問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

問題解決の主役

問題解決プロセスの基本的な枠組みを整理し、論理思考力・創造思考力それに対人力といった能力の活用場面を理解し、論理思考が問題解決に際して演じる役割について学びます。

本章に対応するビデオ講座のページ→第2章 問題解決プロセス(ビデオ)

第2章 問題解決の主役はロジカル・シンキングである

一部の事務およびルーチンワーク的な業務を除くと,ビジネスパーソンの多くは,課題設定,課題遂行,トラブル解析,戦略立案,提案・プレゼンテーション,交渉,議論,論文・レポート作成など,思考を必須とした業務に携わっている.そこでは,「問題解決」のために多くの時間が費やされているはずだ.例えば,プレゼンテーションや議論,レポート作成などの業務は,広くは問題解決の一環として実施されているし,営業マンにとっては,販売不振の打開や売上数量の増大等は,重要な「問題解決」の対象となっている.実は,こうした「問題解決」に威力を発揮するのが「論理思考(=ロジカル・シンキング)」である.「論理思考(=ロジカル・シンキング)」の能力を磨くことで,特定の状況に接した際に,ゼロベースから問題解決への展開を可能にすることができる.本章では,そもそも「問題とは何か」をはじめ,問題解決プロセスの基本的な枠組みを整理する.同時に問題解決に関連して論理思考力・創造思考力それに対人力といった能力について解説し,特に論理思考が問題解決に際してどのような役割を演じるかについて学んで行く.
また,本章は問題解決プロセスを理解するためだけでなく,いわば「論理思考」が活用される場面を予め全体感を持って想定しておくことで,論理思考の応用部分に相当する「第3章~第5章」の理解を助けることを狙いとしている.従って,前章に引き続いて直接的に「論理思考」を学ぶわけではないので,手触り感が持てないと感じる読者は第3章以降を先に読んでも差支えない.

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2.1 問題とは「現状」と「あるべき状態」とのギャップ

「問題解決」について学ぶ第一歩として,そもそも「問題」とは一体何かを整理しておく必要がある.「問題解決」という場合の「問題」とは「広義の問題」を指しており,次の2 つがある.

  • 1) 狭義の「問題」に相当する問題

製品・サービスの品質問題,販売不振や事故・トラブルの発生など,現状の「困った事態」が想定される問題である.これらの問題には必ず特定の原因がある.

  • 2) 広義の「問題」に含まれる問題

次期商品の開発,新たな技術の確立やある製品の売上を2 倍にするなどの「問題」である.それは例えば,物理学や数学で「次の問題を解きなさい」などというのと同じであり,「困った事態」が想定されるわけではなく,単に「課題」と言ってもよいだろう.

さて,ここで取り上げる「問題解決」であるが,それは上の2つの問題を視野に入れている.例えば,製品の故障問題であれば,問題解決によって現状の困った状況を脱し,故障問題の解消された状態となるだろう.新たな技術を確立するという問題であれば,「問題解決」によって,現状の未確立の状態から,ゴールとしての技術の確立された状態に至ることになる.

これらを踏まえると,「問題」を共通に捉え,広義の問題に対して次のように定義することができる.

【問題とは】
「現状」と「あるべき状態」とのギャップである

すると問題解決の目的は「あるべき状態」に到達することであり,「現状(現在の状態)」とのギャップを具体策の実行によって実際に埋めることが「解決」ということになる.これを図示すると図2.1 のようになる.

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図2.1: 問題の定義と解決の関係

「問題」によっては「あるべき状態」をゴールや目標などと置き換えることも可能である.
こうして,「問題」を定義すると,私達の仕事の大半が「問題解決」であるということが頷けるであろう.あるべき状態が「配管の漏水がない状態」,「月に7 台の車が売れている状態」,「キーボード操作でロボットの腕を制御すること」,「ヒト造血幹細胞による造血技術の確立」であったり,「新規モバイル商品事業ビジョン」であったりするのだ.商品開発における設計業務のような仕事も「問題解決」である.

2.2 原因のある問題と原因のない問題がある

広義の問題であれば,相当に幅広い問題が考えられるということはある程度想像できるに違いない.本節では私達が直面するであろう,あらゆる問題を視野に入れて分類しておくことにしよう.何故分類するかと言うと,それは問題の種類によって解決アプローチの仕方が異なり,それぞれに適した問題解決の方法が考えられるからである.

前節の説明で,これらの問題は,狭義の問題である「原因のある問題」(例:製品の品質問題,販売不振や事故・トラブルの頻発などの困った事態)と広義の問題に含まれる「原因のない問題」(例:次期商品の開発,ある製品の売上を2 倍にすることなどの課題)の2 種類に分類することが可能であることがわかる.同時に,すべての「問題」は「原因のある問題」か「原因のない問題」のいずれかに含まれる脚注2-1)ということもおわかりいただけると思う.

では,「原因のある問題」にはどのような問題があるだろうか.知り得る限りの「原因のある問題」をリストアップして,類似の性格のものをまとめ,いくつかのタイプに分けるという作業を実施すれば何種類かの問題に分類することができるはずだ.「原因のない問題」についても同様である.そのようにして多くの「原因のある問題」,「原因のない問題」を分類すると,おおよそであるが,1 つの見方として,下記のように問題の典型的なタイプで大別することが可能である.

問題の種類のタイプ別分類例
1)原因のある問題
 ・現象型の問題:現象として見えている多くの良くない状況
 ・発生型の問題:特定化された困った問題または予定と異なる事態
 ・構造型の問題:原因と結果が絡み合って生じている良くない状況
2)原因のない問題(=課題)
 ・設定型の問題:実現すべきこと,達成すべき課題
 ・創造型の問題:新たなことを創出するような創造的課題

これから先の説明では上記の分類名称を用いることにする.他の分類の仕方も考えられるが,ここでは上記分類が比較的わかりやすく,それぞれに適した問題解決アプローチの方法が異なるので都合が良いのだとご理解いただきたい.「原因のない問題」の方では「課題」と記載しており,「原因のある問題」の方では「課題」とは記載していないが,やがて,解決策を考える段階では「課題」化することになるので,言葉の感触についても少し注目しておいていただきたい.
図2.2 には「問題」のタイプ別分類とその概略的説明および問題例を解決のための要所となるステップとともに示した.

