1.問題解決に必須のアイディア創出
今、あなたの身のまわりでも、身近な地域社会においても、あるいは職場でも「何とかして欲しい」問題や「何とかしたい」問題に取り囲まれているのではないでしょうか。とは言っても、どうにもならないので「我慢している人」や、「そのまま成行きに任せている人」もいます。しかし、黙っていても始まらないと思い、自分で問題解決に取組む人もいます。
実際に、問題解決に取組んでみると、たとえ問題の本質が見え、問題の真の原因が明らかになったとしても、そこで明確化された本質的課題を解決するための有効なアイディアを創出し、具体的な方策として、それを実行しなければ、問題は決して解決しないということに気づきます。
そこで、この記事では、あなたが問題解決に取組む際に、問題の本質を明らかにし、課題化された段階における、その課題の解決策を立案(アイディアを創出)する方法について、簡単な例題にも取り組んでいただきながら、参考になる活用のポイントをご紹介して参ります。
あなたは、アイディアを創出するのが得意なタイプですか、それとも、まるでアイディアを発想するのが苦手な方でしょうか?
問題解決プロセスにおける後段「問題の解決」プロセスの第1ステップは「解決策の立案」ですが、せっかく、前段「問題の設定」において、課題が明確になったとしても、その課題の解決策が考えられなければ、その先に進むことができません。「解決策の立案」ステップでは、どんな手段を駆使しても課題の解決策となるアイディアを創出しなければならないわけですね。
あなたが、「アイディア創出は得意だ」というのでしたら、この記事はサラッと流し読みして頂いて結構ですが、「アイディア創出やアイディア発想については興味がある」あるいは「アイディア発想がどちらかというと苦手だ」という場合には、どうか真面目にお読みいただきたいと存じます。
ただ1つだけ、ご注意いただきたいことがあります。
いろいろなアイディア創出の方法がありますが、それぞれの方法を使おうという場合に、方法に縛られる必要はないという点を十分ご理解いただきたいということです。アイディア発想は基本的に自由なものであり、方法を逸脱することが効率的かどうかという側面があることは否めませんが、どんなに型破りでも宜しいのです。
2.アイディア創出におけるロジカルシンキングの役割
あなたは、巷で良く言われている右脳と左脳の働きについて、お聞きになったことがあると思います。通常、アイディア創出というと、多くの人の場合、創造思考を司る右脳の仕事と思われがちですが、実は論理的思考・ロジカルシンキングを司る左脳もアイディア創出において、大いに役割を果たしています。
ただし、正確に言いますと、ロジカルシンキングはアイディア創出に大いに役割を果たしますが、アイディアそのものを考えるのは、右脳です。では、ロジカルシンキングは問題解決に不可欠な思考ですが、解決策を立案するステップにおいて、ロジカルシンキングはどのような役割を果たしてくれるのでしょうか。
実は、ロジカルシンキングによる解決策立案のための基本的な道具立てはロジックツリー(フレームワークと表記する場合もあります)のみです。
この左脳により作成されたフレームワーク(枠組み)の存在が、右脳によるアイディア創出の助けになるのです。天才ならば別ですが、普通の人のアイディア創出の基本はまず論理的に考えることを優先し、論理的思考により概念形成を繰り返し、考え抜いた状況下で、アイディア創出することになります。
解決策の立案ステップでは、課題の解決策の基本方向に沿ったロジックツリー展開によって、アイディアを創出するための枠組み(フレームワーク)を作成することが、創造思考の助けになるのです。
そうです。ここでは、適切な上位概念を設定し、作成したロジックツリーの「フレームワーク(枠組み)を使って考える」ことになります。この記事→ロジカルシンキングにおけるフレームワークとは?フレームワーク思考で問題解決!でも紹介していますので、参考にしてください。
また、個々のアイディア創出においては、個人で進めても構いませんが、集団で思考するブレインストーミングによって進めると、多くの人の異質な発想どうしが刺激し合い・交じり合って、アイディアの創出が活発になるという確かな傾向があることも、頭の片隅に入れておきましょう。
3.解決策アイディアを創出する方法
