームメンバー,少なくともチームのキーパーソン達に必要な説明を行い,了解・納得を得ることが欠かせないと考えられる.その際には,解決すべき問題がどのように捉えられ,その本質的問題・課題はどのようなことであるのかについて,事実に基づいた論理的説明が必要となるはずである.

その上で,更に,その問題の解決策にはどのような方法があり,どの解決策が最も適切であるか,その解決策であれば本当に解決することが可能であるのかに関しての論理的な説明も求められるであろう.妥当な問題解決プロセスの経緯説明を通じて,課題を明確化した論理性や選択した解決策の適切性,実現可能性といったことをフォローできた関係者は,普通なら理解して頷いてくれるものである.

キーパーソンを説得し,実行へ

論理的説明を聞いたキーパーソン達が説明に関しては理解してくれても,その実行を支持する,あるいは共に協力して問題解決に取組む気持ちになって貰えるかどうかはわからない.自分が解決策の実施に取組むことになれば,「また余計な仕事が増える」あるいは「責任が重くなる」といったことを感じて,反対したり尻込みする可能性もある.

実行の段階で重要なことは,関係者が解決策を単に認識レベルで理解するだけでなく,できれば共感,少なくとも感情レベルで同意し納得して貰わなくてはならないということである.そうでなければ関係者は解決策の実施に際して本気になって取組むことが難しい.

仕事だから取組むという程度では多くの場合実行段階で失敗してしまう.そのためには,解決策の説明や実施において社会的倫理や正義に反することがないことは前提として,関係者の立場に立ち誠実にその目線に合わせ,使命感と情熱を持って真摯に働きかけることが必要であろう.

そしてキーパーソンやメンバー達が意気に感じて主体的に問題解決に向かうようベクトルを合わせ,力を結集するために心血を注がねばならないのだ.妨害はしないけれども極端な反対意見を述べて逃避するような人が出てきても,問題が解決すれば関係者は少なくとも達成感や幸福感を味わうことができることを信じて粘り強く誠心誠意働きかけるのだ.

簡単に言えばこのプロセスは,対人系能力の発揮が必要だということである.少なくともキーパーソンが納得すれば実行に取り掛かることができるだろう.

モニタリングし,見直し,修正する

実行を開始したなら,随時,進捗状況をモニタリングし,必要ならば見直し・修正しながらゴールまで進める.この段階での状況に応じた見直しも重要である.状況は刻々と変化するので時には解決策が意味のないものになってしまう場合や方向転換しなければならない場合もある.

状況が当初の状態と全く変わってしまっているにもかかわらず,「決めたことだから最後までやり抜く」というのは,根性があって良さそうであるが,見直して変更すべきなら根性論にしがみついていてはならない.

そのような場合にも「解決策立案プロセス」で検討した解決策代替案は役に立つのだ.予め検討済みの代替案に乗り換えることも,あるいは時には課題化の段階に戻ることも必要となる場合があるだろう.

2.4.4 問題解決の全プロセス・イメージ図

ここまで問題解決の全プロセスを通して説明してきたが,全プロセスをイメージで捉えられるように補足的に本項を設けたので,必要に応じて参考にしていただきたい.
これから先の論理的思考の応用部分に相当する「第3章~第5章」では,問題解決プロセスの要所要所を個別に学ぶことになる.

図2.7 には,そこで扱う3つの方法,「第3章 論理ピラミッドを構築して活用する」における「論理ピラミッド」,「第4章 論理ツリーに展開して活用する」における「ロジックツリー(フレームワーク)」,「第5章 因果関係の解明に活用する」における「因果関係図」と問題解決プロセスとの関係を含めて描かれている.

図2.7: 問題解決の全プロセス・イメージ図

2.5 本章のまとめ

本章では「原因のある問題」と「原因のない問題」を視野に入れ,「問題」を広義に定義した上で論理的思考による普遍的な考え方に基づいた問題解決法を紹介した.同時に,今日の多くの組織に見られる「問題解決以前の問題」というものの存在とその解決法についても触れた.

問題解決プロセスにおいては,プロセスの全体を通して「目的達成志向」により取組むことの重要性を認識し,1)課題形成(問題を正しく把握することを含む),2)解決策立案,3)実行の3つのステップに分割して論理的思考の役割に関する要点について学んだ.

最初の1)課題形成プロセスにおいては,その意図するところは「問題の本質的解決策の基本方向を明らかにする」点にあり,活用する方法が3 種類あり,それらのロジカル・シンキングにおける道具を対象とする問題のタイプに応じて使い分ける,時にはmix して使うということにも触れた.

次の2)解決策立案プロセスにおいては,論理的思考を活用して目的に合った適切な枠組みを設定することが,創造思考を支援し,有意義な解決策の創出を可能とするということを学んだ.

最後に,3)実行プロセスにおいては,解決策という結論に至った論理をキーパーソンに説明し,感情レベルでの同意を獲得することが大事だということについても学んだ.

<第2章終り>

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