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図2.2: 問題のタイプ別分類と解決のための要所となるステップ

実のところ,問題を捉える人の,考慮に入れる時間的スパンの長さと視野の広さによっても,問題がどのタイプに該当するかという判断は影響を受ける.また問題の中には静的な問題と見て差し支えない場合もあるが,一般的にはどのような問題もその状況は時々刻々と変化しているのだ.その上,「原因のある問題」においては原因によって生じたいくつかの現象が,2 次的な原因となり,更に新たな複数の現象を生じさせているといった広がりを伴うものである.従って,例えば,「原因のある問題」を3 つの典型的なタイプに分類したが,状況が変わると,あるいは問題に関する見方を変えると,「発生型の問題」が,実は「構造型の問題」であったり,「現象型の問題」と捉えられるようなことがあり得るのである.
つまり,同じ「問題」であっても,状況や見方によりその「問題」がどのタイプに該当するかが異なるのだ.しかし,すべての「問題」は上記分類のいずれか,あるいはそれらのmix したものに該当するという捉え方をしていただきたい.例えば,「ある事業の戦略の見直し」というのも,いずれかの「問題」に該当する.その際の状況が,もし,「何故か製品の売上が低下しており,現在の事業が不振で,戦略の練り直しが必要である」といった状況であれば,問題となる売上低下の本質原因を明らかにし,本質原因に対して手を打つことは不可欠であろう.すると,その問題は「発生型」の問題として解決に取組むことになる.そうではなくて,「事業は順調であるが,更に拡大したい」という状況であれば,「設定型」の問題として戦略案を考えることになる.あるいは新規の事業を展開するという場合には,「創造型」の戦略案創出が問題解決の方向となるという具合に捉えれば良い.

このように考えて,「さあ,これから問題解決に取組もう」というときには,その瞬間の時点において問題が上記分類のどのタイプに該当するのか,できる限り広い視野で検討していただきたい.しかし,状況や見方によって変わるというのだから,それは正確でなくても”おおよそ”でも構わない.どの分類に該当するのかがどうしてもわからないときには,感覚的に「この型に 該当するのかな」と考えていただいても良いだろう.懸案の問題がどのタイプに相当するかなどというのはさほど重要なことではない.実際,典型的なタイプに該当する問題ばかりではない.発生型の問題は比較的識別しやすい方であるが,現象型と構造型の区別は必ずしも明確にできない場合が多く,中には混合型とでも言えるような問題もある.なお,図の最下段に示した解決 のための要所となるステップは問題のタイプによって異なるが,本節ではまだ詳細を説明することができないので,ここではまだ「解決アプローチの方法にはいろいろあり,問題によって適したやり方が違うんだ」という理解で良いだろう.

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2.3 問題解決以前の問題を解決しておこう

問題にもいろいろな問題があるということを改めて認識した.普通なら,ここで,次の順序として問題解決の方法について言及して行くことになる.しかし,実は「問題解決以前の問題」というのがあることをご存知だろうか.その問題というのは,前節で説明した「問題の種類」で言えば「現象型の問題」の範疇に含まれるのであるが,厄介なことに通常レベルの問題解決法では解決することが困難な問題なのである.残念ながら,次節で述べる問題解決のプロセスによっても1 人の力ではもちろん,組織が自力で解決することが大変難しい性格の問題である.それは「問題解決以前の問題」が,個人の能力や技術・知識だけに関係する問題ではなく,人の心の深層にある,気持ちや意欲といった心理的事柄に強く結びついた,人と組織に関わる問題であることに関連しているからである.本節は,多くの組織に存在する「問題解決以前の問題」の存在を正しく認識し,まず,その問題の解決に取組む必要性を理解し,なおかつ解決していただくために設けたものである.

2.3.1 問題解決以前の問題とはどんな問題?

企業で業務に取組んでいる人の多くは,組織の構成員として仕事をしている.多くの場合,組織の構成員はチームメンバーであったり,プロジェクト・メンバーであったりするが,その集団には共通する何らかの目的があるので,どのような組織にも明文化されているかどうかは別としてミッションがある.たとえ,ある研究に1 人で取組んでいるという場合であっても,組織には所属していて,自身の研究目的は組織のミッションとは何らかの関係があるはずだ.
そのような,現代の企業内における組織には,大抵の場合,大なり小なりの「問題解決以前の問題」が存在する.例えば組織内に次のような現象がいくつか見られるなら,「問題解決以前の問題」が存在すると言えよう.

・メンバーどうしおよびチームリーダーとメンバー間のコミュニケーション・連携・支援が殆ど行われていない.
・仕事が楽しくない.
・やる気が起こらない.
・計画が遅れる.
・本質を考えるような思考業務を実施していない.
・努力の割りにチームの成果が挙がらない.
・人が育たない.
・疲弊している.
・仕事の中でやり直しが多い.
・メンバー間の負荷のアンバランスが改善されないまま続いている.

つまり,

問題解決以前の問題とは
「組織の構成員が仕事にやりがいを感じ,持てる力を発揮でき,仕事が旨く進み,成果を挙げるとともに自身が成長している」というあるべき状態と現状との間に存在するギャップを指す

ということである.
読者の皆さんの所属するチームに「問題解決以前の問題」が存在するかどうかを確認するには,例えば次のような質問に答えてみると良い.明確に「その通りである」と言えない状況であれば,「問題解決以前の問題」が存在すると考えて良いだろう.

1) あなた自身の仕事は旨く行っているか.
2) あなたは仕事を通じてやりがい・達成感・成長感が持てているか.
3) あなたは他のメンバーの仕事にも関心を持ち,チームとして成果が挙がるように注力しているか.
4) チームの殆どの人が持てる力を十分に発揮して,成長しているだろうか.
5) チーム全体の仕事は良い状態で進んでいるだろうか.
6) チームは目的通りの成果を創出できているだろうか.
7) チームリーダーはメンバーの仕事の状況を正しく把握できているだろうか.
8) チームリーダーは自身の役割を果たせているだろうか.

問題解決研修のようなことを実施している際に,「問題解決以前の問題」の話をすると「その話の方によほど興味がある」という人に出会う機会は決して珍しいことではない.まさかとは思うが,「これこそ,わが社の問題だ」という読者ばかりではないことを願っている.

2.3.2 問題解決以前の問題を解決するには

「問題解決以前の問題」がそれほど気にならないという組織を除いて,通常の問題解決に取組もうとする組織にとって,まず,重要なことは「問題解決以前の問題」を解決することである.「問題解決以前の問題」が存在するような状態で実務問題の解決に取組んでも,解決は可能であるが,効率は極めて悪いだろう.そのような組織では仕事だから仕方なく取組むという程度であり,関係者の意欲や力の結集など盛り上がりに欠け,無駄な時間と労力を使うばかりで,苦難の道を歩むことになるだろう.