それでは、ロジカルシンキングの役割に注目しながら、アイディア創出の方法についての枠組みとともに、個々の方法についてご紹介して参ります。
ただ、アイディア創出については、既に名称が付けられた幾つもの方法がありますが、本来的に自由であり、何ら制約や決まりもないため、日々新しい方法が提案されていると言っても過言ではありません。そのため、ここでは、解釈を含め、筆者の独断と偏見により、代表的なアイディア発想について多少触れる程度にしておきたいと思います。
以下に登場するアイディア創出の方法は、互いに排他的と捉える必要はなく、任意の組合せで複合的に活用しても構いません。
次の図は、これからご紹介するアイディア創出の枠組みと5つのアイディア創出の方法を一覧にした概要ですが、以下に順に詳しく説明して参ります。
1)論理思考的な観点に立つ
-1.目的・原点に立ち返る
現象や策にとらわれ、考える目的を見失うとどうでも良いアイディアから脱却できなくなってしまうものです。そういう場合、目的を再確認する、原点に立ち返ってみるといったことが役に立ちます。
あるべき姿や基本コンセプトを再確認し、脇道や途中の道筋にこだわらず、遥か遠くの目的地の方向にこだわることが大事です。
例えば、ある靴メーカーの失敗事例ですが、参考になりますのでご紹介しましょう。ある時期、若者向けのとても履き心地が良く、白地に黒の線が描かれた独特のスポーティなデザインのスニーカーが、人気商品でヒットしていました。
ところが、靴底本体の素材が素材メーカーの都合で入手できないという問題が発生したために、靴デザイナー達の検討により、別の素材を採用して作り直すことにしました。そこで、幾つかのアイディアについて検討したのですが、前商品がヒットしていたということもあり、主力デザイナーは靴底本体の素材以外は、形状的にも外観デザイン的にも前商品に瓜2つの靴を商品化するという案に拘りました。
しかし、販売してみるとあまり売れなかったのです。言うまでもありませんが、靴を購入するお客さんは実際に靴を履いてみて、自分の足に合うかどうか、履き心地はどうかなど確認してから購入するものですね。靴のサイズは自分に合ったものを選択できるかもしれませんが、履き心地はサイズを選べば自動的に決まってしまいます。実は肝心の履き心地が微妙に違っており、イマイチだったのです。
顧客が欲しい靴というものについて原点に立ち返って考えてみれば、このような失敗は防げたのではないでしょうか。
-2.本質を見直す
課題を表面的・短絡的に捉えようとせず、課題を明確に定義し、背後にあるテーマの本質を見極め、時には別の角度、異なる視点、別の立場から見直してみることが有意義な結果をもたらすということです。
過去の経験から自動的に発想したり、反応で答えを出すというのではなく、一呼吸おいて課題を定義し直し、本質的問題解決プロセスに沿って考えることも有効です。本質というのは、多くの場合、その問題・課題の根底にある法則や仕組みに関わる原理や意味を深く追求することによって見えてくるものです。
本質を捉えるということの意義は、ロジカルシンキングにおいては事実を重要視するということとも関係があります。多くの発明・発見は事実の鋭い観察に基づく場合が多いものです。万有引力の法則、アルキメデスの原理、ケプラーの法則など、いくつかの自然法則の発見はその典型例でしょう。
ある企業の若手社員が経験した出来事をご紹介しましょう。15年ほど前のことですが、めでたく第1希望の照明器具メーカーに入社した、男性社員は、更にラッキーなことに自分が最も望んでいた照明器具の開発部門に配属されたということです。
当然だと思いますが、最初は“明かり”の勉強をさせられたと聞きました。開発部門に配属されたその日に、上司から「君の知っている“明かり”にはどのようなものがあるか、書き出しなさい」とA4用紙を1枚渡されたそうです。真面目な彼は、次のような“照明器具”を書き出したそうです。あなたなら、どのように応えたでしょうか。
- 門灯
- リビング室内灯
- キッチン室内灯
- ダイニング室内灯
- 自動車ヘッドライト
- 自動車バックライト
- 自動車警告灯
- 自動車室内灯
- 船舶室内灯
- 飛行機内灯
- ・・・
営業部門に配属された社員なら、これでも通用するかもしれませんが、これから開発を担当しようという社員がこれではいけませんね。勿論、照明器具のメーカーですから、目的によっては悪くはないのですが、上司に目的を尋ねるべきでした。彼は、更に、バス車内灯、タクシー室内灯、展示室灯、街路灯・・・といった“明かり”を際限なく並べることが、あまり意味のない「作業」だと、その時は気がつかなかったそうです。
