問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

どこがマズイ?なぜなぜ分析

なぜなぜ分析の改良に向けて

問題の改善や経営の改善を意図した問題解決の1つの方法として、「なぜなぜ分析」が知られているが、必ずしも上手く使われていない.論理思考の観点から「なぜなぜ分析」の改良ポイントをご紹介したい.

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現場で生じた問題の改善や経営の改善を意図した問題解決の1つの方法として,比較的良く知られている「なぜなぜ分析」という論理的分析法がある.「なぜなぜ分析」は本論理思考テキスト講座「論理思考の基礎から応用まで」第4章 論理ツリーに展開して活用するの範疇に属する分析法であるが,ロジカル・シンキングの研修を実施すると「なぜなぜ分析」の研修を受講した人が参加してくることがあり,日常的にも「なぜなぜ分析」を活用すべく努力している熱心な人に出会うこともある.

しかし,質疑応答や意見交換をしてみると,残念なことであるが,どうやら多くは上手く使えていないことに気づかされる.「なぜなぜ分析」に限ったことではないが,研修で学んだことを実際に仕事の場で活用しようと努力しても,なかなか思うように行かないものである.ロジカル・シンキングもその点では例外ではない.問題解決力の基盤となる論理思考の能力を磨き,実務で問題解決に活用することができるように鍛えるには,研修受講後も普通の人で少なくとも1年間程度の長期トレーニングが必要である.

ただ,「なぜなぜ分析」の活用に取組んでいる人の場合は,本当の意味で実用できるようになるには現場的な体験だけでなく,特に論理思考の基礎をしっかりと身につけることから見直した方が良いと思われるので要点を紹介しておきたい.

1 「なぜなぜ分析」のどこがどのようにマズイのか

ここでは「なぜなぜ分析」の活用に関して,論理思考という観点から幾つかの懸念点を挙げながら,より適切に活用できるように支援することを狙いとして分かりやすく解説して行く.誤解のないように予めお断りしておくが,「なぜなぜ分析がマズイ方法である」ということを主張することが目的ではなく,「なぜなぜ分析の活用においてマズイ点が見られる」ので,「このように考えると宜しいのでは?」という提案をさせていただいていると受け止めていただきたい.

1.1 「なぜ」の前に「問題」がある

わが国が,世界の製造業の世界的覇者と言われていた時代には,先進的企業は優れた製品の技術開発や商品化あるいは市場で使われている過程で何らかの不具合問題が発生すると,その問題の原因を探り出しては改善し,高い品質を備えた多くの製品を市場に提供してきた.今でも,製品や工程に不具合問題が生じる限り,その改善をおろそかにすることはできないので,それは確かにどの産業分野でも続けられている.

しかし,現状は問題の改善活動であれば,既に新興国企業においても自力で進めることが十分可能になっており,日本企業は競争力のある新興国企業に多くの産業分野で追い上げられている.それどころか,新興国の決して少数ではないエクセレントカンパニーは既に優れた日本企業を経営的なレベルで超えてしまっている.

今日,わが国のような先進国において産業の多くが成熟化した時代にいる私達には,これからの先の見えない状況の中で,新たな産業や価値の創出に向けた課題が重くのしかかっている.生じた問題の原因を突き止め,それを解決すれば良いという種類の問題とは異なる,かつて経験したことがない問題に対してもゼロベースから取組む必要が至る所で生じているのだ.

例えば,既に破綻したと言わざるを得ない「国家財政問題」をはじめ,現在の延長では破綻するであろう「年金財政問題」,やがてひっ迫する「エネルギー問題」,世界の「食糧問題」など,生じた問題の原因を解消するという視点だけでは到底歯が立たない問題ばかりである.