「問題解決以前の問題」の解決は簡単ではないが,「必ず解決する」というのが経験的事実である.1 年間ほどの期間をかけて解決すると,実際「組織の構成員が仕事にやりがいを感じ,持てる力を発揮でき,仕事が旨く進み,成長するとともに組織の成果が達成できている」という状態になる.「そんな旨い話があるわけがない」と思うかもしれないが,いくつもの解決事実が存在するのだから疑問を抱く必要はない.結果として明らかに組織の成熟度が向上するのだ.このような状態になると,本来の問題解決に取組むことが容易になる.
ただし,「問題解決以前の問題」を解決するには,関係者のコミットメント脚注2-2)に関する次の前提条件を整えた上で,組織メンバー全員が組織やチームの目的・目標を共有化し,現状の実態をあるがままに正しく認識するところから出発する必要がある.組織の総体が不退転の決意で「問題解決以前の問題」解決に取組むというのであれば,解決アプローチの方法を間違えない限り必ず解決に至る.

「問題解決以前の問題」を解決するための前提条件とは
組織を統括する,権限を持ったトップマネジメントおよびリーダーを含む組織メンバー全員の「問題解決以前の問題」解決へのコミットメントである.

解決アプローチの方法は基本的には「現象型の問題」の解決に沿って進めることになる.その際の解決アプローチの基本コンセプトは構成員および組織に気づきを促すことによって,自律的な変革を起こすというもので,具体的には以下のようなステップで組織メンバー全員が実業務を進める過程を通じて「問題解決以前の問題」を段階的に解決して行くという方法をとる.

現業実務の推進を通じて日常的な仕事の進め方に焦点を当てて,「気づきを促し」当たり前のことが当たり前に実施できるように関係者全員の自覚的改善を繰返すことによって,組織全体をレベルアップして行くのである.仕事の進め方に焦点を当てる部分では論理思考以前の人の気持ちに焦点を当て,一貫して「気づきを促し,自律的な改善・改革を起こさせる」という基本コン セプトで貫かれていることがおわかりいただけると思う.
解決に至ると,組織メンバーが権限と役割義務に基づいて行動していた状況から信頼・共感と自発性に基づいて行動している状況に変化するのである.

第1 ステップ:目的・目標の共有化と実態の把握

1) 目的・目標を共有化する
組織やチームならば共通の目的・目標があるはずだ.しかし,現状の実態は関係者全員が納得して共有化できているとは限らない.時には,目的・目標を見直し,トップマネジメントの認識まで変更する必要があり,難航する場合もあるが,あらゆる困難を乗越えて納得レベルで目的・目標を共有化する.

2) 組織の実態を正しく把握する
この段階は自分の振る舞いを棚上げし,他責(問題を他人のせいにすること)で差し支えないので,互いに見える組織の悪さ加減を洗いざらい表出させることが大事である.本音の実態認識が不可欠なのだ.組織メンバーが本音の実態認識まで進めば,必ず,「悪いところを直そう」という潜在意識につながるのだ.実態把握には合宿などの場を設定し,無礼講で喧々諤々の議論をしてみるのが効果的である.

3) 改めて今後の1ヶ月程度の実務計画を立て,計画通りに実施することを試みる
実務計画の立案にはリーダーを含む組織メンバー全員が参画し,合意した計画を立てる.実行しなければならない仕事のすべてを対象にし,個人レベルの計画に対しても組織メンバー全員が参画し,知恵を出し,当事者を含め納得できる計画を立てる.ベテラン社員やチームリーダーは若手社員の仕事が旨く進められるようにアドバイスする.これで一応は全員の仕事の予定が見えるようになるはずだ.

第2 ステップ:原因の発見(気づき・自覚)

1) 計画通り仕事が進められたかどうかを振り返る
一定の期間,計画に従って仕事を実施した後に,例えば1 週間後に再び組織メンバー全員で確認してみる.すると,多くの場合に「計画通りに仕事が進められていない」ことを認識することになるのが普通だ.そこで,何故「計画通りに仕事が進められなかったのか」を明らかにする.チームリーダーのフォローが不足していた,メンバーからの相談が必要だった,課題が具体的な実施計画に展開できていなかった,元々の計画に無理があったなどいろいろな原因が見えて来るはずである.

2) 失敗した原因に対して手を打つ
組織メンバー全員がそれぞれの原因に対して同じ失敗を繰返さないように手を打つ.特に,より本質的な原因については手を抜かず,あらゆる手段を講じて確実に対応する.そして今後1 週間の実務計画を,全員が納得できる実現可能な水準まで見直し,再び組織メンバーは計画通りに仕事を進める.

3) 同じサイクルを何度も回すことにより,何がマズかったかについて自覚する
このような組織マネジメントを,1~2ヶ月に亘って組織メンバー全員の参画により何度か繰返し徹底して実施すると,次第に「何故今まで仕事が旨く行かなかったのか」に気がつくようになる.
例えば,チームリーダーは今までリーダーとしての役割を果たしていなかったことを自覚できるようになる.組織メンバーも十分な検討や必要なコミュニケーション,連携・支援などができていなかったことを自覚するようになる.

第3 ステップ:解決行動と解決感触の獲得

1) 原因に気づく度にその解消に徹底して取組む
悪さ加減を自覚する都度,原因の解消に取組み,更に同様のサイクルを繰返し・繰返し徹底して実施すると,3~6ヶ月程度でやがて日々の仕事が計画通りに進む状況になる.当たり前のことを実施しているのであるが,上記のような計画立案,実行,振り返りを定期的に納得レベルで繰返すというのは大変に骨が折れることだ.

2) 仕事が計画通り進むという実感が持てるようになる
この段階になると,例えば,リーダーや組織メンバーの役割の相互認識が確立され,業務遂行上の調整やコミュニケーション,連携・支援は活発になり,問題にはすぐに手が打てる状態になってくる.メンバーは納得レベルで仕事に取組み,ようやく仕事が旨く進むという実感が持てるようになる.

3) ベクトルが同じ方向を向き,充実感が湧いてくる
半年程度を過ぎ,当たり前の仕事の進め方が定着するようになると,組織メンバーに仲間意識が芽生え,ベクトルが同じ方向を向き,仕事にもやりがいを感じられるようになってくる.この段階では前向きに大きな問題解決に取組む意欲も湧いてくるので,例えば,もっと仕事を効果的・効率的に進めるとか,人材育成といった質的な施策課題にも関心が向けられるようになる.

第4 ステップ:解決への到達

1) 仕事の達成感が持てるようになり,組織は力量に応じた成果を達成している
かくして1 年ほど経過すると,「問題解決以前の問題」が解決され,仕事は相変わらず大変であるが,組織メンバーのほぼ全員が仕事にやりがい・達成感と自身の成長感を感じて仕事に取組んでいるという状況に達している.一方,組織はこの段階における組織が有する力量に応じた,最大成果を達成している.