目的が提示されない設問がイジワルなのか、尋ねる必要を感じなかった新入社員がお粗末だったのか、何とも言えませんが、上司は、「目的を明確に意識すること」および「本質的な事柄に着目して考えること」を求めていたのだそうです。
上司は、下記のような、幾つも並べる意義のある“明かり”を挙げて欲しかったのでしょう。
- 白熱電球
- 蛍光灯
- LED照明
- ハロゲンランプ
- ネオン管
- 水銀ランプ
- ・・・
これらは正に、“明かり”の原理に着目し、本質を考えてそれぞれ異なるものを抽出していますね。いずれも電気エネルギーに基づく“明かり”ですが、本格的に“明かり”を挙げる目的であれば、それぞれ発光原理の異なる太陽、オーロラ、炭火、蛍、燐光、高温物体・・・と、まだまだ、沢山あります。
なお、“明かり”に関するアイディア創出については、上記の「-1.目的・原点に返る」、「-2.本質を見直す」および次項を含む、論理思考的観点に基づくアイディア創出の方法をすべて活用したアイディア創出事例で紹介しています。
-3.概念に沿う:アイディア創出の基本
概念に沿ってアイディアを発想することはアイディア創出の基本となります。
論理的思考に基づいてフレームワーク(=枠組み)を設定し、概念に沿ってアイディア創出するという方法は、ロジカルシンキングの分野においてはフレームワーク思考と呼んでいますが、アイディア創出における最もオーソドックスな方法です。
世の中で使われている多くのアイディア発想は、上位概念としての枠組みから、あるいは同一概念・類似概念のものからヒントを得て考えるというものです。例えば、
- TRIZ(旧ソ連軍の特許審議官アルトシュラーが膨大な特許情報を分析した結果より導き出した一連の発明の法則40種の思考支援ツール)
- KJ法(文化人類学者である川喜田二郎氏が1960年代に考案した発想法)
- 属性列挙法(米国ネブラスカ大学のロバート・P・クロフォード氏が1930年代に開発した発想法)
- マインドマップ(英国のトニー・プザンという人が提唱した思考・発想ツール)
などが典型的なアイディア発想法として有名です。
ここでは、改めて紹介いたしませんが、それぞれの名称で検索すれば、これらの発想法を紹介したサイトが幾つも見つかり、詳しく紹介されています。
ロジカルシンキングが概念形成を豊かにし、アイディア創出を支援する例
それでは、本アイディア創出方法の範疇で、ロジカルシンキングの提供する概念形成が、アイディア発想に如何に有用であるかをご理解いただけるように、1例として、「属性列挙法(特性列挙法とも言う)」と関連付けてご紹介しましょう。
筆者は、ある時、20人前後の新人コンサルタント達の研修時にアイディア発想の演習(宿題)に取組んでいただいたことがあります。
課題は「用済み新聞紙の利用法をできるだけ多く挙げよ」という単純なものでしたが、その時に、最高点を獲得したコンサルタントがたまたま属性列挙法を使って、アイディア発想していました。回答に記述されていた利用法アイディアの主要部分は以下のようなもので、利用法として9種類の属性概念が掲げられていました。
>元の素材のまま利用する
>重さを利用する
>体積を利用する
>厚さを利用する
>可燃性を利用する
>吸水性を利用する
>防音性を利用する
>容易に切断できることを利用する
>薄く敷いて利用する
>丸めて利用する
勿論、例えば、>吸水性を利用する の下位には、具体的な>靴の乾燥剤、吸水スポンジといった利用法が挙げられておりました。
上記のアイディア創出について、ロジカルシンキングでは、どう支援してくれるというのでしょうか。ここで具体的な利用法までは並べませんが、ロジカルシンキングが提供する概念(=考える枠組み)に焦点を絞って説明します。
まず、上記のアイディアをグッと睨んで、MECE(ダブリなく、モレなく)を意識しながら、これらの上位概念を考えます。
>①利用した後でも元の素材のままである
>重さを利用する
>体積を利用する
>厚さを利用する
>吸水性を利用する
>防音性を利用する
>容易に切断できることを利用する
>薄く敷いて利用する
>丸めて利用する
>①利用した後では元の素材のままではない