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このような大きな問題でなくても,さまざまな難しい問題に直面しており,「レアアース金属の代替材料開発」,「メタンハイドレートの効率的捕集」,「LED光源の高効率化」といった創造的問題のウェートが増大している.もっと身近な話でも,自動車のリコール問題のように「何か不具合問題が起きた」ことを出発点として改善するという後手の方向ではなく,本来はそもそも「リコール問題」を起こさないようにする問題解決という先手の方向を考えなくてはならないのである.勿論,それでも起きてしまった不具合問題の解決には原因の解消が欠かせないことは言うまでもないが,世界規模の市場で一旦リコール問題を起こすとブランドに対する信頼を失い,莫大な損失を蒙るわけである.

要するに私達が直面する問題は改善問題ばかりではないということだ.勿論,「なぜ」という問いかけが使える問題には,例えば「何故,その物体は青白い光を発するのか」といった問題もあり,必ずしも不具合問題(改善問題)とは限らないことも承知した上で説明を続けさせていただく.

なお,「問題の設定」に関しては,関連する情報を過不足なく収集し,適切に問題を設定することなど留意すべき重要な点がいくつかあるが,基本的な事柄について「論理思考テキスト講座 第2章」2.4.1 問題を設定し情報を収集するで触れたので,ここでは特に触れない.

1.2 限られる「なぜなぜ分析」法の適用範囲

いずれにしてもこのように考えてみると,「なぜなぜ分析」は上記のような,例えば創造的問題には不向きであると言わざるを得ないことがおわかりいただけると思う.「なぜなぜ分析」は,重要な問題解決法の1つであるが,その対象は「なぜ」の問いかけが意味を持つ問題に限られるのだ.問題というものを幅広く考えるなら,必ずしも「なぜ」という問いかけの対象となる問題とは限らないことがわかる.

論理思考分野で活用する論理ツリー(ロジックツリー)では「なぜなぜ分析」に対応するWhyツリーだけでなく,要素への分解ツリー,解決策を考えるときのHowツリーまで包含している.もっと広く,問題のすべてを視野に入れるなら「なぜ=why?」に対応する他の疑問詞のすべて「what?,when?,who?,where?,how?」で問いかける問題が存在することが想像できるであろう.「ある物はどのような要素で構成されているか」とか,「ある技術を確立するにはどのような方法があるか」,「どこに有用な資源が埋もれているか」といった問題を想定してみると頷けると思う.

しかし,「なぜなぜ分析」が適切に活用できるようになれば,「どこどこ分析」でも「どうどう分析」でも応用的に活用することができるはずである.それを可能とする思考がロジカル・シンキングであり,具体的には論理ツリー(ロジックツリー)展開であるということに気づくのではないだろうか.

「なぜなぜ分析」の活用限界に関しては,もう1つ知っておかなければならないことがある.問題には「原因のある問題」と「原因のない問題」があるが,「なぜなぜ分析」は「原因のある問題」のうち特定化された困った問題の原因分析への適用においてのみ効果があるということである.それは論理ツリー展開においても同様であるが,例えば,幾つもの問題現象が見られる状況において,本質的問題を抽出する論理ピラミッド構築によるアプローチ(参照:「論理思考テキスト講座」「第3章 論理ピラミッドを構築して活用する」や,)因果関係を明らかにすることによって本質的原因を突き止める因果関係図作成によるアプローチ(参照:「論理思考テキスト講座」「第5章 因果関係の解明に活用する」)の方が適している問題が存在するということである.

1.3 「なぜなぜ分析」においても”MECE”という概念を使おう

「なぜなぜ分析」においては,少なくとも問題の原因を「論理的に漏れなく抽出する」ということに関しては比較的神経が使われているようである.「なぜなぜ分析」関連の著者である小倉仁志氏によれば,『「なぜなぜ分析」とは「なぜ」を繰り返しながら,問題を引き起こしている事象の要因を,論理的に漏れなく出しながら,狙いとする再発防止策を導き出す方法のことを言う』脚注1)とのことである.

しかし,「なぜなぜ分析」において「論理的に漏れなく抽出する」ことはロジカル・シンキングにおいて「MECEに(ダブリなくモレもなく)展開する(「論理思考テキスト講座 第4章」4.1.2 MECEな構成と次元とはを参照)」としていることとはやや趣が異なる.

