1.問題解決に関連する事柄
現代のビジネス・パーソンの多くは、一部の事務的業務およびルーチンワーク的な業務を除くと、課題設定、課題遂行、トラブル解析、困りごとへの対応、戦略立案、提案・プレゼンテーション、交渉、議論、論文・レポート作成など、思考を必須とした業務に携わっています。これらのどの業務も、広くは「問題解決」業務の一環として行われていると言えます。
あなたが日常的に遂行している業務も上記のいずれかに相当するのではないでしょうか。例えば、プレゼンテーションや議論、レポート作成などの業務どれもが広くは問題解決の一環として実施されていると思います。もし、あなたが営業担当だとしても、販売不振の打開や売上数量の増大等は、重要な「問題解決」の対象になっていると思います。
あなたが、ロジカルシンキング(論理的思考)を学び、ある程度使えるようになったなら、そろそろロジカルシンキングを活用して、身近な「問題解決」に取組んでみてはいかがでしょうか。何よりロジカルシンキングを習得する目的というのは大きく2つあって、その1つが「問題解決」なのですから、実際に活用しながら一歩一歩問題解決力を磨いて行くというのは理にかなっているでしょう。
ただ、ロジカルシンキングが使えるようになったとしても、「問題解決」に取組むには、どうしても予め理解しておかなければならない事柄(問題の定義、問題の設定、問題解決プロセス等)がありますので、それらを一通り学んでおく必要があります。
「問題解決プロセス」は、通常、「問題の設定」と「問題の解決」という2段階で構成され、実施されるものです。そこでこの記事では、まず、前半段階の「問題の設定(=課題形成)」に焦点を当て、実際に、例題事例に取組んでいただきながら解説して行きます。後半段階の「問題の解決」については、本記事の例題の続きに取組むという形で別途ご紹介しています。
なお、「問題解決」について更に深く知りたいという場合には本サイトの「問題解決の主役」をご参照ください。
最初に「問題解決」に関連して知っておきたい事柄を理解しておきましょう。
そもそも、問題とは一体何でしょうか?あなたは「問題」を正しく定義できますか?
1)原因のある問題と原因のない問題がある
通常、「問題」というと、社会人の場合は大抵「困ったこと」、「トラブル」、「まずいこと」といった“何か具合の悪い”事柄をイメージすると思います。これら「困った事態」が想定される問題には必ず特定の原因があります。
しかし、私達は一方で、例えば、数学や英語の「問題」とか、試験「問題」などといった、“具合が良い・悪い”イメージとは関係のない「問題」があることを知っています。これらは、新たな技術の確立とかある製品の売上を2倍にするなどの「問題」と同じで、「困った事態」が想定されるわけでもない「問題」で、単に「課題」と呼ぶ場合が多いと思います。原因があって生じている問題ではなく、これらの問題には「原因」はありません。
つまり、どちらの問題も「解決しなければならない問題」という意味では同じですが、まずは、問題には①原因のある問題と②原因のない問題があるとご理解ください。
2)問題とは「現状(現在の状態)」と「あるべき状態」とのギャップ
このように、ロジカルシンキングが捉える「問題」は、狭義の問題「原因のある問題」と広義に含められる問題「原因のない問題」の両方を視野に入れて、どちらの問題も統一的に扱えるよう次のように定義されています。
「問題」によっては「あるべき状態」をゴールや目標などと置き換えても宜しいでしょう。こうして、「問題」を定義すると、「問題の解決」とはそのギャップを埋めることであり、私達の仕事の大半が「問題解決」であるということが頷けるのではないでしょうか。
例えば、“現状(現在の状態)”が、「プロジェクト運営がうまく行っていない状態」、「検討の準備段階」、「計画に着手した段階」、「製品の市場故障が多発している状態」、“あるべき状態”が「顧客からのクレームが大幅に減少した状態」、「販売数量が昨年より50%増加した状態」、「次期商品戦略が有効に機能している状態」であったり、「新規サービス商品事業ビジョン」であったりするのです。
3)問題解決プロセスについて
問題解決プロセスとしては、基本的には、前段の「問題の設定」、後段の「問題の解決」という具合に2つのプロセスで構成されています。問題解決プロセス全体については、別途記事にしてご紹介しています。
4)「問題の設定」とは
問題解決を大きく2つのプロセスに分けると、前段が「問題の設定」、後段が「問題の解決」ということになりますが、「問題の設定」とは、懸案の問題の本質を明らかにして、課題化することを指しています。そのため、「課題形成」とも言います。
「原因のある問題」に対しては、問題の本質的原因を明らかにして、その原因を解消するという課題を設定することになります。「原因のない問題」に対しては、問題の本質を明らかにして、課題化することになります。
2.問題設定(=課題形成)にチャレンジする
多くのビジネス・パーソンが日常的に問題解決に取り組んでいるわけですから、今までと同様に、誰でも馴れてしまって何の不都合もなく対応できていると宜しいのですが、あなたの場合は満足した結果に至っているでしょうか。
単純な問題であれば、特にロジカルシンキングを用いることもなく、「問題」→「解決策」→「実行」という程度で対応が済まされているかもしれませんが、少し、複雑な問題になると、実は「問題を設定する」ことが、意外に難しいことになります。