2) 組織が自律的に次の課題に取組めるようになる
この段階まで達すると組織が自律的にこの状態を継続・定着させることおよび他の組織に同じことを波及・展開させることが次の課題となる.努力次第で,他の実務問題の解決,体質強化施策など組織成熟度の向上課題にも取組めるようになる.


以上のように,「問題解決以前の問題」が,人の心の深層にある,気持ちや意欲といった事柄に強く関係する問題であり,「気づき」と「自発的行動」を通じた人の深層心理の改革を伴うものであるために,その解決には権限と時間とエネルギーと上記のことを実施するためのノウハウも必要となる.しかも,この「問題解決以前の問題」解決に取組み,成功させることができる人材は非常に少ないというのが現実だ.権限を持った組織トップマネジメントの,実態を伴うコミットメントのもとで推進できる人材はいるだろうが,改革を進めようと考えるトップマネジメントが交代すれば自然崩壊し,やがて元の状態に戻ってしまうというのが普通である.要するにこの種の改革は改革をしようとする人の権限の範囲までしか進まない.筆者の経験では,これを自分達だけの努力で達成し定着させるのは至難であると思う.「気づきを促す」ことを徹底して進められる適切なコンサルタントを活用すべきであろう 脚注2-3)

これで「問題解決以前の問題の解決」に関する話は終わり,実務問題の「問題解決」に関する事柄に戻る.

2.4 問題解決のプロセスを正しく理解しよう

問題の分類とその解決方法にはここで紹介している考え方以外にも様々な方法がある.世の中に「~問題解決法」という名称がついた書籍やセミナー・研修が実に沢山ある.どのような「問題解決法」であっても解決したい「問題」が本当に解決できるならそれで良いと思う.本書で紹介する問題解決法は,既に説明したように「問題」にもいろいろあって,問題のタイプに適し た解決アプローチがあり,それらすべてを共通の「ロジカル・シンキング(論理思考)」という普遍的な考え方をベースにして解決する総合的なプロセスとして提案しているものである.

問題解決のプロセスというと「ある決められたプロセス」があって,そのプロセスに従って進めることになるので,本節はやや手法的な説明になるがご容赦願いたい.ただ,このように進めると旨く行くという経験から,まずは,忠実に「決められたプロセスに従って」問題解決に取組んでいただきたい.慣れてくればコツが掴めるようになり,お仕着せのプロセスを柔軟に使いこなせるようになるものだ.

課題形成,解決策立案,実行の3 ステップで

通常,問題解決の手順は,先に示した「図2.1: 問題の定義と解決の関係」からイメージされるように,大きくは「問題の設定」と「問題の解決」という2段階に分けられる.世の中で提案されている問題解決プロセスについては,例えば,システム企画研修(株)「一般的問題解決手法の概要」等においても紹介されているので参照いただきたい.
ただし,単に「問題を設定」して「問題の解決」に取組むというのでは短絡に過ぎない.前段の「問題の設定」における要点は「一体,問題の本質は何であり,どのような課題を解決すれば問題が解消できるのかを明らかにする」という点にあり,解決すべき課題の明確化がゴールとなる.続く後段の「問題の解決」においては前段で「明らかにした課題の最適な解決策を考える」ことが要点となり,当然ながら「解決策を実行する」ことが含まれる.
そこで、ここでは問題解決のプロセスを図2.3に示すように

問題解決のプロセスは大きく分けて
1) 課題形成プロセス(論理思考能力を活用する)
2) 解決策立案プロセス(論理思考能力と創造思考能力を活用する)
3) 実行プロセス(論理思考能力と対人力を活用する)
の3ステップに分けられる.

という考え方で解説して行く.

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図2.3: 問題解決プロセス全体の基本枠組み

図2.3 にはプロセスの前段に「あるべき状態」と「現状」も描かれているが,「課題形成プロセス」には問題(すなわち「あるべき状態」と「現状」とのギャップ)を認識することを含むので,誤解のないように捉えておいていただきたい.

以下,このプロセスの順に説明して行くが,その前に問題解決プロセスの全体を通じて重要な前提となる2,3の事柄について触れておくことにしよう.

寝ても覚めても目的達成志向で

どのような問題解決法を使うにしても問題解決において常に共通的に意識しておかなければならないことがある.それは何のために問題解決に取組むのかということを意識して取組むということである.すなわち,問題解決には必ず目的があり,常に目的達成志向で問題解決に取組むことが肝要である.目的を明確にし,目的に合った方向に進むという考え方は論理思考の基本的な姿勢である.目的達成志向を持たずに問題解決に取組んでも無駄が多く,大変効率が悪いか,解決することができないまま力尽きてしまうような結果に終わる可能性が高い.問題解決プロセスにおけるどの段階においても,目的達成志向を持って問題解決に臨むことは非常に大事なことであり,今後の具体例の説明などを通じて触れて行く.

可能な限り上流で前提条件を確認・設定しておこう

問題を設定する,問題を解決するといった際には,その問題の範囲や境界が曖昧な状態では果たして問題が適切に設定できているのか,あるいは問題解決が適切に進められるのか等について正しく判断することができない.どのような問題においても必ず何らかの前提条件というものが存在するので,問題解決に取組む際には前提条件を明確にして進めることになる.

問題解決に際しては,可能な限り「より上流プロセス」において,前提条件を明らかにしておくべきである.既存の制約条件となっているような前提条件や与件には疑いを持ち,先入観に惑わされず改めて確認し見直す必要がある.同時に不合理でない適切な前提条件を明確に設定して進めるべきである.適切な前提条件の設定は課題を明確にし,どうでも良いことに無駄なエネルギーを使わず,考察を助け,本質部分に集中して頭を使えるようにするために大変役に立つ.
しかし,実際は下流プロセスに進んでから前提条件の設定必要性に気づくことも多く,「より上流プロセス」での設定が望ましいが,必要な段階で随時設定しても差し支えない.それ故,「前提条件の確認・設定」は問題解決の全プロセスに共通的な要素として捉えておくと良いだろう.

発散・収束,仮説・検証しながらスパイラルに進む

問題解決は多くの場合,プロセスに沿って直線的に進められるわけではない.一段階進むと,その先に進めるためにどこかしらの前のプロセスに戻り,内容を深化させて再度同じプロセスをたどることによって,更に一段階進むという具合にスパイラルに進むものである.

複雑な問題は分解して扱う

規模の大きな問題や複合的な問題に対しては,そのまま扱うと手に負えなくなる恐れがある.少なくとも予め切り離し可能な個別の問題に,出来うる限り徹底して分解してから取組むべきである.その際,分解した個別の問題の相互の関係を明らかにし,前提条件として設定しておくと良いだろう.