>可燃性を利用する
>①利用した後でも元の素材のままであると>①利用した後では元の素材のままではないとで、MECEに分割していることに注目しましょう。同じ〇数字、①は、互いにMECEな関係にあることを示していますが、これらの2つの上位概念による枠組み以外にはないということがおわかりいただけると思います。
今度は、丁寧に表現しながら、もう少し分けて行きます。(FYI:スマホでご覧になっている場合は、ここでは画面を横向きにすると見やすいでしょう。)
>①利用した後でも元の素材のままである
>②元の素材を切断しない状態でも利用できる
>③シート状の形態を変えないでも利用できる
>重さを利用する
>厚さを利用する
>吸水性を利用する
>防音性を利用する
>薄く敷いて利用する
>③シート状の形態を変えて利用する
>くしゃくしゃに丸めて体積を利用する
>筒状に丸めて利用する
>折って利用する
>折り畳んだ厚さを利用する
>箱状に折って利用する
>包んで利用する
>②元の素材を切断した状態で利用する(>容易に切断できることを利用する)
>①利用した後では元の素材のままではない
>可燃性を利用する
>くずして液体と練合せできる特性を利用する
更に、上位概念と下位の事柄との整合を考えながら、可能な限りMECEに展開して参ります。概念の形成は、具体的な事柄(この場合、用済み新聞紙の利用法)、例えば、>パッキング材、>物入れといった例から、>くしゃくしゃに丸めて体積を利用する、>箱状に折って利用するなど上位概念を考えても宜しいですし、下記のように、上位概念の方、例えば、>⑥遮断する特性を利用するから、下位概念>熱を遮断する特性を利用するという具合に、下位の概念を作成しても構いません。
>①利用した後でも元の素材のままである
>②元の素材を切断しない状態でも利用できる
>③シート状の形態を変えないでも利用できる
>④重ねた状態で利用する
>重さを利用する
>厚さを利用する
>④重ねない状態でも利用できる
>➄素材が持つシート状の特性を利用する
>薄く敷いて利用する
>覆いとして利用する
>すき間で利用する
>➄素材が持つ他の特性を利用する
>⑥遮断する特性を利用する
>音を遮断する特性を利用する(防音性を利用する)
>空気の流れを遮断する特性を利用する
>熱を遮断する特性を利用する
>光を遮断する特性を利用する
>電流を遮断する特性を利用する
>⑥その他の特性を利用する
>吸水性を利用する
>③シート状の形態を変えて利用する
>くしゃくしゃに丸めて体積を利用する
>筒状に丸めて利用する
>折って利用する
>折り畳んだ厚さを利用する
>箱状に折って利用する
>包んで利用する
>②元の素材を切断した状態で利用する(>容易に切断できることを利用する)
>切断したままで利用する
>更に折って利用する
>①利用した後では元の素材のままではない
>可燃性を利用する
>くずして液体と練合せできる特性を利用する
これで、元の脈絡のない9種類の利用法(青色文字)概念に新たに11種類の利用法(赤色文字)概念が加わり、概念だけですが、体系づけられた状態で表されています。この先の具体的利用例は容易に考えられます。例えば、>②元の素材を切断した状態で利用する、>更に折って利用するという枠組み概念においては、>紙飛行機、紙帽子、折り紙細工、紙容器、紙コップ、紙筒・・・と幾つもの利用例を発想することができます。
このように、ロジカルシンキングを活用すると、アイディア創出のための概念は、どのような概念であっても論理的にMECE(ダブリなくモレなく)に形成することができますので、概念形成が豊かなものとなります。このことが、フレームワーク思考が、アイディア創出における最もオーソドックスな方法として位置付けられる理由です。
更に、新聞紙という素材そのものに焦点を当てて「そもそも新聞紙は何からできているか」と考えた上でアイディア発想すれば、もっと多くの新たな可能性のあるアイディアの枠組みが発想できるでしょう。
なお、「属性列挙法」では、特に根拠もなく一旦設定した属性を変更してみたり、異なる属性を組合せたりして発想するという展開もあり、次項の創造思考的観点のアイディア創出としての側面もありますが、説明は省略します。
「KJ法」においても同様ですが、アイディアのグルーピング後において、上位概念・下位概念の形成とMECEな展開を繰り返すことにより、具体的アイディア例と共に、豊かなアイディア概念が次々と創出できることがわかります。
