第2章 問題解決の主役:続きページ(4)→2.4.2 解決アイディアを出して絞り込む(解決策立案プロセス)
2.4.1 本質的問題・課題を明確化する(課題形成プロセス)
問題解決における最初のステップである課題形成プロセスでは,問題(すなわち「あるべき状態」と「現状」とのギャップ)に関係がある情報を収集し,それらを分析し整理・統合して,「要するに問題・課題の本質はどういうことなのか,解決策の基本方向はどうなるのか」を明らかにして課題化する.
言い換えれば,どのような問題に対しても課題形成プロセスが意図するところは目的達成のための本質的解決策の基本方向を明らかにする点にあるのだ.このプロセスにおいては目的に沿ってあくまでも事実または誰もが認める事柄に基づいて思考する,論理的思考が大いに活躍する.
問題解決の全プロセスを通して最も大事なことは,取組みの出発点として高い視点と広い視野で「問題を正しく捉えること」である.問題を正しく捉えていない限り,正しい解決策の方向に進むこと,すなわち正しい解決につながる可能性は極めて低い.
なお,問題解決においては,常に問題・課題の本質に注目して取組んで行くが,そのことは必ずしも派生して生じている問題や付随する課題については取組む必要がないということではないのでご注意願いたい.派生して生じた問題であっても,その影響の大きさ・緊急性などの状況により,当然,解決すべき問題として正しく捉える必要がある.
例えば,原因のある問題の例で製品の欠陥により,火災が発生する恐れがあるという問題においては,これから出荷する製品の欠陥を解決しても,市場で既存の製品が使われている限り,火災を防止できるわけではない.
更に,対応を誤り顧客の信用を失墜し,他の製品の販売にまで影響が及ぶことによって,売上が低迷し,キャッシュ・フローの不足状態に陥っているといった問題が生じているという場合もある.運転資金のショートにより倒産の危機にあるというのなら,流動資金の確保を緊急課題として取組まなければならないことになる.
問題を設定し情報を収集する
では,「問題を正しく捉える」ための要件は何だろうか.問題の定義からはまず2 つの点が挙げられる.「問題とは現状とあるべき状態との間のギャップである」ことに対応して「現状を正しく認識する」ことおよび「上位目的を理解し,問題の背景やゴールとなるあるべき状態・目標を正しく捉える」ことが欠かせないということがわかる.
そのためには問題に関連する情報を収集し,問題の状況を正しく表現しなければ始まらない脚注2-4).情報収集は2段階で進めると良い.まず,問題・課題テーマに関連する情報をざっと集めてみると,いろいろなことが見えてくるはずだ.最初に問題の状況全体を把握するための基本情報を収集し問題を仮設定しておく.
どのような目的で問題解決に取組むのか(何が問題であるのか,あるいはどのような課題なのか)その背景も含め,ポイントとなる基本情報を収集するのだ.こうして収集したとりあえずの基本情報により,「現状」と「あるべき状態」を正しく把握し,適切な視点と着眼点に基づいて,「問題」を設定,記述しておくことである.
「問題」が仮設定できたならば,今度は「問題」に関連する情報の本格的収集である.目的達成(問題解決)に関連しそうな「現状」情報,および「あるべき状態」に関わる情報を必要十分な範囲で本格的に収集する.必要があれば,前提条件を設定し,「問題」記述を見直し修正する.
情報収集のポイントは下記の通りである.情報収集などと言うと,つい他に目が向き勝ちであるが,第1 に自分自身の体験・知見を客観的視野に入れること,および現場や現物を直接把握することを忘れてはならない.
1) 実態を重視する
- 事実情報を収集するという点では,人から聞いた話やインターネット検索等通信媒体を通した情報には真の情報源との間に観察・選択・解釈・推定など事実を歪める可能性がある過程が含まれるという認識に立つ必要がある.常に実態を把握するよう努力し,可能な限り現場や現物を直接観察して事実情報を感じ取るということを重視すべきである.頭だけでなく,身体,手足,五感を働かせることを忘れてはならない.