そこで、今回、改めて、あなたとともにロジカルシンキングを用いて、問題解決に関する事例で前段の「問題設定」にチャレンジしてみましょう。架空の例題事例場面を設定しておきますので、一緒に検討してください。
3.課題形成プロセスに沿って問題の設定に取組む
1)問題を把握し情報収集する
あなたは目的・背景を理解し、相談内容の概要を把握しましたので、現在の状態がどうなっているのか、この部門の関係者に対して問題の把握のためにヒアリングをしてみました。
問題に関連する情報を、関係者の何人かにヒアリングして、次のようなことがわかりました。
- この部門では海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当している
- メンバーは毎日遅くまで市場対応(各国サービスマンからの顧客クレーム対応)に追われている
- メンバーは平日だけでは対応しきれずに、休日も出勤しなければならず、身体を壊してしまった者もいる
- ここ数年メンバーは増えていない
- メンバーには疲労感が見られ、とても生き生きと仕事をしている様子とは程遠い状況である
- 類似のクレームが多い
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
なるほど問題がありそうですね。今回のケースでは依頼部門から「困った状態にある」と聞いていますので、当然、原因のある問題であることは確かですが、「どのような問題であるか」の確認とともに、問題の把握の一環で念のため検討しておきます。
【原因のある問題か原因のない問題(=課題)かを見極める】
まず、何が問題なのかについて関心を持ちながら、ヒアリング結果から、現在の状況を理解して、「あるべき状態からの乖離(かいり)」があると考えられる情報を抽出しましょう。そして、「あるべき状態からの乖離」が何らかの原因の存在が想定される問題なのか、それとも、原因とは関係のない課題なのかを判断します。
ネガティブな情報が問題に関係する場合には、理想的な「あるべき姿」など特に意識せず、ネガティブ情報をピックアップしてみましょう。「あるべき姿」は漠然としていても構いません。
すると、あなたはこのヒアリング結果からは、恐らく、少なくとも下記は「問題だ」と抽出されたのではないでしょうか。
- メンバーは毎日遅くまで市場対応(各国サービスマンからの顧客クレーム対応)に追われている
- メンバーは平日だけでは対応しきれずに、休日も出勤しなければならず、身体を壊してしまった者もいる
- メンバーには疲労感が見られ、とても生き生きと仕事をしている様子とは程遠い状況である
- ここ数年メンバーは増えていない
これらの情報はいずれも良くない・ネガティブな内容であり「現状」と「あるべき姿」との間でギャップがあり、何らかの原因があって生じている問題だとわかります。
これらの情報は「要するに何だ」というのでしょうか。類似の情報が多いので、ロジカルシンキングの「論理ピラミッドの構築」を活用して、検討してみましょう。
そこで、これらの情報に基づいて上位メッセージ(「要するに何だ」に相当する!)を作成すると、次のようになりました。
- メンバーは増員もないまま、毎日夜遅く、休日までクレーム対応に追われ、疲労感が限界に来ている
つまり、事例は少なくとも「原因のある問題」であることが明らかですね。
【(本質的問題を発見するために本格的に)情報収集する】
この部門は、確かに原因のある問題を抱えていることが掴めました。従って、問題を生じさせている本質的原因を発見しなくてはなりません。そして、その原因を解消すれば問題は解決できることになるはずですね。
では、あなたは、この先どうしたら良いと思いますか。
また、問題として抽出しなかった、次の2点も何か、気になりませんか。
- 類似のクレームが多い
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
「クレームへの対応の方法について、もう少し何とかならないのか」といった感触を受けると思いますが、どう致しましょうか。
そうです。当初の情報は大抵、充分ではないことが多いものです。もっと情報収集する以外に手がありませんね。あなたはその点に気がつき、国内市場向けサービス部門や海外サービス拠点の状況なども調査することにしました。そこで、新たに次の情報を収集しました。
- 最近は海外にも新製品が次々と市場に投入され、市場で稼動している製品の数が年々増加している
- 海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である
- クレーム内容には設計起因の問題と顧客の使い方起因の問題が多い
- 新製品が出る度に市場から多くのクレームが寄せられる
- 海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている
- 設計起因のクレームには設計部門の人にフィードバックして対応してもらっている
- 海外のサービス拠点では、独自に考えたクレーム対応策を持って対応しているところもある
- メンバーは海外拠点のサービスマンへのサービス教育を実施する仕事も担当している
- クレームへの対応方法が決まるとメンバーは「サービスニュース」を作成し、メールに添付して各サービス拠点に送付している
問題を設定するには、原因のある問題の場合には、本質的原因を明らかにしなくてはなりません。そこで、あなたは、情報不足に気づき改めて本格的に情報を収集したわけですね。
2)本質的問題を発見する
追加して収集した情報からは、どのようなことが見えて来ましたか?