2.4.1 本質的問題・課題を明確化する(課題形成プロセス)

問題解決における最初のステップである課題形成プロセスでは,問題(すなわち「あるべき状態」と「現状」とのギャップ)に関係がある情報を収集し,それらを分析し整理・統合して,「要するに問題・課題の本質はどういうことなのか,解決策の基本方向はどうなるのか」を明らかにして課題化する.言い換えれば,どのような問題に対しても課題形成プロセスが意図するところは目的達成のための本質的解決策の基本方向を明らかにする点にあるのだ.このプロセスにおいては目的に沿ってあくまでも事実または誰もが認める事柄に基づいて思考する,論理思考が大いに活躍する.

204
図2.4: 課題形成プロセス

問題解決の全プロセスを通して最も大事なことは,取組みの出発点として高い視点と広い視野で「問題を正しく捉えること」である.問題を正しく捉えていない限り,正しい解決策の方向に進むこと,すなわち正しい解決につながる可能性は極めて低い.なお,問題解決においては,常に問題・課題の本質に注目して取組んで行くが,そのことは必ずしも派生して生じている問題や付随する課題については取組む必要がないということではないのでご注意願いたい.派生して生じた問題であっても,その影響の大きさ・緊急性などの状況により,当然,解決すべき問題として正しく捉える必要がある.
例えば,原因のある問題の例で製品の欠陥により,火災が発生する恐れがあるという問題においては,これから出荷する製品の欠陥を解決しても,市場で既存の製品が使われている限り,火災を防止できるわけではない.更に,対応を誤り顧客の信用を失墜し,他の製品の販売にまで影響が及ぶことによって,売上が低迷し,キャッシュ・フローの不足状態に陥っているといった問題が生じているという場合もある.運転資金のショートにより倒産の危機にあるというのなら,流動資金の確保を緊急課題として取組まなければならないことになる.

問題を設定し情報を収集する

では,「問題を正しく捉える」ための要件は何だろうか.問題の定義からはまず2 つの点が挙げられる.「問題とは現状とあるべき状態との間のギャップである」ことに対応して「現状を正しく認識する」ことおよび「上位目的を理解し,問題の背景やゴールとなるあるべき状態・目標を正しく捉える」ことが欠かせないということがわかる.そのためには問題に関連する情報を収集し,問題の状況を正しく表現しなければ始まらない脚注2-4)
情報収集は2段階で進めると良い.まず,問題・課題テーマに関連する情報をざっと集めてみると,いろいろなことが見えてくるはずだ.最初に問題の状況全体を把握するための基本情報を収集し問題を仮設定しておく.どのような目的で問題解決に取組むのか(何が問題であるのか,あるいはどのような課題なのか)その背景も含め,ポイントとなる基本情報を収集するのだ.こうして収集したとりあえずの基本情報により,「現状」と「あるべき状態」を正しく把握し,適切な視点と着眼点に基づいて,「問題」を設定,記述しておくことである.
「問題」が仮設定できたならば,今度は「問題」に関連する情報の本格的収集である.目的達成(問題解決)に関連しそうな「現状」情報,および「あるべき状態」に関わる情報を必要十分な範囲で本格的に収集する.必要があれば,前提条件を設定し,「問題」記述を見直し修正する.

情報収集のポイントは下記の通りである.情報収集などと言うと,つい他に目が向き勝ちであるが,第1 に自分自身の体験・知見を客観的視野に入れること,および現場や現物を直接把握することを忘れてはならない.

1) 実態を重視する
    事実情報を収集するという点では,人から聞いた話やインターネット検索等通信媒体を通した情報には真の情報源との間に観察・選択・解釈・推定など事実を歪める可能性がある過程が含まれるという認識に立つ必要がある.常に実態を把握するよう努力し,可能な限り現場や現物を直接観察して事実情報を感じ取るということを重視すべきである.頭だけでなく,身体,手足,五感を働かせることを忘れてはならない.
2) 集められる情報でなく,集めるべき必要な情報を収集する
    いつも自分達が接している情報には2 つの懸念される問題がある.その1つは把握している情報が客観的でない場合があり,特に自分達の実態を正しく認識できていない恐れがあるということだ.もう1つはいつも自分達が接している情報には“ 慣れっこ”になっている傾向があるため案外狭い範囲であり,部分的にも浅い場合が多いという点だ.集められる情報の範囲では肝心な有用情報を欠く恐れがある.目的そのものを高い視点で捉え,それを達成するために広い視野で集めるべき情報を十分に考え,関係のありそうな情報までを視野に入れて収集すべきである.その際,肝腎なところには定量的な情報が必要な場合が多いが,定量情報に囚われすぎて,多種多様で有意義な定性情報の収集に手が回らなくなってしまうようでは困る.
    どのような情報を集めるべきであるかに関しては論理思考により整理することが可能である.ただし,鋭い勘やひらめきによって感覚的に思いついた情報が決め手になるようなこともあるので,論理的に整理した情報範囲に限定する必要は全くない.
3) 情報収集のシナリオを描いて収集する
    一旦さらっと情報収集して感触を掴んでからでも良いが,本格的に腰を落ち着けて目的と背景を正しく理解し,収集する情報および情報源を明確にした上で,情報収集に入る.特に実態を正しく認識するための情報収集には「本音」が収集できるような仕掛けが必要である.情報収集の際には全体を押さえてから,細部へ視点を移して行く.途中で驚くような情報を発見しても細部の深みに入り込んで全体を見失わないように注意する.収集した情報は事実情報であることの裏づけを確認し,情報の出所を明記しておくことを忘れないようにしよう.引用資料の出典を明記しておくことは著作権問題だけでなく,フォローの必要な場合にも不可欠となる.
参考:良く利用される情報源・情報の所在
  • 現場,現物,顧客,当事者を含む関係者,組織内外の周囲の人々,関係先企業,専門家など
  • 政府刊行物サービス・センター
  • 政府資料等普及調査会
  • 政府各省庁の統計・調査データ(総務省統計局,特許庁など)
  • MDB(マーケティング・データバンク:日本能率協会総合研究所)
  • 各工業会(日本自動車工業会,日本機械工業会など多分野に多数)
  • 民間調査機関による調査資料
  • 広くインターネット検索

収集した情報に関しては,事実として活用可能な問題の状況を正しく表現しておくことが大事である.特に,必要な水準の定量的な情報は,情報収集の目的に合わせ単なる羅列ではなく情報の意味合いを含めて分析し,明確に記述しておく必要がある.状況を適切に表現するのは意外に難しいものであるが,データをグラフ化して考える,問題状況を記述しては見直すといったことを何度か行い,納得できる表現になるまで繰返すと良いだろう.その過程で状況把握の質が深まり,本質が見えて来ることも多いものだ.ただし,しばしば「数字が一人歩きしている」などど言われるように,事実情報をデータ化する際に不可避的に含まれることになる前提条件の把握を疎かにしないように注意する必要がある.うっかりすると,例えば,ある製品群の生産高がいつの間にか市場規模あるいは単体製品の生産高に置き換えて扱われていたり,若年女性層の一時的需要が成人女性全体の今後の需要と捉えられたまま,検討が進められるといったミスが発生することがある.

