1.要するにどういうことなの?
現代のビジネス・パーソンは、日常的にも報告書や実験レポートを作成するなどの機会が頻繁にあります。時にはお客様へのアピールや上長への説得といった業務に取組む場合や、何が問題なのかを明らかにする場合などもあるでしょう。
あなたの場合はいかがでしょうか。例えば、普段、ちょっとしたメモ程度の出張報告書や実験レポートを書くことなどがあると思いますが、そのような場合に、わかりやすく伝わり易い内容のロジックや文書を作成することができていますか。
ロジカルシンキングで演繹法や帰納法を学ぶと、そのような文書の作成が比較的容易になります。そこで、この記事では、既に演繹法と帰納法を学んだ人が、それらを使って簡単な文書や論理を作成するために役に立つ論理ピラミッドの構築についてご紹介します。
演繹法と帰納法を自在に組み合わせて論理を構築することは、極めて応用範囲が広く、大変有用なのですが、どういうわけか活用する人が少ない様に感じます。有能なコンサルタントは多くの場合、問題の全体状況を把握するとか、本質を明らかにするといった目的で、最初に論理ピラミッドを構築して、全貌や本質を掴んでから、検討に入ると言われています。
論理ピラミッドの構築は論理的思考の定義そのものであり、決して難しいものではありませんので、ポイントを掴んで、普段から気軽に活用していただきたいと思います。論理ピラミッド構築について、もっと詳しく体系的に学ぶには論理思考テキスト講座「論理ピラミッドの構築」または論理思考ビデオ講座「論理ピラミッド構築」をご覧ください。
なお、演繹法の具体的な説明についてはロジカルシンキングで演繹法の使い方!実例に学ぶ妥当性の判定法を、帰納法の具体的な説明についてはロジカルシンキングで帰納法を使いこなす!概念形成力を磨け!をご参照ください。
はじめに、論理的思考の定義を確認しておきましょう。
論理的思考は次のように定義されています。
1)事実や誰もが認める事柄に基づいた根拠によって,
2)結論に至る展開の筋道につながりを持ち,
3)目的に合った明確な結論を導出する
ための思考である.
本記事では、この定義に沿った論理ピラミッド構築について学んで参ります。
では、具体例の方が実感が湧きますので、少し、仕事の場面を想定して考えてみましょう。
あなたには、最近評判の精密機器を製造しているM社国内工場を見学する機会がありました。あなたは、今、帰路の新幹線車内で出張報告メモを書いているところを想定してください。例えば、上長への報告としてメモ書き程度の出張報告メールを作成するといった場合に、あなたはどのような事柄を書きますか?
ボーっと思い出しながら、次のように見たこと、聞いたこと、感じたことなどを書くかもしれませんが、上長は「ああ、そうか、わかった」と了解してくれるでしょうか。
この工場では、人影がまばらで、組立てに使われる部品は、自動的に工程内に投入されており、各工程にはそれぞれロボットが設置されて、組み立てが行われていました。完成品に対しては、CCDカメラが製品にあるデジタル表示をチェックすることで最終検査をしていました。
この程度のメモでも、状況は伝わると考えられますが、内容は見てきた事柄の単純な羅列になっています。せっかく帰納法を学んでマスターしているのですから、活用しましょう。
複数の観察事実から結論を導く、帰納法を使って、「要するにどうだったの?」という結論めいた事柄があれば、多少はマシになります。例えば、
<結論>この工場では、部品の投入から組立て、完成品検査まで一貫して自動化されており、殆ど人手をかけていなかった。
<根拠1>組立てに使われる部品は、自動的に工程内に投入されていた。
<根拠2>各工程にはそれぞれロボットが設置されており、組み立てが行われていた。
<根拠3>完成品に対しては、機械が製品にあるデジタル表示器をチェックして最終検査していた。
<根拠4>工場内には人影がまばらだった。
という具合に、「<根拠1>・・・<根拠3>」などはいちいち書く必要ありませんが、何らかの報告などの作成においては、いつも「要するにどういうことなのか」を常に念頭に置いて考える癖をつけておくと宜しいですね。