論理的に整合させれば漏れることがない

具体的な例を挙げてみたい.例えば,比較的多くの人が理解し易い「懐中電灯がスイッチをONにしても点灯しない.その原因を分析しなさい.」というような事例について「なぜなぜ分析」では大抵次の図1のような分析が行われている.

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図1: なぜなぜ分析例「懐中電灯が点灯しない」

ツリーは→で表記されているが,ロジックツリーの実線と同じと考えて良い.「なぜなぜ分析」に慣れている人が見れば特に違和感はないだろう.
しかし,論理思考という視点で見れば,「現象」と「なぜ(1)」は1本の→で結合されているので,『「懐中電灯のスイッチをONにしても点灯しない」と「電球に所定量の電流が流れない」が1対1で対応している,つまり両者は論理的に同等である』と理解することになるので違和感が生じる.

勿論,正しく論理的に同等(1対1の関係)で差し支えない場合,例えば,「なぜ (1)」が「懐中電灯のスイッチをONにしても電球からの発光がない」といった内容であれば問題はない.

論理思考では常に論理的に整合するようにMECEに考えるので『「懐中電灯のスイッチをONにしても点灯しない」ときには,例えば,「電球に所定量の電流が流れていない」という原因がある場合と「電球に所定量の電流が流れている」(けれども点灯しない)という原因がある場合との2つのケースがある』と,重なりのない両者を合わせて同等になるように展開するのである.つまり,上記「なぜなぜ分析」事例では「電球に所定量の電流が流れている」(けれども点灯しない)という原因が不足している(漏れている)ことになる.

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図2: 「懐中電灯が点灯しない」なぜなぜ分析とロジックツリー

ここで「電球に所定量の電流が流れない」というのは「懐中電灯のスイッチをONにしても点灯しない」ということを物理的原理に従って表現しているので,どうして他の原因が不足しているのかと思う人がおられるかも知れない.しかし,やや屁理屈的に聞こえるかもしれないが,少し深く考えてみれば,「点灯しない」と認識しているのは人間なので「本来なら点灯と認識可能な,電球からの光が見えない」ということであり,「電球に所定量の電流が流れている」場合でも「点灯しない」と認識する場合があり得ることを視野に入れておく必要性に気づくのではないだろうか.

こうして「電球に所定量の電流が流れている」場合に関して,ロジックツリー展開によって「懐中電灯のスイッチをONにしても点灯しない」原因分析を実施すると図3のように「なぜなぜ分析」では登場しなかった原因が抽出されていることがおわかりいただけると思う.ただし,下段の「フィラメントは点灯温度まで達している」にある「電球が光不透過性物質で覆われている」という原因までを含めることが必須であるかどうかは,前述のように「点灯しない」をどう定義しておくかによって左右される.

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図3: ロジックツリー展開による「懐中電灯が点灯しない」原因分析例(一部分)

比較のために図4にロジックツリー展開による「懐中電灯が点灯しない」原因分析例を載せておこう.ただし,真面目に描くと大きなツリーになって見難くなるので,2重枠の「電池から電球までの間で電流が流れない」部分は上位層と同様に図1の回路上の配線部分を順に展開するだけであり,省略して表記することでご容赦願いたい.

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図4: ロジックツリー展開による「懐中電灯が点灯しない」原因分析例

このように,ロジックツリー展開では,各階層を分解して新たにツリー展開する際に,必ず 「MECEに(ダブリなくモレなく)展開する」ので,明快であるだけでなく大事な可能性を見落とすようなことが起こり難い.例えば,「いたずら好きの友人に貸して戻ってきた懐中電灯のスイッチをONにしても点灯しない」というような状況下で原因を調べると,「電球に光不透過性のキャップが被せられていた」,「電球ガラスに発見困難なピンホールが開けられていた」といったことも起こり得るが,「なぜなぜ分析」例の方ではそのような原因を包含できていないことがわかる.

