問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

プレゼンテーション・シート作成

第3章 論理ピラミッドの構築:続きページ(3)→次のページ(4)へ

3.2 論理ピラミッドを活用してみよう

論理ピラミッドを構築できるようになれば,論理思考の応用分野の半分近くは視野に入れることが可能である.応用分野の1つ,現象型の問題における本質的原因の発見に関しては,前節のボトムアップ・アプローチのところで詳細に説明した.本節では論理ピラミッドを用いるその他のいくつかの典型的な応用分野について足を踏み入れることにしよう.
実際に論理ピラミッドを構築してみることがトレーニングになるので,軽く流し読みせず例題には時間をかけて自分でも取組んでみていただきたい.

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3.2.1 説得力のあるプレゼンテーション・シートを作成する

「プレゼンテーション」の全体については別の書籍で学んでいただくことにして,本書ではプレゼンテーション・シートの1ページ分を作成することに絞って学んでおくことにしよう.
なお,プレゼンテーションにおいては話し手と聞き手という関係が存在する脚注3-5)ので,交渉や説得などと同様に,論理思考能力だけでなく「相手の立場に立って共感が得られるような」対人能力との協働行為となることを認識しておいていただきたい.ここでは対人力については触れないが,「目的達成志向」で考えていただければ,少なくとも相手によって「伝える事柄の内容・詳しさや水準の程度」などは異なるということはおわかりいただけるであろう.

わかりやすい論理的なプレゼンテーション・シートを作成する基本は,伝えたい1つのメッセージとそのメッセージを裏付けるシンプルな論理を明示することである.その際の論理構成は,通常,論理ピラミッド(本章),ロジックツリー(第4章),因果関係図(第5章)のいずれかであり,その論理を支える根拠として事実データを含むグラフや事実情報が使われる脚注3-6)

プレゼンテーション・シートを作成するには

  • 1枚のシートの上部に,聞き手に最も伝えたい明確なメッセージを1つ置く
  • 残りのスペースにそのメッセージを論理的に説明する事柄を配置する

-論理構成は可能な限りイメージ化してわかりやすく示す
-論理には事実に基づく根拠を提示する

これで良いのだ.一度にいろいろなことを伝えたい気持ちはわからなくはないが,1シートに1メッセージが原則である.プロの作ったシートの殆どは原則どおりに作られている.

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本小節ではプレゼンテーションの基本的なスタイルの1つとしてシンプルな論理ピラミッドを構築し,具体的な実例でプレゼンテーション・シートを作成しながら説明しよう.

下表は近年の国内小売業における主要販売窓口の販売額推移である.このデータを使って,近年の電子商取引額が顕著な伸びを示していることを主張するプレゼンテーション・シートを作成してみよう.

表3.1: 国内小売業における主要販売窓口の販売額(単位:兆円)

暦年 スーパー販売額 百貨店販売額 コンビニエンスストア販売額 消費者向け電子商取引額

1998 12.6 10.7 6.0 0.0
1999 12.8 10.3 6.4 0.2
2000 12.6 10.0 6.7 0.4
2001 12.7 9.6 6.8 0.8
2002 12.7 9.4 7.0 1.5
2003 12.7 9.1 7.1 2.9
2004 12.6 8.9 7.3 3.9

・百貨店・スーパー・コンビニエンスストア販売額:経済産業省「商業販売統計」より
・消費者向け電子商取引額:経済産業省ほか「平成16年度電子商取引に関する実態・市場規模調査」より

まず,データをグラフ化すると共に,適切な主メッセージを考え,その主メッセージを論理的に導くことが可能な論理のつながりと事実データに基づく根拠を見出すといった検討を行う.グラフを作成すると大よその傾向を掴むことが可能だ.そこで,例えば,主メッセージとして,

 「一般消費者の電子商取引額は急速に増大している」

という命題を考えたとする.これで正しいが,残念ながら論理思考のメッセージとしては十分とは言えない.このメッセージでは「いつ」の話か,「どこ」の話か不明である.この際ついでに頭に入れておいて欲しいが,新たに構築する主メッセージにはひと通り5W1H(When,Where,Who,What,Why,How)を考えてみて,目的に合わせて必要な項目を盛り込むように心がけると良い.「一般消費者の電子商取引額は急速に増大している」まず,データをグラフ化すると共に,適切な主メッセージを考え,その主メッセージを論理的に導くことが可能な論理のつながりと事実データに基づく根拠を見出すといった検討を行う.グラフを作成すると大よその傾向を掴むことが可能だ.そこで,例えば,主メッセージとして,

さて,先のメッセージに戻って,「急速に増大している」かもしれないが,絶対額が小さければ,ことさらそのことを取り上げて主張する意味はあまりない.また,小売業全体におけるポジションなどもある程度は伝える内容にしたい.実は適切な主メッセージを考えるのは,適切なグラフを描き論理ピラミッドを想定しながらトップダウンとボトムアップによる整合を考える必要があり,かなり高度な思考力を必要とするものだ.
適切なメッセージに修正すると,例えば,

 「近年,一般消費者のインターネット経由販売は日本国内小売業の販売窓口として,無視できない規模で急成長している」

といった感じにすれば良いだろう.メッセージは正しく伝えるためにある程度の長さになってしまうのは止むを得ないが,数行もの長さになるとプレゼンテーションの聞き手の理解に支障を来たすので,長くても3行くらいまでが限度であろう.
適切な主メッセージを作成できれば論理的に支えるピラミッドを作成するのはそれほど難しくはない.論理ピラミッドは手元資料のようなものであり,口頭で伝える内容だから,階層が深いもの,複雑なものは避けたほうが良い.例えば,図3.20のようなせいぜい3階層程度までのシンプルな論理ピラミッドが望ましい.
論理ピラミッドを良く確認していただきたい.最下位命題から最上位命題まで論理的なつながりが存在し,最下位命題はデータが示す事実であり,論拠となっている.これでロジカル・プレゼンテーション・シートを作成するためのシナリオができたことになる.