きっとあなたは帰納法を習得していたおかげで、このレベル感の報告メモまでは作成できました。それでも「これでいいや」ではもったいないと思います。実は帰納法に加えて「演繹法」も活用することで更に上司をうならせたり、他の人を出し抜くものにできるんですね。
それには帰納法、演繹法を組み合わせた論理ピラミッドの構築が必要となりますが、そのあたりを、続いて見て行きましょう。
2.演繹法と帰納法を使った論理ピラミッド構築
すべての論理は演繹法と広義の帰納法を組み合わせて構成されています。別の言い方をしますと、目的に合った適切な内容の演繹法と帰納法の任意の組合せによって、1つの結論を導くことができると言えます。
1)論理ピラミッド構築
再び、先の話に戻りましょう。続きです。
出張に行けば、必ず出張報告を書くことになるわけですから、予め「結論をひとことで言う」ことを念頭に置きながら、見たり、聞いたり、質疑応答する習慣を持っておくと、役に立ちますね。
例えば、途中で「おや?全工程が自動化されているのか」といった仮説が思い浮かぶ場合もあると思われます。同時に、想定した仮説は本当に妥当なのかといった疑念も湧いて参ります。すると目的を持った質問が可能になります。
あなたはさすがでした。工場見学時に、途中で気が付いて念のための質問をしておりました。各工程を順に確認する過程で、「全工程が自動化されている」ことを想定し、外部から見えない工程については質問によって「最も難しい〇〇工程も自動化されている」こと、つまり、「確かに全工程が自動化されている」ことが確認できていましたね。
そうであれば、もう1歩踏み込んだ報告メモが作成できたはずですが、どうして先の帰納法による報告メモ程度で留めたのでしょうか。あなたは本来であればどのような報告メモを作成すれば良かったのでしょうか。
ここまでを振り返りますと、
- 各工程を観察する過程で、帰納法の結論として使えそうな、ある仮説を想定する
- その仮説の検証に必要となる事実を確認するための質問をする
- 更に確証を得て、その帰納法による結論を確定させる
まず、これを基本として、先の報告メモを作成したわけですね。
このままでは、単に、帰納法で「この工場では、部品の投入から組立て、完成品検査まで一貫して自動化されており、殆ど人手をかけていなかった」と観察事実をまとめて結論としただけで終わってしまいます。
ここから先は、帰納法で得た結論を使って、演繹法を活用して更に1段階上の結論を導くと宜しかったのです。
例えば、誰もが認める<大前提>「全工程が自動化されていれば、労務費の大幅な削減が実現できているはずである」を用いて、演繹法の結論を導くことが可能ですね。すると、例えば、出張報告メモは、「この工場で製造されている製品の労務費は大幅に削減できていることになる」といった、一段階上の結論を導くことができたはずです。
この事例は論理ピラミッドで表現すると次のように表記できます。
<結論>この工場で製造されている製品の労務費は大幅に削減できていることになる
<大前提>最も難しい〇〇工程を含む完成品検査まで全工程が自動化されていれば、労務費の大幅な削減が実現できているはずである
<小前提:既出>この工場では、部品の投入から組立て、完成品検査まで一貫して自動化されており、殆ど人手をかけていなかった。
<根拠1>組立てに使われる部品は、自動的に工程内に投入されていた。
<根拠2>各工程にはそれぞれロボットが設置されており、組み立てが行われていた。
<根拠3>完成品に対しては、機械が製品にあるデジタル表示器をチェックして最終検査していた。
<根拠4>工場内には人影がまばらだった。
この程度の結論を導き出せるように演繹法と帰納法を活用する練習を積んでおくと宜しいでしょう。演繹法は大前提が明確であれば、明快で強力な結論を導出することができますので、論理的な説明部分における最上位の結論の導出に使うと効果的です。
改めて、この論理構成を眺めてみると、全体として、最下層である底辺に複数の根拠となる命題があり、その上の階層では<小前提>となる中間命題に集約され、<大前提>と一緒になって最上位層には1つの結論というピラミッド形状になっていることがわかります。
はじめの論理的思考の定義、