ところで,図4のようなロジックツリーを作成することは「MECEに(ダブリなくモレなく)展開する」方法に慣れてしまえば短時間で済むことであるが,長い間経験と勘で「なぜなぜ分析」を実施してきた人が見ると,「すべての原因を挙げてから原因調査をするのは時間の無駄だ」などと感じるかもしれない.「懐中電灯が点灯しない」程度のシンプルな不具合事例であれば,通常はいきなり「電池が足りているか」,「電球が切れていないか」程度の確認作業で原因が判明してしまう場合が大半であろう.

しかし,原因究明は容易だと思われた不具合事例で,当初の分析が不十分なために原因がわからずに苦労した経験や思いがけない原因を発見するまでに何日もかかってしまった経験がベテランなら誰にもあるはずだ.だから分析には手抜きをお勧めしないが,分析と検証を行き来しながらも,当然のことながら検証は状況に応じて確率の高そうな原因から確認作業を進めて行けば良い.

MECEな分割の仕方は他にもいろいろあるが,ここで用いた「A」と「非A」による展開方法はゼロベースで取組む問題に対して,比較的普遍性が高く推奨できるので,「なぜなぜ分析」ユーザーの皆さんも是非活用していただきたい.ついでに,MECEに展開するとどれほど分かり易いかを再確認していただくために,図5に「綱引き競技中に綱が切れた原因を探るなぜなぜ分析例」に関して従来から実施されてきたなぜなぜ分析例(上段)とそれをMECEに展開している例(下段)を並べて載せておくので,じっくりと比較しながら理解していただきたい.下段側のツリー展開が完成すれば上段側のツリーに圧縮しても何ら支障はないが,下段側では迷うことなく展開できていることがおわかり頂けるものと思う.

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図5: 「綱引き競技中に綱が切れた原因を探るなぜなぜ分析」例

MECEな展開により視野を広げよう

ところで,どうして「なぜなぜ分析」ではMECE(という言い方は別として)に展開することが上手くできていないのであろうか.歴史的には現場発の分析方法の1つとして使われたきたという経緯があり,論理学的基盤の上に構築されたものではないという側面は否めないが,どうやら「なぜなぜ分析」という言い方が宜しくないように思われる.分析者は「何故?」の質問に直接答えようとする傾向,つまり,問題となっている事象に対して,いきなり,その原因を挙げようとする傾向が見られるのだ.

例えば,「なぜなぜ分析」をやる人は『「電球に所定量の電流が流れない」のは何故?』という質問には「電球が切れている」,「電池の容量が足りない」・・・のように直接答えを出そうとする.ロジカル・シンキングをやる人は,「電球が切れている」という答えを出すとしても「電球が切れている」場合と「電球は切れていない」場合のいずれかに原因がある,あるいは「電池の容量が足りない」という答えを出すとしても,「電池の容量が足りない」場合と「電池の容量は足りている」場合のいずれかに原因があると考えるのである.

慣れた人は電球や電池という要素が登場するなら,それらの上位概念を考えて,例えば「懐中電灯の電気的要素に原因がある」と捉え,同時に「懐中電灯の電気的要素以外に原因がある」ことを視野に入れる.言い換えれば,ロジカル・シンキングでは「これらの原因以外にはない」ということを明確にして,常に全体としてすべての原因を包含するMECEな枠組みを設定しているのである.ただし,ロジックツリー展開により作成されるツリーの下位層ほど,より具体的な枠組みとなるために,該当する知見や情報が存在しない,考えつかないということが起こり得るので,特に最下位層では必ずしもMECEな姿で完成するわけではない.

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図6: なぜなぜ分析とロジックツリー展開の傾向

「何故?」の質問に「電球は切れていない」と答えると「何故?」に答えて原因を挙げたことにならないように思われるので,普通は「電球は切れていない」とは答え難いだろう.だから「なぜなぜ分析」という名称が邪魔をしている可能性があるのだ.しかし,「電球が切れていないという範疇に属する原因がある」と表現を変えれば抽象度は高いが原因を挙げたことになるので心配には及ばない.分かりやすく言えば原因の「場合分け」でも構わないので,MECEにツリー展開することが大事なのである.

