問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

因果関係図の作成

第5章 因果関係の解明:続きページ(1)→次のページ(2)へ

5.1 因果関係図を使って因果関係を解き明かす

事象の因果の関係を解き明かすために,通常,原因と結果とのつながりの関係を矢印(→)で結合した因果関係図というものを作成する.事象の因果の関係に対して整合性のある因果関係図を作成すると問題の状況の全体が見えて来るようになり,何らかの結果として生じている問題の本質的原因を明らかにすることが可能となるのだ.仮説として明らかにされた本質的原因が検証されたならば,課題化してその先に進むことができるというわけである.

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ただし,「第2章 問題解決の主役はロジカル・シンキングである」においても触れたが,一般に何らかの原因の結果として生じている現象は,時間とともにその程度が進み,結果として生じた現象が2次的な原因となって,更に別の現象を生じさせ,時間の経過とともに状況が変化して行くものである.すなわち,「構造型の問題」における本質的原因が解消されたとしても,既に生じてしまっている現象が2次的な原因として起こす問題が解消されるとは限らない.2次的,3次的に生じる問題の方が拡大し,緊急性を要する状況となる場合もある.従って,あくまでも「問題解決」においては,解決すべき問題に対して取組む必要があるということに変わりはない.

5.1.1 因果関係図を作成する

ある一連の事柄に関連して,ある時点における観察または推定される事実としての原因と結果の関係を矢印で結合して描いた図を因果関係図と呼んでいる.狭義の原因と結果という関係に限らず,事象の発生する順序関係や事象間の主従関係,力関係,構造的関係などを含めた広義の因果関係を対象として捉えることができる.
例えば,日本国内の製紙企業が現在どのような状況にあるのかを因果関係図として描いてみよう.少し調べるとわかることであるが,我が国の製紙企業を取巻く状況として下記のような事象の情報が収集できるだろう.

 我が国の製紙企業を取巻く状況
  • 低成長の日本国内紙製品市場が飽和しているという背景がある
  • 中国から日本紙製品市場への低価格品が流入している
  • アジア地域での低価格紙製品生産量が増大している
  • 中国における紙製品市場は急成長している
  • 中国国内製紙企業が台頭しつつある
  • 中国紙製品市場へグローバル企業が参入している
  • 日本国内の紙製品への低価格化影響が増大している
  • 内需依存の日本製紙企業の利益が圧迫されている
  • 紙製品の過剰供給を伴う価格競争が激化している
  • 日本国内企業は新たな大型設備投資による効率化により価格対応を図ろうとしている

これらの事象の因果関係を読み解きながら,試行錯誤を繰返し矢印で結んで構造化して行くと,例えば,図5.1のような図が出来上がる.このような図を因果関係図というのである.

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図5.1: 因果関係図例:国内製紙企業行き詰まりの構図

この因果関係図を眺めて,「成長なき国内製紙企業が行き詰まり状態に陥っている」状況を認識することができ,注目すべき重要事象は直接的には「中国から日本紙製品市場への低価格品が流入している」ことおよび「低成長日本市場が飽和している」というところにあると見ることが可能である.ここでは言及しないが,問題状況の解決に関する方向を示唆していると見ることが出来よう.

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5.1.2 因果関係を解明するポイント

因果関係の解明は基本的には「問題解決における課題形成プロセス」,つまり,情報収集・本質的問題の発見・課題化というステップに沿って実施することになる.以下にそのステップをまとめておこう.

因果関係解明のステップ

  1. 関連する情報を収集し事実を正しく把握する.
    • 個々の事象を取り巻く関連事象を,全体にわたり可能な限り過不足なく捉える
  2. 全体としての事象の関係性を明らかにし,因果関係図を描く.
    • 因果の関係に従って事象間を矢印でつなぐ
  3. 目的達成志向で本質原因を明らかにする.
    • 個別事象要素の重要度を明確化する
    • 事象関係の中で,根幹となる・影響度の高い本質事象を見極める

関連する情報を収集・分析し,因果関係図を描くことができたなら,目的達成志向で,つまり本質的原因を発見しようとする志向を持ち,因果関係図の矢印に沿って順次どの事象が重要要素となるか,個別事象のどれが本質的原因となり得るか確認して行くことによって明らかになる.そうすると,突き止めた本質的原因を(裏返して課題表現に書き直すことによって)課題化し,解消すれば良いということになる.

ところで,因果の関係を矢印でつなぐというのは案外難しいものである.2つの事象間でどちらが原因で,どちらが結果であるのか,なかなかよくわからないといったことに突き当ることがしばしばあるだろう.そのような場合には対象となる事象の本質についてよく考え,第3章の「3.1.3 論理的なつながりを言葉で確認する」,特に「論理結合に対応する言葉」を参考にして,因果関係のつながりを確認することが役に立つ.ただ,因果関係図作成においては,前章で学んだMECEという概念をさほど重要視していない点に注意したい.それは関係するすべての事象を網羅する必要がなく,重要な関係に着目すれば根幹となる事象を見極めることが可能であるという仮定に基づいている脚注5-1).同様にシングル・チェーン・ロジック(参照:シングル・チェーン・ロジックには注意しよう),つまり複数段の事象命題の単結合や同一論拠,つまり1つの事象命題から2つ以上の事象命題に向けた複数の矢印が躊躇無く使用されるということも知っておいた方が良い.
因果関係図の作成目的はあくまでも問題解決のための示唆を得る点にあり,そのための,より確度の高い仮説を発見することに狙いがあるので柔軟にお考えいただきたい.