1)事実や誰もが認める事柄に基づいた根拠によって,
2)結論に至る展開の筋道につながりを持ち,
3)目的に合った明確な結論を導出する
まさにこれそのものですね。
通常、論理の構成は、演繹法だけであっても、帰納法だけであっても構いませんが、上記は演繹法と帰納法の組合せによって出来上がっています。
2)文書化の際に留意すること
ところで、通常は報告書に論理ピラミッドや<大前提>、<小前提>などの論理構成を書くことはないと思います。文書にするのが普通ですから、文書化について説明しておきましょう。
作成した論理ピラミッドを文書化する際には、通常、演繹法だの帰納法だのといったことを記しませんので、少しばかり、留意する点があります。特に演繹法部分をすべて文書にすると、記述に、大前提、小前提および結論のそれぞれの主部と述部が2回ずつ、重複して登場することになりますので、工夫して適度に省略する方がすっきりします。
工場の「全工程自動化」については質問で確認したが、外観から見えた範囲での具体的な様子は下記の通りであった。
- 組立てに使われる部品は、自動的に工程内に投入されていた。
- 各工程にはそれぞれロボットが設置されており、組み立てが行われていた。
- 完成品に対しては、機械が製品にあるデジタル表示器をチェックして最終検査していた。
- 工場内には人影がまばらだった。
ここでは、演繹法が関係する最初の1文は、<小前提>と<結論>の述部を繋いだ文で構成し、他は省略しています。先の帰納法による報告メモと比較して、観察事実は同じですが、冒頭に「工程の自動化」だけでなく、「労務費の大幅な削減の実現」といった結論が書かれていて、多少はインパクトのある報告メモになっていますね。
3.論理ピラミッドの構築方法
演繹法と帰納法を任意に組み合わせても良いと言われても、簡単には行かないかもしれませんので、演繹法と帰納法を自然に取り込める論理ピラミッドの構築方法について考えてみましょう。
論理ピラミッドによる論理構築、つまり論理ピラミッドの作成のためのアプローチの仕方には基本的にトップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがあります。
トップダウン・アプローチは、当初から結論が明確で確たる根拠がある程度存在する場合に進めやすい論理構築方法です。
しかし、「始めに結論ありき」で論理構築したときにどうしても根拠不十分という場合があります。その際には不足している根拠を再度捜し求めるか、あるいは使える根拠だけに基づいた最上位命題となるように修正して完成させる必要があります。そうしないと根拠のないことを主張していることになってしまいます。
一方、結論がどうなるのかわからないが、確かな関連情報がいくつも存在しているという場合もあるでしょう。そのような場合には、存在する情報の確かな根拠に基づいてボトムアップで結論を構築することができます。しかし、ボトムアップ・アプローチにおいても「もう少し明確なことが言えないか」というときがあるものです。
その際には不足の根拠を情報収集することによって、より確度の 高い結論を構築することができる場合があります。このように基本的なアプローチの方法としては、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがありますが、現実的には両方を使って上位・下位の命題間を往き来して完成させることが多いでしょう。
では、易しい例題に取組んでみましょう。
例題:G地区漁協におけるウニの養殖事業の現状は下記の通りですが、要するにどのようなことが言えるでしょうか。
- G地区漁協では、海水と淡水が混ざりあう沿岸部の汽水湖を利用して、25年前からウニの養殖に取組んで来た
- 塩分濃度など環境の変化に常に気を遣い、雑食性のウニに、地元の海岸に打ち寄せられる上質の昆布だけを与え、うまみ成分の豊富なばらつきの無い高品質のウニが生産されている
- G地区では以前は漁民の大半が冬の出稼ぎで生計を立てていた時期もあったが、今では、ウニ養殖が新しい産業となり出稼ぎも減り、技術や経験を受け継ぎたいという若い世代も増えてきている