「何故?」の質問は「なぜ電球が切れている?」の先に「強い衝撃を受けた」→「なぜ強い衝撃を受けた?」→「誤って,コンクリート地面に落した」という具合に縦方向には掘り進むことができるが,反面,視野を狭めてしまうことによって,意味のない原因を思いつき的に探し回る恐れを伴う.しかし,「何故?」の質問にもMECEにツリー展開するということを取り入れることによって既成概念や体験的知見に縛られていた先入観を超えて,視野を広げゼロベースで考えるべき新たな枠組みが設定されるという点にも気づいていただきたい.

ダブリについても注意しよう

さて,ここまで「なぜなぜ分析」においてMECEな展開の重要性について触れてきたが,どちらかと言えば「モレに注意する」ことが中心であった.「ダブリ」のことについても補足しておこう.最終的に展開された具体的レベルの原因にモレがあってはならないと同時に,個々の原因どうしは重なり合っていてはならないという概念がMECEである.

どうして「ダブリ」があってはならないのであろうか.論理的には上位と複数の下位ツリーを合わせたものとの間を等号で結ぶことができない,つまり誤りだからである.実際的作業面で言えば,考察・検討が2重作業になること,およびどこかに重なる部分を含むことによって作成されたツリーの信頼性が著しく低下してしまうからであると言っても良いだろう.

「なぜなぜ分析」の初心者においてはしばしば同じ水準(階層)に置かれた展開要素(原因)どうしに重なりのある展開が平気で行われている.例えば,「何故?」という質問に対して,思いついた原因を並べて行くといったやり方で,図7のようなツリーを描いてしまうのだ.

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図7: なぜなぜ分析でダブリが生じている例

「ダブリ」が生じる要因としては同一ツリー内では次元を一致させるというツリー展開の原則から逸脱していることが1つの原因と考えられるので,やや難しいかもしれないが,次元についても気をつけたい.しかし,ツリーの中にダブリが存在することは気づかぬ重大なモレが存在することに比べれば,害は少ない.MECEという概念に慣れてくれば次第にダブリのないツリーが考えられるようになるはずなので,あまり神経質に構える必要はないだろう.

1.4 andツリーとorツリーの識別

ロジックツリーには「and」型の形式と「or」型の形式があるが,通常はツリーを良く見ると意味がわかるので「and」と「or」の形式を識別可能な表記にしていない.ただし,『1つのツリーの中に「and」ツリーと「or」ツリーを混在させない』という原則が守られていることが前提となっている.「なぜなぜ分析」に限ったことではないが,時々この原則が守られていないツリーを見かけることがあるのでここで触れておきたい.1つのツリーの中に「and」ツリーと「or」ツリーを混在させてしまうとツリーの作成者だけしか理解できない,他の人にはわけのわからないツリーになってしまうので注意しよう.

「なぜなぜ分析」では,生じている問題の本質的原因を明らかにするためにツリーを作成するので,通常は基本的に「or」型のツリーとなっているはずである.しかし,少し難しい問題になると「and」型のツリー(と言っても形態的には識別不能であるが,意味的に「and」型のツリー)が登場してしまうケースが見られる.例えば,図8の「不良品が製品出荷検査を経て出荷された原因を分析している」事例について検討してみよう.

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図8: なぜなぜ分析で「and」ツリーが使われている例

良く考えればおわかりいただけると思うが,製品出荷検査が実施されていたことを前提とすれば,「不良品が出荷された」のは出荷検査が不適切だったということになり,原因領域は出荷検査に絞られる.あくまでも「不良品が製品出荷検査を経て出荷された原因を分析している」ことを見失ってはならない.しかし,勿論,出荷検査工程以前の工程ミスで不良品が作られているという原因も存在するが,図8のように「出荷検査で不良品を見逃した」という原因と「検査工程以前の工程ミスで不良品が作られた」という原因を併記したツリーでは,「and」ツリーになってしまうのだ.たとえ,「検査工程以前の工程ミスで不良品が作られた」としても適切な出荷検査が実施されるなら「不良品が出荷されることはない」ということに気づいて欲しい.

