第4章 論理ツリーへの展開:続きページ(2)→4.1.5 ロジックツリー作成には2つのアプローチ
4.1.3 合理的な前提条件を設定しよう
本章で扱う「論理展開」に限らず,私達が日常的実務において直面する全てのテーマや課題がそうであるが,それら問題解決に取組む場合には最初に必要に応じて「前提条件(定義なども含む)を明確にしておく」ことをお勧めしたい.特に「論理展開」の場合には展開方向の自由度は大変に大きく,考えようによっては際限のない可能性までを包含しているので,どこかで線を 引いておくことが必要になる場合が多い.
例えば,本節のはじめのところで,図4.1ロジックツリー「食べ物を口に入れるやり方」の一例を紹介した.このロジックツリーでは第3階層はMECEではなく,例えば,「>食べ物を口に投げ入れて貰う」といった方法が欠落していることに気がつくであろう.
実は「食べ物を口に入れるやり方」という背景・目的の不明確な命題である限り,「>人に食べ物を口まで運んで貰う」というような方法の重要度が不明なのだ.もし,起き上がれない病人を念頭に置いた課題であれば,少なくとも無視することができない1つの方法となるはずである.
そこで,考えなくてはならないことは「前提条件の設定」である.図4.1のロジックツリー課題「食べ物を口に入れるやり方」の検討に際しては,例えば,
「食べ物を口に入れるやり方」に関して,人や動物の助けを借りないものとする
といった前提条件の合理性を確認した上で,設定して取組むべきだということである.
前項の例題で簡単に紹介した「需要者が供給者に代金を支払う方法を挙げる」という課題においても,例えば,
前提条件:
- 人身および人間行為・生物・生活用品・食料品等の提供による支払いを除外する
- 複数の支払方法の組合せによる支払いは除外する
- 特に記載しない部分においても,前払い・後払い(ツケを含む);一括払い・分割払いのいずれもあり得るものとする
という具合に設定しておくことが必要であろう.
要するに適切な「前提条件」を設定することによって「課題を明確にすることができる」,「課題関係者間の誤解を防ぐ」,「どうでも良いことに無駄なエネルギーを使わず,課題の核心に集中できる」などのメリットが実感できることになる.
課題を歪めてしまうような不合理な前提条件は論外であるが,適切な前提条件(含:定義)は「課題を明確にし,思考を集中させてくれる」ので大変有用なのだ.
ただ,どのような前提条件を設定すべきかについては,課題に取組む最初の段階で考えられるとは限らない.課題に取組み,ある程度進んだ段階になって初めて,何らかの明確にしておかなくてはならない状況に直面するという場合も多いものだ.
そのような状況に直面して適切な前提条件の設定や定義の明確化の必要性に気づく度に,思考水準が向上すると考えて良いだろう.
4.1.4 ロジックツリーはExcel表記が実用的
論理ピラミッドにしてもロジックツリーにしてもどのように表記しなければならないといった決まりはない.このページでは前章で扱った論理ピラミッドについてはピラミッドらしく上に頂点の箱があり,その下に頂点の箱を支える箱が矢印でつなげられ,更にそれらを支える箱が下に置かれという具合に最下段に土台の箱がある構図で表記してきた.しかし,一方で,1~2行の命題を階層化してリストとして並べることによって表記していた場合もあった.
ロジックツリーはここまでの幾つかの図に示したように,左から右へ展開,つまり左側に頂点の箱を配置し,その右に次の第2階層の箱,その右に第3階層の箱という具合に表記する場合が多い.また,前項のところで例示したように論理ピラミッドと同様に階層化してリストとして並べる表記も可能である.
しかし,筆者の経験からは,ロジックツリーに関する限り,左から右へ展開して表記することを強くお勧めしたい.その理由は,以下に述べるように,ひとことで言えば実用的だからである.
ロジックツリーを作成して論理展開した際に各ツリーの各最下位命題に相当する箱の中身は,頂点にある命題の具体的な本質原因であったり,具体的な解決策であったりするわけである.それらは,例えば,定量的な事実との突合せをするとか,解決策を選択するための評価・検証を実施するなど大なり小なりのコメント対象になるものである.
したがって,ロジックツリーの最下位に置かれた箱の更に先に,それらのコメントを記載する空間がどうしても必要になるのである.その場合,ロジックツリーを上から下へ展開する方法と左から右へ展開する方法の2通りが考えられるが,ビジネスの世界では文を横書きにして記述するのが普通なので,実用上は左から右へ展開する方法に絞られることになる.
以上のようなわけで,最下位の箱に対応して少なくとも1行分のスペースを確保するように図4.4のようなイメージのロジックツリーを描くことを想定していただきたい.なお,この図のツリーは紙面の都合で4階層までしか示されていない.
(FYI:スマホでご覧になっている場合は、このような図や表については、画面を横向きにすると、多少は見やすいと思います。)
こうすると,表計算ソフトを使って,例えば,Excelシートでロジックツリーを表として描けば,表4.2の如く
容易にロジックツリーの展開表記が可能で,しかも実用的であることがわかる.ツリーというのは検討している途中で分岐あるいは階層を増やしたり,減らしたりすることが普通だ.その場合にも容易に対応できる.更に,欠くことができない表の右側の備考や評価・検証等コメント記入欄(筆者は評価スペースと呼んでいる)も自動的に確保できる.
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