本質的問題・課題を発見する

収集した情報を分析することによって,本質的問題を明らかにする.本質的原因を明らかにすること,または課題の本質を明らかにすることを「本質的問題の発見」と言う.

「原因のある問題」に対しては問題を引き起こしている「本質的原因」を明らかにする.問題の根本的な解決のためには本質的な原因に対して手を打つことが欠かせないのだ.本質的でない原因に対して手を打っても暫定的な効果は期待できるかもしれないが,必ず問題が未解決のまま存在し続けることになる.本質的原因を明らかにするためには,収集した事実情報に基づいて論理思考による分析アプローチを実施する.その場合の論理思考によるアプローチの仕方には大きく分けて3通りの方法がある.
それらは第3章以降で詳細に勉強するが,問題のタイプに応じて

・現象型の問題:論理ピラミッドの作成(第3 章論理ピラミッドを構築して活用する)
・発生型の問題:ロジックツリーの作成(第4 章論理ツリーに展開して活用する)
・構造型の問題:原因と結果の因果関係図作成(第5 章因果関係の解明に活用する)

といったいずれかの方法を使って,またはそれらを組合せて本質的原因を明らかにする.問題のタイプがどのタイプに該当するのか,どうしてもわからないという場合にはすべての方法で試してみれば良い.特にどのようなタイプの問題に対しても「論理ピラミッドの作成」という分析アプローチの方法は何が問題であるかを明らかにするために役に立つ.問題のタイプにマッチしない方法を使っても,容易ではないかもしれないが,目的達成志向で臨む限りは,本質的原因を明らかにすることは可能である.この段階での検討の際には「目的達成志向で」,つまり,「原因発見志向で」取組むのである.論理思考による分析アプローチを進める過程で,情報の整理が行われ,問題の状況が見えるようになってくるはずだ.時には事実情報の不足により,本質的原因であると考えたことがどうしても仮説の域を出ないこともある.そういった場合には更に仮説を裏付ける情報収集や再現実験を行うなど原因の特定化に向けて,発散と収束を繰返す.仮説として明らかにした「本質的原因」について,それを解消した場合に「問題が解決する」ということが確認できれば,次の課題化プロセスに進むことができる.

「原因のない問題」に対しては,「本質的原因を明らかにする」必要がないだけで,課題の本質を明確に捉えるという点での分析アプローチは同じである.明確でない課題の本質を明確にする場合には,現象型の問題発見アプローチで活用する,論理ピラミッドを構築する方法が有効である.明確でない課題も現状とあるべき状態に関する収集情報を「目的達成志向で」整理することによって,課題の本質が見えて来る.例えば,「提案資料の作成」といった個別課題であれば,説得のポイントを明確にすることが可能だ.「次期商品戦略立案」といった課題であれば,「市場側から見た核心ニーズは何であり,それには他事業で採用している自社の得意な技術が生かせる」といったことが確信を持って捉えられるようになる.また,複合的な課題,例えばプロジェクト課題をはじめ,「集客を伴う展示会開催準備」とか「トレーニングを要する業務システムの導入」などは,ロジックツリーを用いて主課題を要素に分解した上で,各個別課題の本質となる要点を明確にする脚注2-5)

課題化して解決策の基本方向を明確にする

本質的原因が明らかになれば,その「課題化」は容易である.原因を命題化し,単に裏返して課題表現に書き換えるだけである.例えば,ある機器の焼損事故が起こった本質的原因は「電源コネクター部に外部から水分が浸み込んで短絡した」ことが明らかになったとする.その場合には「電源コネクター部に外部から水分が浸み込んで短絡しないようにする」という課題表現に書き換えることが可能だ.

「原因のない問題」に対しても捉えた課題の本質から,解決策の基本方向が考えられることになる.本来の課題に対して,例えば,「提案にはこの要点を明確に伝えることが不可欠である」,「次期商品はどのようなポイントが重要であり,これこれの技術を採用して開発する」といった基本方向が明確に定められる.つまり,「原因のある問題」,「原因のない問題」のいずれに対してもこのプロセスのゴールは「要するに問題・課題の本質はどういうことなのか,解決策の基本方向はどうなるのか」を明確にして記述することである.複合的な課題は,ロジックツリーを用いて要素に分解した個別課題のそれぞれについて,その本質に注目しながら解決策の基本方向を明確にする.同時に課題に応じて,必要な場合にはコンセプトやQCD(Quality, Cost, Delivery) の定量的な目標と達成基準や確認方法をも明確に設定しておく

2.4.2 解決アイディアを出して絞り込む(解決策立案プロセス)

課題が明確に設定されると今度はその課題の具体的解決策を考えるステップに進む.解決策立案プロセスでは前項の「本質的問題・課題を明確化する(課題形成プロセス)」で課題化した課題の「解決策の基本方向」に沿って解決策を考案するための適切な枠組みを設定し,枠組みに沿った複数の解決策のアイディアを出し,それらを評価し,最も適切と考えられる仮説案を選択して絞り込む.解決策の仮説案に対しては本当に問題が解決できるのか検証した後,実施計画を立てる.このプロセスにおいては論理思考と創造思考が活躍する.

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図2.5: 解決策立案プロセス

枠組みを設定してアイディアを出す

解決策の考案において重要なことは,解決策には通常複数の案が考えられるということである.それらの複数の案というのは,互いに代替案(オプション案)であるが,代替案を創出するためにどのような案を創出したら良いのかを考える適切な枠組み(=フレームワーク)の設定が役に立つ.ここで枠組みというのは「第4 章論理ツリーに展開して活用する」にて学ぶが,例えば,「目的達成に適したA,B,C の3 つの方式があり,それ以外にはない」といった解決策の方向性とそれがすべてであることを明確に示すものである.問題解決案創出のための枠組みは論理思考によりロジックツリーを使って設定することができる.その際に適切な枠組みを設定するには前の課題形成プロセスの結論を踏まえて,「目的達成志向で」,すなわち,「解決策の基本方向に沿って,有意義な解決策の創出を志向して(良い答えが出せるように)」設定する必要がある脚注2-6)
解決策創出のための適切な枠組みが設定されると,アイディア出し(解決策の創出)が容易になる.アイディア出しにおいては「創造思考(クリエイティブ・シンキング)」が活躍する.つまり,「論理思考」は解決策の創出に際して「創造思考」を支援しているということになる 脚注2-7)

ところで,アイディアを発想する際のポイントは大きく分けて2 つある.上位概念という枠組みによる「創造思考」への支援を含めて紹介しておこう.