2)創造思考的観点に立つ
アイディアそのものすべてが、創造思考によるものですが、発想の原点として、何も、考え方までロジカルである必要がないという観点に立って、最初から創造思考的な発想法があります。
-1.自由度を拡大する
方向・位置・時間・組合せ・追加・削除などあらゆる変更可能な自由度を使って思考するというものです。典型的には「オズボーンのチェックリスト」などがこの範疇に該当します。
「オズボーンのチェックリスト」という発想法は、ブレインストーミングを考案したA・F・オズボーンによる発想法ですが、例えば
- Adapt-応用:他からアイデアが借りられないか
- Combine-結合:組み合わせてみたらどうか
- Magnify-拡大:大きくしてみたらどうか
- Minify-縮小:小さくしてみたらどうか
- Modify-変更:変えてみたらどうか
- Put to other uses-転用:他に使い道はないか
- Rearrange-置換:入れ替えてみたらどうか
- Reverse-逆転:逆にしてみたらどうか
- Substitute-代用:他のものでは代用できないか
といった、自由度を使って思考するものです。
この中で、「Adapt-応用」という発想などは、アナロジー(類比推論)とも重なり、多くのアイディアが創出されており、わかりやすい発想法です。身近な事例では、例えば、パソコンの画面上にある“ごみ箱”や通販サイトに見られる“買い物かご”などがリアルな世界とのアナロジーから発想されたものと考えられます。
アナロジーからは時には発想の飛躍などを試み、大胆に大きく飛んで、思いつき程度のことを遥かに越えようと、「あり得ないこと」を発想する自由度がありますので、たまに、とんでもないアイディアが登場する可能性があります。
きっと、1960年代に初の人力飛行を成功させたと言われるイギリスの大学生グループは、鳥や昆虫の飛ぶ姿を見て、オレ達も大胆に大きく飛んでみようと発想し実現させたのかも知れませんね。
-2.すべての制約条件をはずす
自分に染みついている世の中・業種・業界・自社・組織の常識・従来の枠組み、会社の現状・事情・文化・風土、自分の立場・役割、成功・失敗体験、偏見、先入観、固定観念、既成概念、ビジョン、コンセプトなどの一切を取り払い、オールゼロクリアして考えてみることです。
社内力学や根回しに馴れきった会社の中で、何か新しいアイディアを発想しようとしても、社内のしきたりや決まり事、規範、ルール、社風などによって、フィルタリングされてしまうものです。優れたビジョンであっても、進むべき方向を示すコンセプトであっても、それらが拘束的に働く限り、アイディアの創出にとっては阻害要因となり得るのです。
しかし、不思議なもので、人間は拘束されるのを嫌がる反面、すべての物事から解放され、一切をオールゼロクリアすると、自由であることは想像できますが、自由に考えることができるのかどうかわかりません。
アルキメデスが「アルキメデスの原理(流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さと同じ大きさで上向きの浮力を受ける)」を発見した時には風呂のお湯が溢れる状況、ニュートンが「万有引力の法則」を発見した時も、リンゴが木から落ちる状況を見てヒントにしたと伝えられていますから、一切がオールゼロクリアされた状態ではなかったと考えられます。
無の境地か、現実の世界に存在しながら、霊的な別次元の世界に居るような瞑想状態とも違うようですが・・・。きっと何か閃くことがあるのでしょうね。
4.思いついた時に記録しておく
人によっては、構想力の豊かな人が何人も身近にいるという場合やアイディアを発想することが面白くて仕方がないという人もいます。しかし、一方で、「さあ、アイディアを考えよう」と身構えてみても、必ずしもこれと言ったアイディアが創出できるとは限りません。
異質な人が集まると、互いに気づかないことが結構な刺激となって、普段考えてもいなかった事柄が湧いて出て来るという傾向もあるようです。
あなたにはそのような機会がありますか?もし、変な人どうしが「あーでもない」、「こうでもない」と議論百出するような場面に身を置く機会があれば、そのような機会を大いに活用しましょう。