2) 集められる情報でなく,集めるべき必要な情報を収集する
- いつも自分達が接している情報には2 つの懸念される問題がある.その1つは把握している情報が客観的でない場合があり,特に自分達の実態を正しく認識できていない恐れがあるということだ.もう1つはいつも自分達が接している情報には“ 慣れっこ”になっている傾向があるため案外狭い範囲であり,部分的にも浅い場合が多いという点だ.
- 集められる情報の範囲では肝心な有用情報を欠く恐れがある.目的そのものを高い視点で捉え,それを達成するために広い視野で集めるべき情報を十分に考え,関係のありそうな情報までを視野に入れて収集すべきである.その際,肝腎なところには定量的な情報が必要な場合が多いが,定量情報に囚われすぎて,多種多様で有意義な定性情報の収集に手が回らなくなってしまうようでは困る.
- どのような情報を集めるべきであるかに関しては論理的思考により整理することが可能である.ただし,鋭い勘やひらめきによって感覚的に思いついた情報が決め手になるようなこともあるので,論理的に整理した情報範囲に限定する必要は全くない.
3) 情報収集のシナリオを描いて収集する
- 一旦さらっと情報収集して感触を掴んでからでも良いが,本格的に腰を落ち着けて目的と背景を正しく理解し,収集する情報および情報源を明確にした上で,情報収集に入る.特に実態を正しく認識するための情報収集には「本音」が収集できるような仕掛けが必要である.
- 情報収集の際には全体を押さえてから,細部へ視点を移して行く.途中で驚くような情報を発見しても細部の深みに入り込んで全体を見失わないように注意する.
- 収集した情報は事実情報であることの裏づけを確認し,情報の出所を明記しておくことを忘れないようにしよう.引用資料の出典を明記しておくことは著作権問題だけでなく,フォローの必要な場合にも不可欠となる.
参考:良く利用される情報源・情報の所在
- 現場,現物,顧客,当事者を含む関係者,組織内外の周囲の人々,関係先企業,専門家など
- 政府刊行物サービス・センター
- 政府資料等普及調査会
- 政府各省庁の統計・調査データ(総務省統計局,特許庁など)
- MDB(マーケティング・データバンク:日本能率協会総合研究所)
- 各工業会(日本自動車工業会,日本機械工業会など多分野に多数)
- 民間調査機関による調査資料
- 広くインターネット検索
収集した情報に関しては,事実として活用可能な問題の状況を正しく表現しておくことが大事である.特に,必要な水準の定量的な情報は,情報収集の目的に合わせ単なる羅列ではなく情報の意味合いを含めて分析し,明確に記述しておく必要がある.
状況を適切に表現するのは意外に難しいものであるが,データをグラフ化して考える,問題状況を記述しては見直すといったことを何度か行い,納得できる表現になるまで繰返すと良いだろう.その過程で状況把握の質が深まり,本質が見えて来ることも多いものだ.
ただし,しばしば「数字が一人歩きしている」などど言われるように,事実情報をデータ化する際に不可避的に含まれることになる前提条件の把握を疎かにしないように注意する必要がある.
うっかりすると,例えば,ある製品群の生産高がいつの間にか市場規模あるいは単体製品の生産高に置き換えて扱われていたり,若年女性層の一時的需要が成人女性全体の今後の需要と捉えられたまま,検討が進められるといったミスが発生することがある.
本質的問題・課題を発見する
収集した情報を分析することによって,本質的問題を明らかにする.本質的原因を明らかにすること,または課題の本質を明らかにすることを「本質的問題の発見」と言う.
「原因のある問題」に対しては問題を引き起こしている「本質的原因」を明らかにする.問題の根本的な解決のためには本質的な原因に対して手を打つことが欠かせないのだ.本質的でない原因に対して手を打っても暫定的な効果は期待できるかもしれないが,必ず問題が未解決のまま存在し続けることになる.
本質的原因を明らかにするためには,収集した事実情報に基づいて論理的思考による分析アプローチを実施する.その場合の論理的思考によるアプローチの仕方には大きく分けて3通りの方法がある.