ただし,製品出荷検査が実施されていないという前提であれば,製造工程内の原因を含むツリーで適切となるので,誤解のないように願いたいが,それでもツリーは「orツリー」である.従って,この問題の解決策のことを考えると,「出荷検査で不良品を見逃した原因を解消する」ことの他に,当然のことながら,「検査工程以前の工程ミスで不良品が作られた原因を解消する」ことが必須であるが,これらの原因分析ツリーはそれぞれ別個に作成しなければならないということを理解しておいていただきたい.

ところで図8の「なぜ(1)」の更にその先のツリーを見ると,「なぜ(2)」における分析では「規定がマニュアルに記載されていなかった」という原因と「該当出荷検査が規定されていなかった」という原因が記載されている.果たして,これらの原因は「出荷検査で不良品を見逃した」原因として妥当であろうか.モレがあるか,あるいは「and」ツリーになっていると気づくのではないだろうか.確認のために,図8の分析ツリーの下段側を図9のようにMECEに展開してみるとモレがあることがわかる.

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図9: なぜなぜ分析におけるMECEな展開による確認例

説明は省略するが,同じ問題をロジックツリーを用いて原因分析した一例を図10に載せたので参考にしていただければ幸いである.

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図10: ロジックツリーによる「不良品が製品出荷検査を経て出荷された原因」分析例

2 「なぜなぜ分析」においても”目的達成志向”を意識しよう

前項で「なぜなぜ分析」を使っている人には,ある現象が生じている原因を明らかにするために,「何故?」という質問に直接答えようとする傾向があると述べた.そのこと自体は決してマズイことではないが,「思いつくまま」,「機械的に」原因を挙げるというのでは具合が悪い.何度か「何故?」の質問に答えているうちに本当の原因に辿り着くかもしれないが,できれば早く確実に辿り着きたいのである.しばしば「なぜを5回繰り返す」といったことが金科玉条の如く聞こえてくるが,本当に「なぜなぜ分析」を理解している人は,単純に「なぜを5回繰り返す」といったことに振り回されてはいない.肝腎なことは「何故?」を繰返し,生じている問題の本質的原因を抽出することであり,その状態まで到達できれば「何故?」が何回であろうが一向に問題ではないのである.

そこで,考えなくてはならないことは,どうしたら「何故?」の質問に対して,問題の現象の本質的原因を抽出する確率の高い切り口を設定することができるのかということである.ロジカル・シンキングを活用するときには,必ず,何らかの目的があるので,その目的を達成する強い意図を持って考えるように”目的達成志向”という概念を紹介させていただいている.例えば,原因分析のためのロジックツリー展開をするときには,”目的達成志向”というのはその目的から「問題の原因発見志向」であり,即ち,問題現象が生じている,その本質的原因を発見しようという強い意図を持って臨むのである.

2.1 「目的達成志向」的な切り口の設定

具体的に言えば,やや重複的な説明になることをお許しいただかなくてはならないが,以下の点に留意して切り口を設定すると良い.ここに示した留意点は「なぜなぜ分析」における目的達成志向的な切り口に繋がるであろう.

1) 問題の現象が発生する原理・原則・仕組み・メカニズムに注目して考える

「なぜなぜ分析」においても問題の現象が発生する原理や原則に注目し,原因を考えるということが推奨されており,それは,物事の本質に迫る大変良いアプローチの仕方である.

2) 問題の現象に直接的に関係する事柄を包含する切り口を設定する

「思いつき的」に考えられた,「何故?」の質問に対する答えは,往々にして問題の現象に対して直接的なものとなるとは限らず,「切り口が思いつき的」に設定される傾向を否めない.問題の現象に直接的に関係する原因を表面化させようとする強い意図を持って展開することが望ましい.