実際に、「これは、すごいぞ!」と思うようなアイディアは、デスクに向かって思考している時ではなく、風呂に入っている時とか、寝床について入眠前、ふとテレビの画面を見ている時など、あるいは、電車の中から外の看板を眺めている時、ブラブラ歩いている時などに思いつく場合が多いようです。
著しい業績をあげている、ある小さな会社の社長さんは、外出中にふと良いアイディアを思いつくのだそうです。すると、ボイスレコーダーをポケットから取り出して、その時々に思いついたアイディアを録音しておき、1か月くらい後に、たまったアイディアを録音・再生して聞き直すのだそうです。
真面目に検討すると、100件のうち3件くらい、有力なアイディアがあり、実際に試してみて行けると判断したものを実現し、そのうちの何割かの成功例が業績に結び付いているということです。
こうした方法なら、あなた1人でも採用できそうですね。
5.フレームワークを作って発想してみよう
それでは、最もオーソドックスなアイディア創出の方法として、フレームワークを作成して次の課題に取り組んでみましょう。
フレームワークと具体的な用途例はこの記事の最後の部分に載せておきます。
まとめ
- 問題解決における解決策立案のためのアイディア創出の基本は、まず論理的に考えることを優先し、ロジカルシンキング・論理的思考により、概念形成を繰返し、考え抜いた状況下で、解決策アイディアを創出することである。
- アイディアを創出する方法には、大きく分けて次の5つのタイプがあり、これらは複合的に活用しても良い。
- 1)論理思考的観点に立つ。
- -1.目的・原点に立ち返る。
- 現象や策に溺れず、目的を再確認、原点に立つ。
- あるべき姿や基本コンセプトを再確認し、遥か遠くの目的地の方向にこだわる。
- -2.本質を見直す。
- 課題を明確に定義し、背後にある本質を見極める。
- 本質的問題解決プロセスに沿って考える。
- 問題・課題の根底にある法則や仕組みに関わる原理や意味を深く追求する。
- 事実を重要視し、綿密に観察・見極める。
- -3.概念に沿う。
- アイディア創出の中核である。
- 上位概念から、あるいは同一概念・類似概念のヒントから考える。
- -1.目的・原点に立ち返る。
- 2)創造思考的観点に立つ。
- -1.自由度を拡大する。
- あらゆる変更可能な自由度を使って思考する。
- アナロジーからの飛躍など大胆に思考してみる。
- -2.すべての制約条件をはずす。
- 自分に染みついている一切をオールゼロクリアして考えてみる。
- -1.自由度を拡大する。
- アイディアは思いついた時に記録しておく習慣を持つと良い。
補足
「右脳、左脳」と一般化して記述しましたが、すべてのひとの脳がこのように役割分担しているとは限らないということです。左利きの人には右脳・左脳の働きが逆の場合が多く、ひと全体では1 割程度で左右脳の役割が反対、中には両側に左右脳の働きを持つケースもあると言われています。
また、本文で左脳が右脳を支援してアイディアを創出するという説明を致しましたが、左脳の役割として、単にアイディア創出の支援だけにとどまらず、左脳が担う、もう少し重要な側面について補足させていただきます。論理的思考(ロジカル・シンキング)は創造思考(クリエティブ・シンキング)によるアイディアを検証し、裏付け・説得性を持たせ、最終的結論としての本質・解・価値の妥当性を高めるという役割も担っています。
右脳は短時間でピンからキリまでの、どうでも良い無駄とも言える、思いつきレベルのアイディアから、極めて高い価値のあるアイディアまでを創出してくれますが、左脳が関与しないアイディアは、洞察された高い価値を持つアウトプットになるとは限らないでしょう。
解答例:クリップの用途を考えるためのフレークワーク作成によるアイディア例
前提条件
- 検討対象とするクリップは鉄・アルミ・真鍮・プラスチック製とし、特に明示しない場合はいずれも含むものとする
- 2つ以上の利用方法の組合せは除外する(例:魚の形に切った紙をクリップで挟み、磁石でクリップを付着し魚つり遊び用途に用いる)
- フレームを明確化したことにより明示された用途の更にその先に考えられる用途については言及しない(例:チェーン→落下防止、縄梯子、暖簾、牽引リード・・・)
第1階層 | 第2階層 | 第3階層 | 第4階層 | 第5階層 | 第6階層 | 第7階層 | 第8階層 | 用途例、内容説明 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