それらは第3章以降で詳細に勉強するが,問題のタイプに応じて
- 現象型の問題:論理ピラミッドの作成(第3 章論理ピラミッドを構築して活用する)
- 発生型の問題:ロジックツリーの作成(第4 章論理ツリーに展開して活用する)
- 構造型の問題:原因と結果の因果関係図作成(第5 章因果関係の解明に活用する)
といったいずれかの方法を使って,またはそれらを組合せて本質的原因を明らかにする.問題のタイプがどのタイプに該当するのか,どうしてもわからないという場合にはすべての方法で試してみれば良い.
特にどのようなタイプの問題に対しても「論理ピラミッドの作成」という分析アプローチの方法は何が問題であるかを明らかにするために役に立つ.問題のタイプにマッチしない方法を使っても,容易ではないかもしれないが,目的達成志向で臨む限りは,本質的原因を明らかにすることは可能である.
この段階での検討の際には「目的達成志向で」,つまり,「原因発見志向で」取組むのである.論理的思考による分析アプローチを進める過程で,情報の整理が行われ,問題の状況が見えるようになってくるはずだ.
時には事実情報の不足により,本質的原因であると考えたことがどうしても仮説の域を出ないこともある.そういった場合には更に仮説を裏付ける情報収集や再現実験を行うなど原因の特定化に向けて,発散と収束を繰返す.
仮説として明らかにした「本質的原因」について,それを解消した場合に「問題が解決する」ということが確認できれば,次の課題化プロセスに進むことができる.
「原因のない問題」に対しては,「本質的原因を明らかにする」必要がないだけで,課題の本質を明確に捉えるという点での分析アプローチは同じである.明確でない課題の本質を明確にする場合には,現象型の問題発見アプローチで活用する,論理ピラミッドを構築する方法が有効である.
明確でない課題も現状とあるべき状態に関する収集情報を「目的達成志向で」整理することによって,課題の本質が見えて来る.例えば,「提案資料の作成」といった個別課題であれば,説得のポイントを明確にすることが可能だ.
「次期商品戦略立案」といった課題であれば,「市場側から見た核心ニーズは何であり,それには他事業で採用している自社の得意な技術が生かせる」といったことが確信を持って捉えられるようになる.
また,複合的な課題,例えばプロジェクト課題をはじめ,「集客を伴う展示会開催準備」とか「トレーニングを要する業務システムの導入」などは,ロジックツリーを用いて主課題を要素に分解した上で,各個別課題の本質となる要点を明確にする脚注2-5).
課題化して解決策の基本方向を明確にする
本質的原因が明らかになれば,その「課題化」は容易である.原因を命題化し,単に裏返して課題表現に書き換えるだけである.
例えば,ある機器の焼損事故が起こった本質的原因は「電源コネクター部に外部から水分が浸み込んで短絡した」ことが明らかになったとする.その場合には「電源コネクター部に外部から水分が浸み込んで短絡しないようにする」という課題表現に書き換えることが可能だ.
「原因のない問題」に対しても捉えた課題の本質から,解決策の基本方向が考えられることになる.本来の課題に対して,例えば,「提案にはこの要点を明確に伝えることが不可欠である」,「次期商品はどのようなポイントが重要であり,これこれの技術を採用して開発する」といった基本方向が明確に定められる.
つまり,「原因のある問題」,「原因のない問題」のいずれに対してもこのプロセスのゴールは「要するに問題・課題の本質はどういうことなのか,解決策の基本方向はどうなるのか」を明確にして記述することである.
複合的な課題は,ロジックツリーを用いて要素に分解した個別課題のそれぞれについて,その本質に注目しながら解決策の基本方向を明確にする.同時に課題に応じて,必要な場合にはコンセプトやQCD(Quality, Cost, Delivery) の定量的な目標と達成基準や確認方法をも明確に設定しておく.
第2章 問題解決の主役:続きページ(4)→2.4.2 解決アイディアを出して絞り込む(解決策立案プロセス)