1)論理思考的観点に立つ
  • 目的・原点に立ち返る

現象や策にとらわれ,考える目的を見失うとどうでも良いアイディアから脱却できなくなってしまうものだ.そういう場合,目的を再確認する,原点に立ち返ってみるといったことが役に立つ.あるべき姿や基本コンセプトを再確認し,脇道や途中の道筋にこだわらず,遥か遠くの目的地の方向にこだわることが大事である.

  • 本質を見直す

課題を表面的・短絡的に捉えようとせず,課題を明確に定義し,背後にあるテーマの本質を見極め,時には別の角度,異なる視点,別の立場から見直してみる.過去の経験から自動的に発想したり,反応で答えを出すというのではなく,一呼吸おいて課題を定義し直し,本質的問題解決プロセスに沿って考える.本質というのは,多くの場合,その問題・課題の根底にある法則や仕組みに関わる原理や意味を深く追求することによって見えてくるものである.

  • 概念に沿う

論理思考による上位概念としての枠組みから,あるいは同一概念のものからヒントを得て考える.枠組みの設定は論理思考によるアイディア創出への支援の中核をなすものである.

2)創造思考的観点に立つ
  • すべての制約条件をはずす

自分に染みついている世の中・業種・業界・自社・組織の常識・従来の枠組み,会社の現状・事情・文化・風土,自分の立場・役割,成功・失敗体験,偏見,先入観,固定観念,既成概念,ビジョン,コンセプトなどの一切を取り払い,オールゼロクリアして考えてみる.

  • 自由度を拡大する

方向・位置・時間・組合せ・追加・削除などあらゆる変更可能な自由度を使って思考する.アナロジーからの飛躍などを試み,大胆に大きく飛んで,思いつき程度のことを遥かに越えようと,「あり得ないこと」を思考してみる.

普通の(天才でない)人のアイディア創出の基本はまず論理的に考えることが先決であり,論理思考を繰返し,適切な枠組みに沿ったアイディアを考え抜くことである.そして,行き詰った段階では,いくつかの発想法を試すなり,一切の制約を排除して考えてみるといったことを勧めたい.誤解のないように補足しておくが,アイディアを創出する際に上位の枠組みが必須だというわけではない.当初から特定の発想法でアイディア創出ができるなら,あるいはすべての前提となる条件を一切クリアして全くのゼロベースで創造的なアイディアが考えられるのであれば,それはそれで大変結構なことである.アイディア創出には根拠など無くても一向に構わないのだ.
価値のあるアイディアを創出できるようにするには普段からいろいろな機会を捉えて自ら課題を設定し,アイディアを創出する習慣を持つと良い.環境を整えるという側面からは個人が自在にアクセス可能な情報環境を整えるだけでなく,自発的に発想できる雰囲気といった心理的な面の環境を整えていることも重要な要素となる.創造には個人の問題意識に加えて,視野を広げる異質な人との交流や顧客との接点,深く考える相互刺激の場の存在などが効果的である.最近ではインターネット上の場を活用した,問題解決に参画する人々どうしの意見交換や共創という高度な方法の可能性も開かれている.もちろん,社長の「思い」や,たまには上司の「思いつき」に耳を傾けるのも悪くはないだろう.是非,読者の皆さんは様々な機会を通じて体験的にアイディアを創造するポイントを掴んでいただきたい.

最適な解決策案を選ぶ

次に解決策を評価し,どの解決策を選択するかを意思決定する.評価は課題を取巻く状況に応じて,選択が最適となるような評価項目と内容を設定して行う.評価項目には実現可能性といった項目は必須である.なお,ここでも必要に応じて発散と収束を繰返す.例えば,もし解決策の方向を定めたという程度の段階である場合や選択した解決策が具体的でない場合には,具体策のための枠組みを再度設定し,再び解決策を創出・選択するということを繰返す.選択された解決策は行動が可能なレベルまで具体化されていなければならない.具体的な行動レベルまで見通されていない解決策は再び見直しが必要になることもある.どの解決策を選択するとしても,解決策はこの段階では仮説である.

ここで多少わき道に反れるが,解決策の評価や判断と関連してロジカル・シンキングへの誤解を解いておこう.ときどき「論理的に考えられた結論は冷徹な合理だけに基づいており,情緒に欠けるものだ」などと批判している著名人がいたりするが,その非難は多くの場合認識不足による誤解のように思われる.結論が不適切であるとすれば論理的な考え方に関する特有の問題ではなく,その結論を導いた解決プロセスそのものが適切でなかったと見るべきなのである.あるいは,解決策の評価や判断においてそのような不適切な結論が選択されたに過ぎないという場合もある.もし,費用や効率性といった評価項目だけでなく,例えば情緒面の評価項目が重要であれば明確に設定するか,あるいは判断基準などに不可欠な要素として盛り込めば良いのだ.そもそも論理思考を正しく展開している限り,解決策において情緒的な側面が非常に重要な場合には,現状分析等における情報収集の段階で把握されてしかるべきなのである.つまり,偏った情報収集でない限り,解決策の評価以前に課題化段階で課題命題の中に関連する事柄が盛り込まれるはずである.しかし,だからと言って情緒面を優先して結局は本質的問題の解決に至っていないという結果になるようでは,本末転倒である.いかに難しくても必ず解決の道があることを信じ,粘り強く全力を注ぎ矛盾を解くような解決策を創出しなければならない.

解決策案を検証する

最終的に選択した解決策案について「問題が解決できること」を検証する.検証は実験,見積り調査,シミュレーション,テスト販売,ヒアリング,アンケート調査など目的と状況に応じて実施して確認する.なお,評価・選択に先立って検証し,その結果を踏まえて解決策を選択するという進め方であっても構わない.
検証できたなら,行動が可能なレベルの解決策にまで具体化した案の実施計画を立案する.