- 天然養殖ウニの生産は、まだ、産業的規模が小さく、17軒の漁業従事者が養殖に取組んでいるに過ぎない
- ウニの養殖は国内での前例がほとんど無く、手探りで進められてきたが、試行錯誤を積み重ね、近年ようやく、口に入れると雑味がなくとろりとした濃厚な甘みの「天然養殖ウニ」生産に成功した
- 「天然養殖ウニ」は天然ウニの倍の値段で取引される極上品として、東京築地に直送され銀座の高級寿司店などで重宝されている
最上位命題で「どのようなことが言える?」と問われている例題ですから、ボトムアップ・アプローチで、進めて行くしかありません。
1)まず、幾つかのグループに分けます。
A.G地区ウニ養殖への取組み状況
- G地区漁協では、海水と淡水が混ざりあう沿岸部の汽水湖を利用して、25年前からウニの養殖に取組んで来た
- G地区では以前は漁民の大半が冬の出稼ぎで生計を立てていた時期もあったが、今では、ウニ養殖が新しい産業となり出稼ぎも減り、技術や経験を受け継ぎたいという若い世代も増えてきている
- 天然養殖ウニの生産は、まだ、産業的規模が小さく、17軒の漁業従事者が養殖に取組んでいるに過ぎない
B.ウニ養殖の技術的成功状況
- 塩分濃度など環境の変化に常に気を遣い、雑食性のウニに、地元の海岸に打ち寄せられる上質の昆布だけを与え、うまみ成分の豊富なばらつきの無い高品質のウニが生産されている
- ウニの養殖は国内での前例がほとんど無く、手探りで進められてきたが、試行錯誤を積み重ね、近年ようやく、口に入れると雑味がなくとろりとした濃厚な甘みの「天然養殖ウニ」生産に成功した
C.G地区産養殖ウニの魅力
- 「天然養殖ウニ」は天然ウニの倍の値段で取引される極上品として、東京築地に直送され銀座の高級寿司店などで重宝されている
2)次に、グループ毎に上位命題を作成します。
A.G地区ウニ養殖への取組み状況:地区漁協では、まだ産業規模は小さいが、天然養殖ウニの生産を産業化し、後継希望の若者が増えるほどまでに至った
B.ウニ養殖の技術的成功状況:手探りの試行錯誤の上、塩分濃度への注意、昆布飼料への拘りなどノウハウを確立し、うまみ成分の豊富な高品質の天然養殖ウニの生産を成功させた
C.G地区産養殖ウニの魅力:下位命題そのままでOK
3)今度は、たった今作成した3つの命題の上位命題=最上位命題を作成します。
最上位命題:G地区漁協では、極上品として高く評価される高品質の「天然養殖ウニ」作りのノウハウを獲得し、まだ規模は小さいものの、産業創出までに至っている
ボトム情報に、例えば、事業規模を伺うことができる定量的な数値があると、もっと充実したメッセージになると思います。
1)説明型:説明、事実のまとめを述べる一般的なタイプ
演繹法と帰納法を使って構成する一般的な型で、前出の「出張報告メモ」の事例は、このタイプです。データに基づいて言えることを1つのプレゼンテーション・シートにして提示する場合などにおいても、しばしば使います。
例えば、簡単な一例としては、次のような何らかのデータをグラフにして、データに基づいて1つの最上位メッセージを作成するといった場合です。通常、先に概略的なグラフを作成してから考えます。
例題:次の「家計調査(2人以上の勤労世帯における、1人当たり家計収支の状況)」データから、どのようなことが言えますか。
西暦(年) | 実収入(円) | 消費支出(円) | 非消費支出(円) | 支出に占める非消費支出の割合 |
---|---|---|---|---|
2000 | 159,873 | 97,130 | 25,097 | 0.21 |
2001 | 157,474 | 95,786 | 24,710 | 0.21 |
2002 | 154,264 | 94,628 | 24,631 | 0.21 |
2003 | 150,375 | 93,572 | 24,110 | 0.20 |
2004 | 152,784 | 95,298 | 24,541 | 0.20 |
2005 | 151,614 | 95,231 | 24,112 | 0.20 |
2006 | 153,271 | 93,362 | 24,569 | 0.21 |
2007 | 153,264 | 93,756 | 25,002 | 0.21 |