例えば,「ある工程に不具合を発生させる原因がある」という場合に,「何故,その工程で不具合が発生する?」→「新人が担当しているから」,「担当者が夕べ遅くまで飲み会に出ていたから」,「照明が暗くて見難いから」といった間接的な答えからの発想が良くない切り口の典型例である.前項の図8の事例でも,例えば,「出荷検査規定がマニュアルに記載されていなかった」などという原因より,「出荷検査に規定されていなかった」という原因の方がより本質的である.

3) 問題の現象を発生させる確率の高い事柄に注目して切り口を考える

当たり前のことであるが,これがなかなか難しいようだ.多くの場合,問題現象を事実に基づいて正しく観察・把握して状況に応じた考察が必要になる.問題事象が発生した状況を正しく観察・把握せずに,発生してしまった問題だけを表面的に捉え,机上で何故問題が起きたのか,何がいけないのかなどと頭を抱えているだけでは,目的達成志向的な切り口を考えつくことができない.

例えば,ビル屋上の塗装面の劣化原因を検討しようというときに,普通なら,直射日光や紫外線といった事柄を切り出せるようにツリーを構成するであろう.しかし,屋上面を良く観察することによって,決して平坦ではなく,僅かに凹みのある部分に埃のようなものが同心円状に溜まっており,その円の中心部分から埃の溜まっている同心円状部分の屋上塗装面に細かい凹凸が生じている,塗装面はその細かい凹凸の生じているところから劣化が進んでいる,というようなことに気づいたりする.すると直射日光や紫外線ではなく,溜まり水や埃のようなものが塗装面の劣化に関係がありそうだといった感覚が持てるようになるはずだ.そこで「凹みに溜まった雨水や埃のようなものが塗装面に及ぼしている影響」をいずれかの階層で切り出せるツリーが重要になってくることがわかるであろう.

つまり,問題事象が発生した状況を正しく観察し,関連する事実を把握することは,単に机上で考えていた無関係な事柄を排除し,状況に応じた無駄の少ない適切なツリー展開を可能とするということにも繋がり,本質的原因を発見しやすくするのだ.

目的達成志向的な切り口の設定に関しては,「論理思考テキスト講座」第4章 論理ツリーに展開して活用するの至る所に登場するので章を通してフォローいただき,少しずつ慣れて行くことをお勧めしたい.

3 「なぜなぜ分析」の定義に関連して

筆者はここまで『なぜなぜ分析の改良に向けて』という表題を掲げて役に立ちそうなことを説明してきたが,実のところ「なぜなぜ分析」とは一体如何なる分析手法であるのか,確信を持って正しく理解できていないかもしれない.本項では,そのあたりの状況について追加的に補足しておきたい.現在,わが国における「なぜなぜ分析」という分析法に関する説明は大きく分類して,2通り存在する.

典型的な1つの説明は『「なぜなぜ分析」とは,発生した事象に対して「何故?何故?・・・」と繰り返して原因を抽出し,事実に照らして真の原因を突きとめるものである』というのである.

もう1つの説明は『「なぜなぜ分析」とは不具合現象を発見し,原因を事実に基づいて帰納的に追究し,真因となる原因を究明した後に,更にその原因を起こす管理システムの根本的原因を演繹的に追究するものである』というのである.

前者は,「何故?」という問いかけが意味を持つあらゆる現象を対象にすることが可能な定義である.一方,後者は2段階の分析を必須として説明されており,最終到達点は,必ず管理システムの根本的欠陥に対する対策案で解決するところまで「何故?」を繰返すとしている.従って,狙いは人間が関係する「管理システムへの反映」にあり,これに反映しない事柄は分析対象としていない.

本当のところ,いずれが正しい「なぜなぜ分析」の定義であるかなどどうでも良いことであるが,後者の「なぜなぜ分析」の定義に関する限り,活用に当たって注意しなければならない点があるので補足しておきたい.