コーヒーブレークはいかがですか
「問題解決プロセス」の話、ここらへんまで読み進めたあなたは結構熱心に学習されたということです。さぞお疲れのことと思います。筆者はロジカルシンキングの基礎をベースにして、自分が体験した問題を踏まえて本章を書いていますが、原因のある問題も創造的な課題もそれらを解決して行くプロセスは、普遍的であり同じだという認識です。違いは、どのプロセス(ステップ)に重きを置くかという程度で、本質的には一緒です。次のセクションからはいよいよ実行ステップということになりますが、ここからは大抵の場合、他の人と一緒に、たとえばチームで取組むと思います。

その際にどうしても必須となることがあり、端的に言えば「人を巻き込み、解決に取り組む」、つまり、同僚・部下や関係者達に本気で取り組んで貰えるように仕向けなければなりません。要するに人が意気に感じて「よし、一緒にやろう」という気持ちにさせる「対人力」が要るということです。

「人の心を揺さぶる」といった力は、なかなか身につくものではないと思います。しかし、忙しくてそれどころではないという人であっても、そのような力を身に付けるために何か1つだけなら努力できるというのであれば、「人との関わりにおいて、いつも相手の立場に立って考えてみる」努力だけは惜しまないようにすることでしょう。

すると、長い間の知らぬ間に、必ず「共感を喚起する能力」が自然と身に付いていることに気づくはずです。

2.4.3 関係者の納得の上で実行する(実行プロセス)

いよいよ解決策の実行である.実行プロセスではまず関係者に問題をどのように捉え,その解決策が何故最適であるのかについて論理的説明を行い,感情的にも納得して貰う.そして,計画に沿って進め,必要に応じてモニタリングや見直し・修正を行う.

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図2.6: 実行プロセス

結論と説明論理を明確に

計画に沿って実行すれば良いわけであるが,多くの場合,自分1 人で実行して済むということはないだろう.企業内であれば自分1 人で取組む場合であっても上司や関係者への説明と了解を得ることが必要であろう.チームで問題解決に取組むのであれば,チームメンバー,少なくともチームのキーパーソン達に必要な説明を行い,了解・納得を得ることが欠かせないと考えられる.その際には,解決すべき問題がどのように捉えられ,その本質的問題・課題はどのようなことであるのかについて,事実に基づいた論理的説明が必要となるはずである.その上で,更に,その問題の解決策にはどのような方法があり,どの解決策が最も適切であるか,その解決策であれば本当に解決することが可能であるのかに関しての論理的な説明も求められるであろう.妥当な問題解決プロセスの経緯説明を通じて,課題を明確化した論理性や選択した解決策の適切性,実現可能性といったことをフォローできた関係者は,普通なら理解して頷いてくれるものである.

キーパーソンを説得し,実行へ

論理的説明を聞いたキーパーソン達が説明に関しては理解してくれても,その実行を支持する,あるいは共に協力して問題解決に取組む気持ちになって貰えるかどうかはわからない.自分が解決策の実施に取組むことになれば,「また余計な仕事が増える」あるいは「責任が重くなる」といったことを感じて,反対したり尻込みする可能性もある.
実行の段階で重要なことは,関係者が解決策を単に認識レベルで理解するだけでなく,できれば共感,少なくとも感情レベルで同意し納得して貰わなくてはならないということである.そうでなければ関係者は解決策の実施に際して本気になって取組むことが難しい.仕事だから取組むという程度では多くの場合実行段階で失敗してしまう.そのためには,解決策の説明や実施において社会的倫理や正義に反することがないことは前提として,関係者の立場に立ち誠実にその目線に合わせ,使命感と情熱を持って真摯に働きかけることが必要であろう.そしてキーパーソンやメンバー達が意気に感じて主体的に問題解決に向かうようベクトルを合わせ,力を結集するために心血を注がねばならないのだ.妨害はしないけれども極端な反対意見を述べて逃避するような人が出てきても,問題が解決すれば関係者は少なくとも達成感や幸福感を味わうことができることを信じて粘り強く誠心誠意働きかけるのだ.簡単に言えばこのプロセスは,対人系能力の発揮が必要だということである.
少なくともキーパーソンが納得すれば実行に取り掛かることができるだろう.

モニタリングし,見直し,修正する

実行を開始したなら,随時,進捗状況をモニタリングし,必要ならば見直し・修正しながらゴールまで進める.この段階での状況に応じた見直しも重要である.状況は刻々と変化するので時には解決策が意味のないものになってしまう場合や方向転換しなければならない場合もある.状況が当初の状態と全く変わってしまっているにもかかわらず,「決めたことだから最後までやり抜く」というのは,根性があって良さそうであるが,見直して変更すべきなら根性論にしがみついていてはならない.そのような場合にも「解決策立案プロセス」で検討した解決策代替案は役に立つのだ.予め検討済みの代替案に乗り換えることも,あるいは時には課題化の段階に戻ることも必要となる場合があるだろう.

2.4.4 問題解決の全プロセス・イメージ図

ここまで問題解決の全プロセスを通して説明してきたが,全プロセスをイメージで捉えられるように補足的に本項を設けたので,必要に応じて参考にしていただきたい.
これから先の論理思考の応用部分に相当する「第3章~第5章」では,問題解決プロセスの要所要所を個別に学ぶことになる.図2.7 には,そこで扱う3つの方法,「第3章 論理ピラミッドを構築して活用する」における「論理ピラミッド」,「第4章 論理ツリーに展開して活用する」における「ロジックツリー(フレームワーク)」,「第5章 因果関係の解明に活用する」における「因果関係図」と問題解決プロセスとの関係を含めて描かれている.

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図2.7: 問題解決の全プロセス・イメージ図

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2.5 本章のまとめ

本章では「原因のある問題」と「原因のない問題」を視野に入れ,「問題」を広義に定義した上で論理思考による普遍的な考え方に基づいた問題解決法を紹介した.同時に,今日の多くの組織に見られる「問題解決以前の問題」というものの存在とその解決法についても触れた.
問題解決プロセスにおいては,プロセスの全体を通して「目的達成志向」により取組むことの重要性を認識し,1)課題形成(問題を正しく把握することを含む),2)解決策立案,3)実行の3つのステップに分割して論理思考の役割に関する要点について学んだ.最初の1)課題形成プロセスにおいては,その意図するところは「問題の本質的解決策の基本方向を明らかにする」点にあり,活用する方法が3 種類あり,それらのロジカル・シンキングにおける道具を対象とする問題のタイプに応じて使い分ける,時にはmix して使うということにも触れた.次の2)解決策立案プロセスにおいては,論理思考を活用して目的に合った適切な枠組みを設定することが,創造思考を支援し,有意義な解決策の創出を可能とするということを学んだ.最後に,3)実行プロセスにおいては,解決策という結論に至った論理をキーパーソンに説明し,感情レベルでの同意を獲得することが大事だということについても学んだ.

<第2章終り>

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