原因のある問題においては、その本質的原因を明らかにするための原因分析を実施します。そのためにはロジカルシンキングにおける、3つの原因分析法「論理ピラミッド構築(第3章 論理ピラミッドの構築)」、「ロジックツリー展開(第4章 論理ツリーへの展開)」、「因果関係図作成(第5章 因果関係の解明)」のいずれかが役に立ちます。
直感的にも「これは良くないな」と感じるような情報もありますね。様々な情報が収集できましたので、一旦、整理してみることにしました。このように多くの断片的な情報が存在する場合には「論理ピラミッド構築」で整理すると宜しいでしょう。
「論理ピラミッド構築」を活用する:上位メッセージの作成1
上位メッセージの作成に当たっては、可能な限り「問題を抽出しよう」という意図をもって臨む必要があります。
あなたは、先に収集した情報で使用していない情報を含め、関連性が高いものをグループ別に分けて、「論理ピラミッド」を活用し、グループ毎に「要はどのようなことか」と考え、メッセージ化してみました。
- 市場での新製品の稼動数増加に対応しクレーム数が増加している
- 最近は海外にも新製品が次々と市場に投入され、市場で稼動している製品の数が年々増加している
- 新製品が出る度に市場から多くのクレームが寄せられる
- 国内外で設計起因および顧客の使い方起因による、同じクレーム、類似クレームが発生している(仮説)
- 海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である
- クレーム内容には設計起因の問題と顧客の使い方起因の問題が多い
- 類似のクレームが多い
- 設計部門、国内市場向けサービス部門、海外サービス拠点でのクレーム対応情報が活用できていない
- 海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている
- 設計起因のクレームには設計部門の人にフィードバックして対応してもらっている
- 海外のサービス拠点では、独自に考えたクレーム対応策を持って対応しているところもある
- サービス業務の本部機能にもかかわらず、効率化施策もなく、海外拠点への対応業務に終始している(仮説)
- この部門では海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当している
- クレームへの対応方法が決まるとメンバーは「サービスニュース」を作成し、メールに添付して各サービス拠点に送付している
- メンバーは海外拠点のサービスマンへのサービス教育を実施する仕事も担当している
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
作成したメッセージは本来いずれも仮説レベルなのですが、「グルーピングした事実情報からは、そこまで言えるかどうかわからないが、他の情報から高い確率で言えると思われるような事柄」については、(仮説)と記しています。
要するに、ここまでに次のようなことがわかりました。元の16個の情報が下記の5つのメッセージに集約されたことになります。
- メンバーは増員もないまま、毎日夜遅く、休日までクレーム対応に追われ、疲労感が限界に来ている
- 市場での新製品の稼動数増加に対応しクレーム数が増加している
- 国内外で設計起因および顧客の使い方起因による、同じクレーム、類似クレームが発生している(仮説)
- 設計部門、国内市場向けサービス部門、海外サービス拠点でのクレーム対応情報が活用できていない
- サービス業務の本部機能にもかかわらず、効率化施策もなく、海外拠点への対応業務に終始している(仮説)
「論理ピラミッド構築」を活用する:上位メッセージの作成2
今度は、今作成したメッセージに基づいて、更に「要するにどのようなことなのか」、論理ピラミッド構築によって、考えてみましょう。5つのメッセージをグルーピングして上位メッセージを作成します。これで、元の16個の情報が2つのメッセージに集約されたことになります。
- 市場でのクレーム数の増大・類似クレーム発生にもかかわらず、市場ではクレーム対応情報が有効に活用されていない
- 市場での新製品の稼動数増加に対応しクレーム数が増加している
- 国内外で設計起因および顧客の使い方起因による、同じクレーム、類似クレームが発生している(仮説)
- 設計部門、国内市場向けサービス部門、海外サービス拠点でのクレーム対応情報が活用できていない
- 本部機能として組織でクレーム対応業務を効率的に実施する施策が機能していない
- サービス業務の本部機能にもかかわらず、効率化施策もなく、海外拠点への対応業務に終始している(仮説)
- メンバーは増員もないまま、毎日夜遅く、休日までクレーム対応に追われ、疲労感が限界に来ている
