なぜAI時代にこそロジカルシンキングが必要なのか?

1.AIの活用に必須なロジカルシンキング

世の中にAIが登場してから、それほど長い時間が経過していないにもかかわらず、さまざまな分野での活用が進んでいます。あっという間に活用が進んだという印象を受けている人が多いと思います。

あまりにもAIが気楽に応答してくれることを経験した多くのビジネスパーソンは、自身の論理的思考力を磨く必要性を実感できなくなってきているようにも思われます。

確かにAIに課題を与えれば、即座に回答が得られますが、ビジネスに関わる基礎となる論理的思考力を身に着けておくことは、日常的な思考の基本となるところであり、必須のことと思います。

物事の事象の本質を正しく観察し、記述するといったことや、それらの事象を通じて目的に適した論理を組み立てるといったことは、日常的なビジネス行為であり、ビジネスパーソンが何でもAIに依存するだけでは単なる作業者に陥ってしまいます。

AIは強力なツールですが、万能ではありません。単なる知識を求める場合のような単純な問いかけであれば心配に及びませんが、少し高度な事柄になると、問いかける人間側のロジカルシンキング力によって大いに結果が左右されてしまうということを認識しておかなくてはならないのです。

補足:ロジカルシンキングが不要な場合も

但し、「AIの活用に必須なロジカルシンキング」という表題を掲げて、ここまでのように説明して参りますと、多分に誤解が生ずる可能性もありますので、お断りしておきたいことがあります。実は「AIの活用には必ずしもロジカルシンキングが必要とは限らない」場合も多々あります。

例えば、AIに対して人間側が単に物事の説明を求める時や目的を持って何かヒントになることを求める場合、更には何らかのアイディアを求めるケースなどの際には、必ずしも論理的な結論としての回答である必要がない場合があります。

このトピックでは、ロジカルシンキングが必須の質疑を対象としている一般的ケースにおいて話を進めますが、人間側に論理的思考が必要な理由は、主に以下の3点に集約されます。

1)「問い」を立てる力の源泉となるロジカルシンキング

AIは「答え」を出すのは得意ですが、ビジネスにおける「真の課題」を見つけることはできません。
例えば、AIへの問いかけには

  • 何が問題・課題なのか?
  • どの変数を操作すれば状況が変わるのか?
  • そもそも、この分析に何の意味があるのか?

といった問いかける人間側の思考が欠かせないのです。
目の前の状況を正しく観察・記述し、AIに正しく命令を下すプロセスこそ、ロジカルシンキングそのものです。

2)「出力の妥当性」を検証する審美眼

AIは時として、もっともらしい嘘をつきます。相手に合わせて答える知恵も持ち合わせており、適当なところで済ませてしまうことも得意です。また、時には論理の飛躍がある回答を出すこともあります。
ですから

  • AIの回答に矛盾はないか?
  • 根拠と推論は確かなのか?
  • MECE(漏れなく、ダブりなく)の観点から見て、検討材料は揃っているか?
  • 切り口は適切なのか?

といった確認は欠かせません。
これらを適切に評価し、回答を実務で本当に役立てるレベルまで磨き上げるのは、人間側の論理的思考による「監査」が不可欠です。

3)ステークホルダーへの「納得感」と「責任」

ビジネスは、論理だけで動くわけではありませんが、論理がなければ人は動きません。
「AIがこう言ったから」という理由では、説得力に欠け、プロフェッショナルとしての説明責任を果たしているとは言えません。AIの導き出した結論を自分の言葉で再構築し、文脈に沿って他者に説明・説得するためには、強固な論理的基盤が必要となります。

それでは、改めて、ビジネスの世界でAIを活用する際に、有用な論理的検証方法を以下にまとめておきましょう。

2.AI時代を生き抜く「論理的検証(ロジカル・チェック)」5箇条

AIがもっともらしい回答を出したとき、私たちは以下の5つの視点で「思考のメス」を入れる必要があります。

1)【前提】固有の制約条件に合致しているか?

AIは一般論で答えがちです。AIは、インターネット上の「平均的な正解」を出すのが得意ですが、あなたの目の前にある「個別の事情」を無視することがあります。その回答は、「今ここにある固有の前提条件」を反映していますか?