2008 | 154,851 | 94,182 | 26,518 | 0.22 |
2009 | 151,086 | 93,020 | 26,331 | 0.22 |
2010 | 152,696 | 93,348 | 26,606 | 0.22 |
2011 | 149,166 | 90,304 | 26,202 | 0.22 |
2012 | 151,610 | 91,776 | 27,339 | 0.23 |
2013 | 153,096 | 93,325 | 28,496 | 0.23 |
2014 | 152,871 | 93,751 | 28,300 | 0.23 |
2015 | 155,065 | 93,032 | 29,026 | 0.24 |
2016 | 155,449 | 91,325 | 28,990 | 0.24 |
2017 | 159,349 | 93,450 | 29,673 | 0.24 |
<結論=最上位命題>近年、世帯1人当たりの収支状況において、実収入・消費支出に目立った増加が見られない中で、非消費支出(直接税+社会保険料)は年々増加し続けている
<中間命題>実収入・消費支出には目立った増加が見られない
<根拠:棒グラフ>実収入はここ3年ほど僅かに増加しているものの、2000年頃の水準にとどまり、全体として目立った増加に至っていない
<根拠:棒グラフ>過去10年以上、消費支出は横ばい傾向であり、増加が見られない
<中間命題>非消費支出(直接税+社会保険料)は年々増加し続けている
<根拠:棒グラフ>非消費支出(直接税+社会保険料)は2000年~2017年の間に明らかに増加している
<根拠:折れ線グラフ>2005年以降、支出に占める非消費支出(直接税+社会保険料)の割合は少しずつ高くなり続けている
上記のプレゼンテーション・シート例は、1つのグラフに示されたデータに基づいて、特徴的な事柄に焦点を当てて帰納法による説明をしているだけの例です。2つ以上のグラフを使って、演繹的な論理を組み立てることも可能です。
2)評価型:事柄に対する自分の評価を述べるタイプ
この評価型というタイプは、<大前提>に評価の基準を置き、評価の基準を満たしているか否かを示す<小前提>とセットにして結論を導く、演繹法の形式に相当します。
例えば、わかりやすい事例としては、次のような論理ピラミッドです。
<結論>風力発電は次世代のエネルギー源として採用可能である
<大前提>次世代のエネルギー源は、有害物質を排出せず、枯渇せず、どこにでも存在し、低コストで供給できるという条件を満たすなら、採用可能である
<小前提>風車を使った風力発電は、次世代エネルギー源の採用条件を満たしている
- 有害物質を排出しない
- 枯渇しない
- どこにでも存在する自然の風を利用できる
- 火力発電並みの低コストで供給できる
おわかりになると思いますが、
- 次世代エネルギー源は、Aという条件を満たすなら、採用可能
- 風車の風力発電は、次世代エネルギー源のAという条件を満たしている
- だから、風車の風力発電は次世代のエネルギー源として採用可能
という構成になっています。
「この製品は自社の次期商品として採用できる」、「提案の方法であれば子供でも容易に使える」といった、応用はいくらでも考えられます。
4.演繹法を使わずに相応の説得力のある論理ピラミッド事例
説得力のある提案や主張には必ずしも必然的な結論を導く必要があるというわけではありません。帰納法や演繹法を使うもの以外にも、相応の説得力のある倫理ピラミッドがありますのでご紹介しておきましょう。
次のような2つのタイプがありますが、いずれも広義の帰納法に該当します。予め、ある目的の命題を設定しておき、ちょうど「空欄」を埋めるように、目的に合った命題を考えて、主張を構成するという姿になっています。
どちらも目的がはっきりした命題の空欄ですから、考え易い点にメリットがあります。
1)主張型:説得する、人を動かす主張を述べるタイプ
何らかの提案や主張を述べる際に、Why(何故そのように主張できるのか)とHow(どのようにしたら主張を実現できるのか)を示す2つの命題を配置することによって、結論=提案・主張に説得力を持たせる論理構成です。