クリップの用途にはどのようなものがあるか | 元のクリップ形状を加工せずそのまま生かして使う | 1つで | クリップの持つ「挟んでとめる」機能を用いる | 挟む対象物の方に特別の機能がない | シート状の物を挟む | シート状の物を留める | 紙束ね用具(通常のクリップとしての用途) | |
シート状の物に印をつける | 本などのページを折って目印を付ける代わりとして、クリップでページを挟む | |||||||
繊維状の物を挟む | ヘアピン、束線具 | |||||||
挟む対象物の方に特別の機能がある | シート状の物が袋になっている | 封止具(封筒・プラスチック袋類の封をする) | ||||||
繊維状の物が繋がっている | 結束具(結び目代わり:糸などを簡易的につなぐ) | |||||||
クリップの持つ「挟んでとめる」機能を用いない | クリップの持つ「リングにつなげる」機能を用いる | 対象物とつなぐ | リングは対象物の穴に通っているだけ | 持ちにくい物・汚れた物などをクリップのリング部分で保持して、持ちやすいクリップを持つような場合に適用する | ||||
対象物をつないだ上、更にクリップを保持して機能させる | フック(リングに束ねた物をフックに架けて保持する) | |||||||
ボタン代わり(クリップの一端は布地に糸で括られ、全体はボタン穴の外に置かれボタンとして機能する) | ||||||||
対象物どうしをつなぐ | クリップのリングを通して穴の開いたシート状の物ないしはリング状の物を束ねる用具(束ねたメモ用紙、キーホルダーをイメージ) | |||||||
クリップの持つ「リングにつなげる」機能を用いない | 丸みのある形状を利用する | 手で使用して怪我などしない扱いやすさを利用する | おはじきの玉などちょっとした遊び道具として用いる | |||||
対象物に傷をつけにくいという特徴を利用する | しごき用具、汚れの除去、描画用具(対象物によっては文字、絵を描くことができる)として利用できる | |||||||
その他の特性を利用する | 重さを利用する | (特定の重さを持つ)錘として利用する | ||||||
磁石に付く性質を利用する | 鉄製クリップを磁石に付く金属片として用いる | |||||||
大きさを利用する | (特定の大きさを持つ)物差し・スペーサーとして利用する | |||||||
2つ以上で | クリップの持つ「リングにつなげる」機能を用いる | クリップどうしをリング機能でつなぐ | 1次元状につなぐ | 同一形状で任意の数だけつなぐことができる性質を利用して | 知恵の輪遊びやチェーン化して利用(鎖、鎖樋=rain chain、凧の足など)する | |||
金属光沢・色彩・規則性を利用して | 装身具・アクセサリー(イヤリング、ネックレス、ブレスレット、ブローチなど) | |||||||
2次元状につなぐ | ネット状のものとなる | フレキシブルな金属ネット、プラスチックネットとなる | ||||||
3次元状に組立てる | 立体的形状となる | 装身具・装飾品・プラモデル・立体模型・針金細工の材料として用いる | ||||||
クリップのリング機能でクリップのほかに対象物をつなぐ | 金属光沢・色彩・規則性を利用して | 途中に玉やリングを使用してつなぎ、上記にバリエーションを加え、装身具・アクセサリー(イヤリング、ネックレス、ブレスレット、ブローチなど)として | ||||||
クリップの持つ「リングにつなげる」機能を用いない | 複数のクリップの位置関係を固定して配置する | 規則的に配置する | 1次元状に配置する | 文字・絵画・ディスプレイ・芸術作品・装飾品作成のための材料として用いる | ||||
2次元状に配置する | ||||||||
不規則に配置する | 1次元状に配置する | ディスプレイ・芸術作品・装飾品作成のための材料として用いる | ||||||
2次元状に配置する | ||||||||
3次元状に配置する | ||||||||
複数のクリップの位置関係を固定して配置しない | 丸みのある形状を利用する | プラスチック製クリップをランダムに布袋に入れて、枕の籾殻代わりに使用する | ||||||
