問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

基本戦略方向の見極め

第3章 論理ピラミッドの構築:最終ページ(5)

3.2.5 進むべき基本戦略方向を見極める

企業における既存の事業戦略の見直しや新規事業戦略,あるいは企業戦略,個別商品戦略などの検討場面においても,論理思考の果たす役割は大きい.そもそも「これこれの戦略を考え,実施する」という問題(課題)は問題解決の1つのテーマであり,従って,「第2章問題解決の主役はロジカル・シンキングである」で紹介した問題解決プロセスに沿って進めることが可能である.戦略立案などの原因のない問題である設定型あるいは創造型の問題に対してはその課題形成プロセスにおいて,それらの課題の本質を見極めることがポイントである.適切な情報収集の後には解決策志向により論理ピラミッドを構築して「解決策の基本的方向」を明らかにするのだ.そのアプローチはすべての設定型あるいは創造型の問題に適用可能であり,新規技術開発,商品開発,未来構想等においても同じなので要点となる事柄を掴み応用力を発揮していただきたい.

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本小節では例題を用いて,ある企業の今後の基本戦略方向について検討してみることにしよう.ただし,本節の範囲で取組めることは問題解決プロセスで言えば,「課題形成プロセス」の終わりまでである.その次のステップとしての「解決策立案プロセス」つまり,「戦略立案」に関しては次章の「第4章論理ツリーに展開して活用する」部分の例題で紹介させていただくことにしたい.

例題3-11 以下の情報に基づいて,乗用車・トラックの製造・販売を手がける国内自動車メーカーM社の今後の基本戦略方向について検討しなさい.

  1. M社は国内はもとより,米国,ドイツ,中国に研究開発拠点を置き,米国,中国,台湾,タイ,フィリピン,南アフリカ等にも海外生産拠点を有し,グローバルに事業展開している.
  2. 世界の自動車市場は2007年~2009年の期間では中国,ブラジル,インド等新興国の拡大傾向にもかかわらず,日米欧など先進国の縮小により,全体として総計6000万台付近で増減している.
  3. 世界の自動車メーカーは,慢性的で深刻な設備余剰に直面しており,特に2009年の平均稼働率は66%にまで落ち込んだ.新興国の需要拡大を背景に,今後は徐々に改善が進むと見られているものの,過剰な生産能力の削減と生産効率向上のための合従連衡が世界規模で加速しつつある.
  4. M社の生産設備過剰も例外ではなく,例えば,2009年の生産台数は2008年生産台数比で73%である.
  5. M社は,2009年世界の自動車メーカーの販売台数ランキングでは14位,上位16社に占めるシェアは2.2%で,シェアが最も高い国内市場でもトヨタ,ホンダ,スズキ,日産,ダイハツに次いで6位の4.4%と低迷している.
  6. M社の2010/3期連結売上高は2兆円を超え国内自動車メーカーの中ではスズキに次ぐ5位であるものの,営業利益率は0.4%で8社の中では最下位にいる.
  7. 最近のM社の株式時価総額は上位国内自動車メーカー8社の中で最下位であり,売上高規模の割には市場からの評価は低い.
  8. M社は2015年度売上高営業利益率5%以上を目標としている.
  9. M社にはシンプルで軽量,低振動・低騒音,アンチノック性能など多くの特徴あるロータリーエンジン技術があるが,低速運転時の燃費,トルク効率の弱点などにより搭載車は限定される.
  10. 以前からの提携先である米F社は,資金調達のため,2010年11月主としてM社のメインバンクMS銀行等に株式を売却し,持ち株比率を11%→3.5%としたが,M社との提携関係は継続している.
  11. M社は中国市場では,中国自動車企業である長安汽車,第一汽車とは生産・販売提携拡大方向にある.


この例題は戦略検討の課題であるが,事業戦略を考える場合においては,大変便利な戦略的3C(Corporation:自社,Customer:顧客,Competitor:競合相手)脚注3-8) という枠組みがあるので,この際ついでにマスターしておくと良い.通常,最初に実施する現状分析においては戦略的3Cに加えて,戦略を考える対象となる企業なり,事業なりを取巻く環境E(Environment)とい う項目を加味して4つの枠組みで情報収集することが多い.
通常の戦略課題であれば課題形成プロセスにおいて,情報収集,本質的問題の発見,課題化の各ステップを目的達成を志向して丁寧に進めれば良い.一般的には戦略上重要な事柄を重要視して情報収集し,例えば,3Cにおいて,魅力的な市場・顧客ターゲットを「選択」し,自社の強みに「集中」し,強みを活用して競合他社を「差別化」できるようなことに関連する命題にウエイトを置いて抽出し,最も成功確率の高いやり方につながる上位命題を作成するように進めて行けば良い.