「論理ピラミッド構築」を活用する:上位メッセージの作成3
それでは、たった今作成した2つのメッセージを1つのメッセージに統合して、いよいよ、元の16個の情報を1つにまとめた、最上位メッセージを作成しましょう。
- 本部機能が推進すべき、クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策が打たれていない
- 市場でのクレーム数の増大・類似クレーム発生にもかかわらず、市場ではクレーム対応情報が有効に活用されていない
- 本部機能として組織でクレーム対応業務を効率的に実施する施策が機能していない
これで、収集した情報のすべてに基づいて、どのようなことが言えるのか最上位のメッセージを作成しましたので、この部門の本質的問題が明らかになりました。様々な問題の本質的原因は「本部機能が推進すべき、クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策が打たれていない」点にあるということです。
参考までに、これまで進めてきた「本質的問題の発見」を目的とした、最終的な論理ピラミッドの姿は一例ですが、下記のようになりました。
ところで、ここまでに幾つかの(仮説)をそのまま使って結論まで導きましたので、結論も仮説ということになります。これらの仮説の検証は、本来は再調査で確認するのが適当ですが、この結論を課題化して、課題をクリアーすれば、生じている問題のすべてを解決できると考えられますので、問題の本質的原因として実証可能と判断します。
3)課題化する
本質的原因が明確になりましたので、この本質的原因を解消することが、課題であり、それを課題化することが「問題の設定(=課題形成)」ということになります。
それには、このメッセージを裏返しにすれば宜しいのです。
つまり、「本部機能が推進すべき、クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策を実施する」ことが、課題であり、これで「問題解決プロセス」の前段「問題の設定」の段階を終えることになります。課題形成プロセスの狙いとするところは「課題を明確にし、目的達成のための本質的解決策の基本方向を明らかにする」点にありますので、ここで後段の「問題の解決」に繋がります。
あなたは、こうして導かれた問題の本質について、検討の経緯と共に依頼元の部門に説明し、今後取組むべき課題を助言したところ、「やはり、そうでしたか。うすうす気づいていたのですが、手に負えそうもないと感じて放っておいたのがマズかったです。」との反省とお礼の言葉を聞きました。
4.問題解決への取組みにおける付随する事柄
ロジカルシンキングを活用して、問題解決に取組む場合には、必ず目的があって取組むわけですから、ただ淡々と作業をこなすという姿勢でなく、意識しておくべき事柄があります。本項ではその点について触れておきます。
1)目的達成志向を持って取組む
ロジカルシンキングは目的に合った結論を導出するために、常に基本姿勢として目的を達成しようという志向を持って取組むことを求めています。
「問題解決」においては、大きくは「問題を解決しよう」という目的意識、「問題設定」においては、「問題を設定しよう」という目的意識、「本質的問題の発見」においては、「本質的問題を発見しよう」という目的意識を持って取組まなければなりません。
もっと具体的には、例えば、今回の取組み事例で「論理ピラミッドの構築」によって「本質的問題を発見する」ための上位メッセージを作成する場合にも、「本質的問題を発見しよう」という目的意識を持って取組む必要がありますので、メッセージ化にも影響が及ぶことになります。
典型的には、下記のメッセージ
- サービス業務の本部機能にもかかわらず、効率化施策もなく、海外拠点への対応業務に終始している(仮説)
のように、問題の本質的原因を抽出しようという意思が働き、少し背伸びをしていますので、当然、内容的に“仮説”傾向が強まるわけです。
逆に、例えば、このメッセージの代わりに
- この部門は海外サービス業務の本部機能を担当しており、海外拠点のサービスマン教育の他に、サービスマンからの顧客クレームへの個別対応、決定したクレーム対応としての「サービスニュース」のメール送信を実施している
といった、淡々と事実情報を羅列しただけでは、問題を発見できなくなってしまうのです。
2)あるべき状態を明確にするには
「原因のある問題」に関して、問題を発見する時には、まず、あるべき状態については意識せずに、ネガティブ情報をピックアップしようとお伝えしました。しかし、いずれ、あるべき状態を明確にしておく必要があります。
そのためには、解決すべきネガティブ情報をピックアップし、そのネガティブ情報を解消した状態として、あるべき状態を描くことになります。