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図3.20: プレゼンテーション内容の論理ピラミッド

次は,実際にプレゼンテーションに使うシートを完成させることになる.この段階までにはラフなグラフや図はある程度描かれているはずである.プレゼンテーションでは主メッセージの下にある中間命題や最下位命題は視覚的にグラフや図で示し,命題内容は口頭で伝えるのだ.つまり,プレゼンテーションを実施する際には,最初に主メッセージを伝え,次に一方のサブメッセージに相当するグラフ部分を指差しながら,サブメッセージを伝え,続いてそのサブメッセージを裏付ける最下位の事実データを示すグラフを指差しながら,最下位命題の内容を伝える.その後で,もう一方のサブメッセージ,それを裏付ける最下位命題という具合に説明を行う.このような論理ピラミッドの説明をイメージしながら,既に描いてあるラフなグラフを修正し,プレゼンテーション・シートを作成して行くことになる.
グラフの主題,縦軸・横軸の名称・単位,使うべきデータの範囲,データの出所,凡例等不可欠な事柄を考え,適切に記載する.元データには7年分の数値があるが,この場合,5年分くらいで十分だろう.一方,特に「命題」を口頭で伝えても,グラフからは聞き手に読取ることができない数値が「命題」の中に存在するような場合には,数値の記入などの配慮が必要である.かくして,図3.21のようなプレゼンテーション・シートが出来上がる.

321

図3.21: プレゼンテーション・シート例

前出の論理ピラミッドを頭に描き,あるいは手元に置いて図3.21のシート上の各説明ポイントを指差しながら,声を出して実際にプレゼンテーションをトライしてみていただきたい.

では,次の例題に取り組んでいただきたい.

例題3-6 国内自動車メーカーA社およびB社の20XX年度世界地域別自動車販売台数は下表のとおりである.このデータに基づいてどのようなことが言えるか.プレゼンテーション・シートを作成し,簡単な説明論理を示せ.

A社およびB社の20XX 年度世界地域別自動車販売台数(単位:万台)

日本 北米 欧州 アジア・他

A社 26 41 33 37
B社 22 17 34 63

注)北米市場にはカナダを含む.
数値は各社20XX年度有価証券報告書による

データに基づいてどのようなことが言えるか,というより,現実の場面では何らかの目的があって,その目的に適した1つの主張を事実に基づいて示すということになるが,僅かなデータだけでもいくつかのことが言えるであろう.例えば,A社とB社による対等合併の可能性を提案しようと検討している場面では,「A社とB社はほぼ同程度の販売規模である」といった事柄は1つの論拠になるので,例題3-6解答例1のようなプレゼンテーション・シートを作成すれば良いことになる.

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図3.22: 例題3-6解答例1 プレゼンテーション・シートおよび説明論理例

同じくA社およびB社の合併可能性を検討している場面でも,両社による地域別総販売台数はどうかといったことを示すには,解答例2のようなプレゼンテーションの方が適していることもおわかりいただけると思う.

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図3.23: 例題3-6解答例2 プレゼンテーション・シートおよび説明論理例

一方,A社とB社の販売市場戦略の違いについて言及しようという目的であれば,解答例3のような「A社は北米市場への販売が多く,B社はアジア・他市場への販売が多い」といったプレゼンテーション・シートの方が適している.

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図3.24: 例題3-6解答例3 プレゼンテーション・シートおよび説明論理例

この場合,市場地域に関する特性に関して,元データに存在しないが関係者の誰もが承知している事柄,例えば「北米,日本地域は先進国市場である」といった前提条件が使えるなら,更に一歩踏み込んで解答例4のように「A社は先進国市場への,B社は新興国市場への販売ウェイトが高い」といった応用も可能である.
ただ,ここで注意しておきたいことは,何の前提条件も設定せずに,例えば「B社はアジア・他市場において強みがある」とか「B社はアジア・他市場に戦略的に展開している」といったメッセージを作成することはできないという点だ.アジア・他市場の販売数量に関連して,存在するデータに基づいて言えることは,解答例3のように例えば「B社はアジア・他市場において、販売台数でA社を上回っている」といった内容になることを正しく理解しておかなくてはならない.

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図3.25: 例題3-6解答例4 プレゼンテーション・シートおよび説明論理例

以上のようにどのようなことを主張したいのかに合わせて,グラフの表記を適応させるというのも「目的達成志向」の一環であるが,元データの扱いには百分率(%)に直して扱う,円グラフを用いるなどまだまだ多くのバリエーションの余地があることも併せて理解しておいていただきたい.

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