複数の集合が空隙を内包するという特徴を生かして | プラスチック製クリップをランダムに布袋などに詰めて、クッション材や断熱用具として使用する | |||||||
容器に入れて動かすと音が出る性質を利用して | 音源(擬音発生用具)として利用する | |||||||
元のクリップ形状を加工(状態変化を含む)して使う | 少なくとも一部分は棒状素材の断面形状を保持したまま使う | 素材の内部特性を生かして | 素材の弾性特性を利用して | 元の形状の弾性変形範囲を超えて任意の形状に変えて | コイル状に変形させて | 金属製クリップでも弾性範囲は狭いが、狭い範囲でもスプリング・ばね・螺子(螺旋化)として機能させることは可能である | ||
その他の形状に変形させて | ||||||||
素材の電気伝導特性を利用して | 金属製クリップを電線として使う | |||||||
素材の磁性体特性を利用して | 鉄製クリップを磁化して磁石として使う | |||||||
素材のその他の内部特性を利用して | 素材の熱伝導特性を利用して | 金属製クリップを熱伝導体として使う | ||||||
素材の外部特性を生かして | 切断過程を伴わない | 金属製クリップのリング形状をほどいて | 端部の棒状部分を曲げて | 端部を折り返して | つり針状の物架け(フック)として用いる | |||
端面が物に触れにくい形状に変えて | 耳かき、にきび取りなど皮膚に直接使用する用具として | |||||||
端部の棒状部分を曲げないで | 剛性を備えた金属の棒状素材である特徴を生かして | 金属(鉄・アルミ・真鍮)の細棒・治具、針金、ゲージ | ||||||
硬さのある細棒という特徴を生かして | ケガキ用具、描画用具の他に鍵開け用具としての用途もあると考えられる | |||||||
端面に丸みを持たせて | 金属製・プラスチック製の楊枝(ようじ)として | |||||||
端面の円形形状を生かして | 同径の穴を塞ぐ器具として、柔らかい物に円形の穴を開ける器具、印をつける器具として | |||||||
金属製クリップのリング形状をほどかず | 端部の棒状部分をだけを曲げて | 端面が物に触れにくい形状に変えて | より安全な、枕の籾殻代わり、クッション材(この場合は金属製でも可能) | |||||
端部の棒状部分を曲げないで | 端面に丸みを持たせて | ヘアピン(この方が髪の毛には優しい) | ||||||
切断過程を伴う | 元のクリップ形状のままで切断する | 1個のクリップから、「つ」の字型に2箇所で切断する | 3個のゴム式パチンコ玉を作成することができる | |||||
同上の上、更に先端部分を尖らす | 釣り針に利用できる | |||||||
元のクリップ形状とは異なる形状にして切断する | 直線的形状に切断し、端面を尖らす | 虫ピン・武器・釘などに利用できる | ||||||
棒状素材の断面形状を保持しないで使う | 状態変化を伴わない | 裁断して | 金属(鉄・アルミ・真鍮)粒を鋳物原料として、プラスチックペレットを成形材料として | |||||
板状に延ばして | 金属板ないし薄板(アルミホイルなど)として利用する | |||||||
粉末化して | 金属(鉄・アルミ・真鍮)粉・花火の材料、プラスチック粉 | |||||||
状態変化を伴う | 熱融解させて | 型を用いず | 金属塊・合金材料、プラスチック塊・プラ混合材料として | |||||
型を用いて | 金属鋳物・プラ成型物 | |||||||
気化させて | プラスチック製クリップであれば、燃焼可能ガスとなる、金属製は金属蒸気として蒸着膜の形成に使える | |||||||
化学反応させて | 酸素と反応させて | 酸化物を生成する | 金属酸化物原料、プラスチック製の場合はCO2発生源としても使える | |||||
熱を取り出す | プラスチック製の場合は燃料・灯火材として使える | |||||||
光を発生させる | 金属製、プラスチック製とも酸素ガス中の燃焼により激しい光を発生させることができる | |||||||
水分・塩分と反応させて | 鉄製クリップをぬか釘として鉄分を利用する、錆生成物として利用可能 | |||||||
その他の物質と反応させて | 金属製は金属化合物原料、プラスチック製は炭化水素原料として利用できる |