例えば、わかりやすい例で説明しますと、ネガティブ情報「数学の成績が良くない」という場合には、「数学の成績が良くない」を解消した、あるべき状態「数学の成績が良い」を想定することになります。
今回の事例の場合では、あるべき状態の1例は次のようになります。
ネガティブ情報「海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている」に対しては、それを解消した、あるべき状態「海外市場向けサービス部門と国内市場向けサービス部門は、お互いに情報をオープンにしている」ということになります。
ただ、例題事例の場合には、他の情報も活用できますので「海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である」という情報を背景にすれば、あるべき状態を「海外市場向けサービス部門と国内市場向けサービス部門は、お互いにクレーム対応情報が共有されている」と想定する方が、より明確だと思います。
3)本質的問題の発見のための、他の方法
前項で『原因のある問題においては、その本質的原因を明らかにするための原因分析を実施します。そのためにはロジカルシンキングにおける、3つの原因分析法「論理ピラミッド構築」、「ロジックツリー展開」、「因果関係図作成」のいずれかが役に立ちます。』と紹介しました。そしてあなたと一緒に「「論理ピラミッド構築」を使って、事例の例題に取組んで参りました。
大抵の場合、「論理ピラミッド構築」を実施してみると役に立つので、『多くの断片的な情報が存在する場合には「論理ピラミッド構築」で整理すると宜しいですよ』と説明しました。
実は、他の方法(「ロジックツリー展開」、「因果関係図の作成」)でも本質的問題を発見することができる場合が多いということも、頭に入れておきましょう。
5.例題に取組んでみよう
さて、冒頭から一緒に例題に取組んで来ましたが、いかがでしたか。通常、問題解決というと10分や20分程度で終わるわけがありませんので、少しツカレタのではないでしょうか。
それでは、同じ例題について「本質的問題の発見」を「ロジックツリー展開」によって検討してください。全部の情報を使わなくても一向に構いません。解答例は、最後にご紹介します。
例題:下記は、あるメーカーにおいて海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当する部門で観察される状況です。この部門にはどのような本質的問題があるでしょうか。
- この部門では海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当している
- メンバーは毎日遅くまで市場対応(各国サービスマンからの顧客クレーム対応)に追われている
- 最近は海外にも新製品が次々と市場に投入され、市場で稼動している製品の数が年々増加している
- 海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である
- クレーム内容には設計起因の問題と顧客の使い方起因の問題が多い
- メンバーは平日だけでは対応しきれずに、休日も出勤しなければならず、身体を壊してしまった者もいる
- 新製品が出る度に市場から多くのクレームが寄せられる
- ここ数年メンバーは増えていない
- 海外のサービス拠点では、独自に考えたクレーム対応策を持って対応しているところもある
- メンバーは海外拠点のサービスマンへのサービス教育を実施する仕事も担当している
- メンバーには疲労感が見られ、とても生き生きと仕事をしている様子とは程遠い状況である
- 海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている
- 設計起因のクレームには設計部門の人にフィードバックして対応してもらっている
- 類似のクレームが多い
- クレームへの対応方法が決まるとメンバーは「サービスニュース」を作成し、メールに添付して各サービス拠点に送付している
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
まとめ
問題解決に関連して知っておきたい事柄
問題の定義は大事な事柄ですから、頭に入れておきましょう。
1)原因のある問題と原因のない問題がある
2)問題とは「現状(現在の状態)」と「あるべき状態」とのギャップである
3)問題解決プロセス
4)問題設定とは
課題形成プロセスに沿った問題の設定
問題の把握と情報収集、本質的問題の発見、課題化の3ステップで進めました。
1)問題を把握し情報収集する
-原因のある問題か原因のない問題(=課題)かを見極める
-(本質的問題を発見するために本格的に)情報収集する
2)本質的問題を発見する
3)課題化する
問題解決への取組みにおける付随する事柄