因果関係図から本質的原因を発見する際にも押さえておきたいポイントがある.多くの場合,本質的原因は因果関係図において一連の問題現象に共通的につながっているネックとなるチャネルのような位置に配置されている傾向がある.本質的原因というのは「それを解消した際に,懸案の問題を解決することになる確率が高い」ので,「感度が高く,効き目がある」ことを見極めることによって,それが確度の高い仮説として本質的原因となり得ると判断するのである.しかし,もし,本質的原因と考えた事象を解消した際に,懸案の問題が解決されない場合,あるいは解決されるとは限らない場合には,それは本質的原因と判断することはできないということに注意する必要がある.

例えば,

  • (1)  因果関係が動的に変化して,本質と考えた原因との関係が間接的となってしまっているような状況の場合
  • (2)  因果関係としては大いに関連がある原因であっても,問題の現象に対して直接的な関係ではない状況の場合には,そのようなことがあり得る.

前者の場合の例としては,2007年頃から顕在化した米国サブプライム・ローン問題から波及した世界の経済危機問題がちょうどその典型例であろう.発端となったサブプライム・ローンの返済問題を何らかの処置によって解消したとしても,例えば,自動車の急激な需要減少により経営危機に陥った米自動車企業の問題やインドIT企業の収益低下問題,アイスランド国家の破綻問題などが解決することにはならない.例えば,世界に拡大した銀行・証券企業における金融危機は資金流動性の欠如が共通した本質的原因へと状況が変化している.つまり,波及によって生じたそれらの様々な経済問題の本質的原因は米サブプライム・ローン問題だと判断することはできないということになる.

後者の場合のような例もしばしば見られるので,次の例題に取組み,因果関係図を作成して問題の本質的原因を明らかにするという例を確認してみよう.

例題5-1 ある企業で次のような問題現象(いずれも事実)が生じている.本質的な原因を明確にするための因果関係図を作成し,(その原因を解決すればこの問題を克服できることになる)本質的原因を明らかにしなさい.

  1. 社内に存在する有用な情報システムおよび情報が共有・活用されず,全体として業務の無駄が生じている
  2. 情報インフラ推進業務計画が,部門または事業所ごとに独自に立案され遂行されている
  3. 全社のIT戦略や情報インフラ推進を統括するCIO(CKO)a)が実質的に不在または機能していない
  4. 全社で共通に活用できる情報インフラ整備がなかなか進まない
  5. 全社で複数の異なる購買管理・勤務管理システムが独自に構築されて使われている
  6. 同じ目的のために,異なる情報システム投資を行うなど随所で2重投資の無駄が生じている
  7. 全社レベルで全体最適化を制御・推進する横断的機能が働いていない
  8. 事業所・部門が必要な情報システムを導入するに際しては,予算の獲得以外には何の制約もない
  9. 今までの情報インフラ推進業務は,全社での全体最適視点に立つビジョンが確立されないまま遂行されている
  10. 異なる情報システム間で情報交換ができないという問題が長い間放置されたままになっている
  11. 経営がIT戦略や情報インフラ推進を重要な経営課題と認識していない

a)Chief Information Officer(Chief Knowledge Officer)

この例題はさほど難しくはないだろう.解答例を図5.2に載せたので確認していただきたい.ただ,実際にこの例題に取組まれた読者の皆さんの中には,本質的原因として,「経営がIT戦略や情報インフラ推進を重要な経営課題と認識していない(本質的原因1)」を挙げたケースが少なからずあるのではないだろうか.

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図5.2: 例題5-1 解答例:情報システム整備問題

例題の企業の情報インフラ推進に関する問題は,「情報インフラ推進に関連し,全社レベルで全体最適化を制御・推進する横断的機能が働いていない(本質的原因2)」点に本質的原因があると分析した方が良い.何故,そのように捉えることになるのだろうか.そのわけは次のような確認をしてみると納得できると思う.

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本質的原因1を解決すると「経営がIT戦略や情報インフラ推進を重要な経営課題と認識する」ことになるが,「経営が認識した」からと言って,例えば,「全社レベルでの全体最適化された情報インフラ推進が可能になる」という保証がどこにもないのだ.経営者が自ら推進したとしても適切に実施できる保証がなく,号令をかけたとしても推進するのは経営者ではないので実施されるという保証もないのである.しかし,本質的原因2を解決すると「情報インフラ推進に関連し,全社レベルで全体最適化を制御・推進する横断的機能が働く」ことになるのであるから,情報の共有・活用や2重投資などの問題が解決されると見ることが可能なのである.本質的原因2の解消は生じている問題現象に対して,ダイレクトに関係し,ネックとなっているチャネルを開くことになるといった感触が掴めると思う.

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