WhyとHowですから、必ずしも演繹的な結論というわけではありませんが、相応の説得力があります。演繹法が明示的に使われていない代わりに、論理的には「Why(主張の理由)とHow(主張の具体的な実現方法)を提案されたら、受入れるべきである」といった隠れた大前提が存在するものと理解しておけば宜しいと思います。
例えば、
<結論:主張>国内と海外の各サービス部門が、それぞれ独自に顧客向けサービス情報を作成・公開しているが、ネットワーク上で情報を一元化して共有化すべきだ
<Why>国内と海外の各サービス部門が、それぞれ独自に顧客向けサービス情報を作成・公開しており、業務が2重に実施されていて非効率である
<How>国内と海外の各サービス部門は、いずれかが管理するネットワーク上で、顧客向けサービス情報を共有化する
2)提言型:提案・提言・アドバイスなどを述べるタイプ
この論理構成は、上記1)主張型と基本的には同じで、Whyを主張の「必然性」、「効用」に分け、それにHowの「実現性」を加え、3つのサブメッセージ・コンセプトを設定するというものです。
<結論:提案>あなたは、いずれ業務にロジカルシンキングを活用して成果を挙げることになるので、今から戦略的に論理思考力を磨いておいた方が良い
<Why1:必然性>ビジネス・パーソンである限り、誰でも論理思考力が求められている
<why2:効用>論理思考力を磨いておけば、業務で成果を挙げることができる
<How:実現性>今から、戦略的な取組みによって論理思考力を磨くことが可能だ
ご参考→戦略的なトレーニング方法で「ロジカルシンキング力」を身につけよう!
5.論理ピラミッド構築の演習問題に取組んでみよう
次の出来事全体を読んで、「Yさんにはどのようなことが求められているか」、3階層程度の簡単な論理ピラミッドを作成して表現してください。
解答例は、本記事の最後に載せてあります。
最近、Yさんは人生で初めて、ある新組織のリーダーに任命されました。その新組織というのは、この度大幅な組織変更に伴い、新たに発足した1つの組織で、Yさん以下30人ほどのメンバーで構成されていました。
母体であった旧組織の前任リーダーから、次期リーダーを託されていたYさんは、ちょうど「自分もそろそろリーダーを任されてみたい」と思っていたところでしたので、人事部門から打診を受けたYさんは、自分から率先してリーダーを引き受けたのでした。Yさんは身の引き締まる思いと同時に嬉しさを感じながら、今まで以上に張り切って仕事に励んでいました。
しかし、新組織が発足して半年が経過した頃、ある部下から「Yさん、みんな忙しく仕事をしていますが、この組織、大丈夫なんですか?」、「他グループから、お荷物組織なんて言われてますよ。」という声が聞こえて来ました。他の部下からも「ちゃんと目的があって発足した組織だったと思うのですが、本当に存在価値のある組織なのでしょうか。」と問われてしまいました。
Yさんは、突然、目を覚まされ、漸く「そういえば、自分は新組織発足以来、メンバーの前で偉そうな話をしているが、もしかしたらリーダーの役割を果たせていないのではないか」と認識するに至りました。
そこで、Yさんは慌てて「組織のリーダーの役割」について、初めて、調べてみたところ、おおよそ次のようなことがわかりました。Yさんは自分の“ふがいなさ”に大きなショックを受けてしまいました。
『どのような組織のリーダーにもその役割を果たす責任と義務がある。組織のリーダーはビジョンを示し、組織をその方向に向かって前進させることが求められており、先を見て次の時代を先取りできるビジョンを構築することが大事なのである。
組織のリーダーは万難を排して、望ましいビジョンを構築することに最優先で取組まなければならない。組織の向かう方向を定めるのはリーダーの役割の1つであり、「What」を考え、魅力的な「ビジョン」を構築し、変革の方向を定めるのはリーダーの最重要使命なのだ。
そのためには、リーダーになる人は普段から自分や組織の使命・役割と取巻く外的状況を正しく認識しているだけでなく、この先、社会・経済や技術、生活する人々など世の中がどのように変化して行くのかについても、深い関心と洞察力・構想力を駆使した自分なりの考えを持っていなくてはならない。