  • チェック方法: 業界、企業文化、予算、納期、人間関係といった「隠れた制約」が無視されていないか、「業界の商習慣」「社内リソース」「予算規模」「期限」など、入力時に伝えていない(あるいはAIが軽視した)制約条件と矛盾していないかを確認する。
  • 論理の急所: 前提が違えば、どんなに綺麗な論理構成も「机上の空論」になります。 どんなに優れた戦略も、前提条件(Constraints)が違えば実行不可能な「絵に描いた餅」になります。

2)【構造】MECE(漏れなく・ダブりなく)が保たれているか?

AIの提案は、一見多角的に見えて、実は似たようなことを言い換えているだけの場合があります。 AIの回答は箇条書きで整然として見えますが、実は同じことを言葉を変えて繰り返していたり、肝心な視点が抜け落ちていたりします。

  • チェック方法: 解決策の切り口に沿った枠に大きな「漏れ」はないか、または、同じカテゴリーの重複で水増しされていないか、提示された項目をグループ化(グルーピング)したとき、横並びの階層が揃っているか、検討すべき「他の切り口」がないかを検証する。
  • 論理の急所: 漏れがあればリスクを見逃し、重複があればリソースを浪費します。 構造(Structure)に穴があると、リスクの検討漏れや、重複した作業によるコスト増を招きます。

3)【因果】「AならばB」のつながりに飛躍はないか?

AIは「相関関係」と「因果関係」を混同したり、論理を飛躍させたりすることがあります。 時には、相関関係しかないものを因果関係として断定したり、途中のプロセスを省略して結論に飛びついたりします。

  • チェック方法: A(原因)をやれば本当にB(結果)になるのか? その間に必要なステップが抜けていないか、「なぜその結論になるのか?(Why So?)」「その施策で本当にその結果が出るのか?(So What?)」を、各ステップごとに厳しく問い直す。
  • 論理の急所: 「風が吹けば桶屋が儲かる(シングルチェーンロジック」的な飛躍を見抜けないと、実行フェーズで失敗します。 因果関係が不明瞭な計画は、実行段階で「想定外の事態」に対応できなくなります。

4)【根拠】事実(Fact)と推論(Opinion)が分離されているか?

AIは「もっともらしい嘘」をつくことがあります。また、古いデータに基づいた推論を最新の事実かのように語ることもあります。

  • チェック方法: 結論を支える事実やデータは実在するか、そのソースは信頼できるか、結論の根拠となっている「数字」や「事例」を疑い、必要に応じて一次ソースを確認する。AIの「解釈」にバイアスがかかっていないかを見る。
  • 論理の急所:  根拠(Evidence)が崩れれば、その上に積み上げた論理はすべて瓦解します。

5.【批判】あえて「反対の立場」から見て妥当か?

AIはユーザーに迎合しすぎる傾向(イエスマン効果)があり、提案のデメリットや副作用を過小評価することがあります。

  • チェック方法: あえて反対の立場(上司、顧客、競合)から見たとき、この論理は論破されないか、「もし自分が競合他社なら?」「もし予算を半分に制限されたら?」といった批判的視点で、あえて反論をぶつけてみる。
  • 論理の急所: 批判的思考(クリティカルシンキング:ロジカルシンキングの範疇)を経ない論理は、多角的なステークホルダーが存在する現実のビジネスの場では通用しません。

補足

  • AIの普及によって「自分で考える手間」が省けるようになりましたが、AI時代だからこそ、論理的思考(ロジカルシンキング)の価値は「希少資源」として高まっています。
  • 単なる「作業者」で終わるか、AIを使いこなす「指揮者」になれるかの境界線は、まさに論理的思考力の有無にあります。

まとめ

  • AIは強力なツールであるが万能ではない。論理的思考力を身に着けておくことは、AIを適切に活用するために必須のことである。
  • ビジネスの世界でAIを活用する際に、有用な論理的検証方法として5項目のチェック方法がある。
    • 前提条件が適合しているか
    • MECEか
    • 因果関係は妥当か
    • 事実に基づく根拠があり、推論とは識別されているか
    • 反対の立場から見て、反論に耐えられるか
  • 論理的思考に基づく日常的なビジネス行為において、ロジカルシンキングを身に着けていないビジネスパーソンが何でもAIに依存するだけでは単なる作業者に陥ってしまう。