後者の定義によれば,後半の根本的原因分析過程で,元々の分析対象としていた不具合現象の本質的原因から離れて,人間が関係する「管理システム」における原因の追究に拡散的に展開することになる.が,仮想的な「あるべき管理システム」を前提として根本的原因と特定し得る複数の事象が存在する可能性があることによって,必ずしも必然的帰結としての特定化された根本的原因に到達するわけではないという問題が常に付きまとう.一見もっともらしく聞こえる後者の唯我独尊的な定義を,主張が強いからと言って信じてしまうのは勝手であるが,「なぜなぜ分析」をこれから活用しようとしている熱心な方々には,是非とも混乱の渦中に巻き込まれないようにお願いしておきたい.

標準的問題解決プロセスを理解しておこう

では,再発防止を必要とする不具合事例に対して,再発防止のために人間が関係する「管理システムへの反映」を実現するのはどうしたら良いのかについて説明しておこう.

世の中で標準的に用いられている殆どすべての問題解決プロセスは大きくは「問題の設定」と「問題の解決」という2つの段階に明確に分離されている(「論理思考テキスト講座 第2章」2.4 問題解決のプロセスを正しく理解しようを参照).原因のある問題に対しては第1段階として,問題となる不具合現象の真の原因(本質的原因)を突きとめ,「本質的原因を解消すること(その現象を再発させないなど)」を課題化して設定し,第2段階として課題化された解決方向に沿って解決策の検討に入る.この第2段階で人間が関係する「管理システムへの反映」が必要な不具合問題が対象であれば,解決策の中に状況に応じた人間が関係する「管理システム」の改善策等が登場することになる.

この部分の理解が大事な点である.例えば「管理システム」が登場する複数の解決策が考えられるが,それは実現可能か,自社の実態に即しているか,実効性があるか等の評価・検証を経て,状況に最も適した解決策を選択・実行するというステップを踏むのである.従って,ここに述べたような問題解決プロセスに沿って進める限りは,前者の「なぜなぜ分析」の定義で何ら支障はない.むしろ標準的だと言える.ただし,例えば「出荷数量より多くの製品が出荷されてしまった」といった不具合現象について分析すると,当然のことながら,真の原因(本質的原因)として人間が関係する「管理システム」が該当する場合があるので,話がややこしくなるかもしれないが,誤解のないように願いたい.

繰り返して言うが,「管理システム」に関わりがあろうがなかろうが,本質的原因に到達したならばそれを課題化し,次に課題解決策の検討に入れば良いのだ.筆者は1990年代から社内でISO9001品質マネジメントシステム導入に関わり,審査員としても社内商品開発部門および製品製造子会社の品質マネジメントシステム監査を何度も実施したが,予防処置や是正処置の検討に欠かせないオーソドックスな問題解決プロセスは熟知しているつもりである.

なお,筆者はいずれの定義が「なぜなぜ分析」の正しい定義であるのかについて言及する立場にないが,少なくともロジカル・シンキングでは,分析対象に制約はない.例えば,「夕焼けが赤く見えるのは何故か」というのも,「瀬戸内海で獲れたフグが何故セシウム137に汚染されているのか」,「リチウムイオン電池の火災発生事故は何故起きたのか」,「何故,自転車専用道路で歩行者との衝突事故が発生するのか」というのも対象にする.これらの分析対象のうち,原因のある問題で解決を必要とする対象に対しては,上記の問題解決プロセスに沿って解決を進めるということになる.更に最初の方で述べたとおり,ロジカル・シンキングは「何故?」という質問が意味を持たない「原因のない問題(=課題)」も扱うが,問題解決プロセスは大きくは「問題の設定」と「問題の解決」であり基本的な進め方は同一である.

以上のような観点から,ここでは「なぜなぜ分析」とはどういうものであるかについて,必要以上に深く言及せずに改良ポイントについて説明させていただいた.

<「どこがマズい?なぜなぜ分析」終わり>

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脚注

1)
例えば,小倉仁志著『なぜなぜ分析徹底活用術』JIPMソリューション 1997 年 脚注1)の付近に戻る

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