ここでは、「問題解決」には常に“目的達成志向を持って取組む”ことの重要性について再確認しました。
1)目的達成志向を持って取組む
2)あるべき状態を明確にするには
3)本質的問題発見のための他の方法
補足:論理ピラミッド構築の際のグルーピングについて
例題事例において、最初に幾つかの情報をグルーピングしました。他のグルーピングの仕方も可能ですが、グルーピングにおいても「問題を発見しよう」という志向をもって実施しますので、通常、グルーピングした事柄どうしの中で共通するものまたは関連性が高いものがまとまって集められます。しかし、10人の人がそれぞれグルーピングしたとすると類似ではあっても、10通りのグルーピングの仕方が提案される可能性があります。
もちろん、どれが正しいかなどということは言えません。それは同じ事柄に対しても、人によって解釈する意味あるいは感じる内容などが異なるものであり、また、どのような事柄を重要視するかに関しても異なる可能性がありますので、仕方のないことです。
実はそれでも構わないのです。その理由は、論理ピラミッドの頂点にあるメッセージは、原理的にはすべての最下位メッセージを包含しているわけです。なおかつ、重要なメッセージというのは、個人差によってどのグループに置かれることになっても「重みがある」、あるいは「元気が良くてトゲがある」ので、高い確度で上位に登場して来ることになるからです。
ただ、類似の問題を含む命題が別々のグループに置かれてしまうと「問題が薄まってしまう」可能性がありますので、いつも「問題発見志向的」に取組むことによって、できるだけ問題を抽出しやすくグルーピングすべきであることに変わりはない、とご理解いただきたいと思います。
ここからは、例題の解答例です。
解答例:ロジックツリー展開による本質的問題の発見
今まで取り組んでいただいた事例で、当初の収集情報に戻って考えます。当初の情報から、下記の問題がわかりますので、この問題の本質的原因をロジックツリー展開してみます。
- メンバーは増員もないまま、毎日夜遅く、休日までクレーム対応に追われ、疲労感が限界に来ている
このとき、他にも、以下の情報があることを掴んでいますので、「なんだか非効率なことをやっているぞ」と気づくと思います。
- 類似のクレームが多い
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
すると、次のようにロジックツリー展開できることがわかります。
何と、これで「クレーム対応業務を効率的に実施する仕掛けがない(仮説)」といった本質的原因が、仮説として登場して来ます。
仮説ですから、検証が必要になります。
そこで、再び、この仮説を裏付ける情報を収集すると、先の
- メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している
に加えて、
- クレームへの対応方法が決まるとメンバーは「サービスニュース」を作成し、メールに添付して各サービス拠点に送付している
- 国内サービス部門との間で、同じクレーム対応情報を共有できていない(海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている、海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である)
- 海外サービス拠点でのクレーム対応情報を活用できていない(海外のサービス拠点では、独自に考えたクレーム対応策を持って対応しているところもある)
が活用できますので、例えば、と、いくつかの事実情報が仮説を裏付けています。
つまり、この部門の抱える問題の本質的原因は、「クレーム対応業務を効率的に実施する仕掛けがない」ことであるということになります。
【参考】
「ロジックツリー展開」では、「論理ピラミッド構築」によって導かれた本質的原因に含まれていた「本部機能が推進すべき、」という修飾句が含まれていません。
このように、本質的原因というのは3つの原因分析法「論理ピラミッド構築」、「ロジックツリー展開」、「因果関係図作成」を活用すれば、大抵の場合は“本質”という意味では同じ結論を導くと考えられますが、分析法の特性上、少しずつ違いが生じてしまいます。
そういう意味では、無意味な違いを少なくするために、存在する事実情報を可能な限り活用して、目的達成志向で妥当な結論を導くように取り組むべきと思います。
この事例の場合は、「この部門では海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当している」という情報が存在しますので、「本部機能であれば、情報共有・活用の仕掛けを有効に働かせる役割があるはずだ」といった論理が成り立つことは容易にわかることでしょう。