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そこでまず情報収集ということになるが,手短かには上場企業であれば該当企業を含め競合企業等のホームページにあるIR(Investor Relations)情報部分から有価証券報告書やアニュアルレポート,事業計画書などを入手することが可能だ.生産統計は国土交通省,経済産業省等,市場の状況は自動車工業会の統計資料や銀行の調査報告書,調査会社のレポート等を利用できるので半日ほど定量的なデータを眺めてポイントを命題化するといろいろなことが見えてくるだろう.現状把握においては個別の事実情報だけでなく,要所要所は定量的な事実データに基づいて裏付けのあるメッセージを作成しておくことも大事である.
例えば例題3-11で記載されている「最近のM社の株式時価総額は上位国内自動車メーカー8社の中で最下位であり,売上高規模の割に市場からの評価は低い.」というメッセージは収集した定量的なデータに基づいて作成されている.その1例を載せておくので参考にしていただきたい.

332

図3.32: 例題3-11 データに基づくメッセージの作成例

例題3-11では既に収集された情報として記述されているので,ここでは改めての情報収集は省略するが,情報の収集によって現状の把握ができたならば,この次のステップは本質的問題の発見(考察)である.考察では今後の戦略を考えようとしているので,把握した現状情報からどのようなことが言えるのかという見方で,目標としている事柄とのギャップを埋める戦略的ポイントを抽出しようと,つまり,基本戦略方向を志向して重要な事柄を命題化するのである.
もし,自社が相対的に特異な優れた技術を持っているとか,強力な販売網がある,企業価値が高いといった強みなどがあれば戦略の打ち手の1つにすることができる.特に顧客価値につながる独自の強みなどは抽出したいところである.一方,市場や顧客を見た場合,自社にとって魅力のある市場や顧客ニーズを抽出できれば上位命題に登場させられるであろう.競合に対しては何らかの差別化可能な武器を見つけられるなら活用したいところである.もちろん,現状把握によって現状事業が不調であり,その本質的原因が抽出されるという場合もある.あるいは自社の現在の弱みが致命的となるようであれば,解決しておかなくてはならない重要なポイントとなるので,やはり抽出されることになる.

解答例:本質的問題の発見
【現状把握に基づく考察=戦略的ポイントまたは解決すべき課題ポイントの抽出】
*市場・顧客(Customer):

  • 世界の自動車市場は先進国では縮小傾向にあるが,中国,ブラジル,インド等新興国を中心に拡大方向にある.
    →根拠となる情報:2

*競合(Competitor):

  • 世界的な生産設備過剰状況が続き,自動車業界再編の動きが起きている.
    →根拠となる情報:3
  • 国内外の市場に多数の強力な競合ライバル企業が存在し,M社はいずれにおいてもシェアが低く,営業利益率面でも下位に位置している.
    →根拠となる情報:5,6

*自社(Corporation):

  • 営業利益率5%を目指しグローバルに幅広く展開しているが,注目すべき強みは見当たらず,株式時価評価は低く,生産設備は過剰状況にある.
    →根拠となる情報:1,4,7,8,9
  • 現在、米F社、中国長安汽車・第一汽車およびMS銀行との間で提携または資本関係がある.
    →根拠となる情報:10,11

あくまでも設定された情報の範囲から導かれたものであるが,かくして,3Cの観点で今後の戦略を考える際の課題ないし戦略ポイントが上位命題として抽出されたわけである.この先は課題化ということになるが,第2章で学んだように「要するに問題・課題の本質はどういうことなのか,解決策の基本方向はどうなるのか」を明確にして命題化することである.具体的には,たった今上記のように3Cの観点で考察した上位命題の重要事項に着目し,更に上位のピラミッド頂点に問題・課題の本質として明らかにした上でそれを課題ないし戦略ポイントとして明確化するということに相当する.それを実施すると次のようなことになるだろう.

解答例:課題化
【課題解決または基本戦略の方向】
本質的問題の発見プロセスで抽出された課題ポイントにより,要するに「M社は拡大している新興国自動車市場を含む世界中に幅広く展開しているが,いずれも市場シェアは低く,過剰な生産設備も抱え,経営効率も悪い状況にある.」と言える.
従って,M社の今後の課題解決ないし基本戦略方向は,事業,活動地域・対象市場,過剰生産設備の見直しを視野に入れ,経営効率の向上に取組むということになる.

課題形成プロセスにて課題化された「課題解決または基本戦略方向」というのは,「状況が多少変動しても基本的には変わらない重要な方針・打ち手」となりそうなポイントに相当する.これでM社が今後の課題解決または戦略を考える際の基本的方向が明確になったことになる.次のステップでは課題解決または基本戦略方向に沿って戦略代替案を立案して行く例題として,次章で取組んでいただくことになる.

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3.3 本章のまとめ

本章では論理思考の第1の応用分野として論理ピラミッドの作成を通じて,論理構築することについて学んだ.論理ピラミッドの作成にはトップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチとがあり,特にボトムアップ・アプローチについては,問題の本質を明らかにして行く道筋について詳細に学び,情報収集,グルーピング,上位命題作成,結論としての最上位命題の導出まで一貫して「目的達成志向」をもって臨むことの必要性について理解した.また,論理構築に役立つ,適切な命題作成のポイント,命題どうしのつながりと接続用語との対応関係についても感触を掴んだ.論理ピラミッドの作成による論理構築への活用例としては,プレゼンテーション・シートの作成,議論,報告書・論文作成,30秒ステートメント,課題解決または基本戦略方向の策定について具体的に学んだ.

<第3章終り>

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