並のリーダーならいつまでも自分の乏しい力量だけでビジョンを構築しようと時間を浪費するより、構想力豊かなメンバーの力を借り、納得できるビジョンを最優先で構築すべきなのだ。
ビジョンを構築するのはリーダーの役割だが、ビジョンの実現に向けて本気で取組むというのも組織のトップの仕事である。
リーダーはコミュニケーションが仕事と認識し、多くの人々を巻き込み、彼らに「別の未来」があることを信じさせ、共有されたビジョンを実行に移すためのイニシアチブをとる必要がある。心底重要だと思っているリーダー自身が直接コミュニケーションする必要がある。
リーダーには組織メンバーに新たな改革の方向を浸透させ、現実とビジョンの統合に関する責任を果たし、組織の文化・風土にまで深く染み込むようエネルギーを全力投入する任務があるのだ。』
まとめ
ロジカルシンキングにおける演繹法と帰納法を使って、簡単な文書や論理を作成するために役に立つ論理ピラミッドの構築について、例題と解答例を挙げながら紹介した。
- ちょっとした報告書を作成する際など、演繹法と帰納法を任意に組み合わせて「要するにどういうことか」を伝えるためにも、論理ピラミッドの構築が基本となる。
- 論理ピラミッドの作成のためのアプローチの仕方には基本的にトップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがあり、状況に応じて使い分け、時にはトップとボトムを行き来して、論理的に整合するように適応させて完成させる。
- 論理ピラミッドの一般的な作成方法は、典型的にはロジカル・プレゼンテーション・シートの作成など演繹法と帰納法を任意に組み合わせて論理を構成すれば良い。
- 主張や提案であっても、必ずしも演繹法を明示的に使わずに、「Why(または、必然性と効果)」と「How(または実現性)」の2つないしは3つのサブ命題を配置して、説得力のある論理を構築することができる。
- 論理ピラミッド構築の演習問題にも取り組んでみよう。
補足
「論理ピラミッド」は、別名でバーバラ・ミントさんが付与した「ピラミッド・プリンシプル」などとも呼ばれています。「ピラミッド・ストラクチャー」と表記されている場合もありますが、いずれも「根拠」と「主張」の関係を論理的な繋がりによって、ピラミッドの頂点となる最上位のメッセージを導出する方法です。
ロジカルシンキングという観点からは考え方に共通点はありますが、ロジックツリーが最下位の具体的な事柄を目的とすることに対して、論理ピラミッドは最上位のトップメッセージを目的としていることにご注意いただきたいと思います。
解答例は、あくまでも1つの例です。あなたはどのような解答を作成しましたか?
<結論>Yさんは(新規組織のリーダーとして、)望ましいビジョンを構築することに最優先で取り組まなければならない
<大前提>組織のリーダーは望ましいビジョンを構築することに最優先で取組まなければならない
<小前提>Yさんはこの度発足した新規組織のリーダーである
ここに登場した<大前提>は、誰もが認める事柄を根拠として、例えば、次のような帰納法によって導かれています。
<大前提(中間命題)>組織のリーダーは望ましいビジョンを構築することに最優先で取組まなければならない
<根拠1>組織の向かう方向を定めるのはリーダーの役割の1つである
<根拠2>魅力的なビジョンを構築し、変革の方向を定めるのはリーダーの最重要使命である
<根拠3>リーダーには組織をその方向に向かって前進させるビジョンを示すことが求められている
一方、<小前提>も時には、幾つかの事実に基づいて導出されています。
例えば、
<小前提(中間命題)>Yさんはこの度発足した新規組織のリーダーである
<根拠1>Yさんは、組織変更に伴い前任者からリーダーを託された
<根拠2>新組織の発足に伴い、Yさんがリーダーに任命された
<根拠3>Yさんは自分から率先してリーダーを引き受けた
こうして、演繹法と帰納法はそれぞれの役割によって、1例として、次のような論理的な組立てが出来上がります。