問題解決に役立つロジカルシンキング(論理思考)を基礎から学ぶ。

本質的原因の解明

第5章 因果関係の解明:続きページ(2)→次のページ(3)へ

5.2 因果関係図を活用してみよう

問題の構造を理解して本質的問題を発見し,それを適切に解決する目的で,因果関係解明のための因果関係図を作成する方法について学んだ.そこで,実務の世界で直面するようないくつかの構造型問題を取上げて因果関係図の活用例に触れてみよう.

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5.2.1 構造型問題の本質的原因を明らかにする

当たり前であるが,因果関係図を描くために必要な情報のすべてがいつもそろっているとは限らない.論理的に考えられる原因を導入して,因果の関係を推論することも必要となる例題に取組んでみよう.

例題5-2 ○○英会話スクールは最近入学者数が減少して売上が低下しており,その原因を調べるために収集した情報は下記の通りである.これらの情報を元に因果関係図を作成し,本質的原因に関する仮説について言及せよ.

  • ○○英会話スクールは最近多くの入学者を獲得できなくなって困っている
  • インターネット・出版物・電車内広告,卒業生紹介などで新入生募集のアピールをしている
  • 広告内容は講師陣が作成している
  • 売上高の割りに講師への謝礼費が少ないという経理データがある
  • 最近,近くに多くの生徒数を獲得している△△英会話スクールができた

利用可能な情報が非常に少ないので,やや難しい課題であるが,いくつかのことが推論できる.例えば,英会話スクールへの入学者はどういった経路で入学して来るのだろうか.一応MECEに考えるなら下記ルートが考えられる.

 >スクール自身が実施する新入生募集
   >新入生募集説明会などを通じて
   >広告等の報知媒体を見て
 >スクールが他者に委ねている新入生募集
   >卒業生からの紹介により
   >生徒やその知人からの口コミにより

検証する必要があるが,どうやらこのスクールは新入生募集のための説明会のような方法は実施していないようなので,事実上は次の3つのルートであろう.

   >広告等の報知媒体を見て
   >卒業生からの紹介により
   >生徒やその知人からの口コミにより

これらは,スクールの講師の力量や講義の魅力と大いに関係がありそうだ.

また,経理データ「売上高の割りに講師への謝礼費が少ない」ということはどういうことだろうか.次のケースが考えられる.

 >売上高の割りに講師への謝礼費が少ない
   >生徒数の割りに講師の人数が少ない
   >生徒数の割りに講師の人数が少ないということはない
     >高額の謝礼を支払う価値のある講師が少ない
     >高額の謝礼を支払う価値のある講師が少ないというわけではない
       >講師への謝礼の絶対値が少ない

つまり,下記3つのケースである.

  >生徒数の割りに講師の人数が少ない
  >高額の謝礼を支払う価値のある講師が少ない
  >講師への謝礼の絶対額が少ない

「売上高が少ないと経費を切り詰める力が働く」と考えられ,「広告・宣伝費や講師への謝礼も切り詰めの対象になる」可能性がある.一方,「最近,近くに多くの生徒数を獲得している△△英会話スクールができた」という事実は極めて重要な要素であり,「何故,多くの生徒数を獲得できているのか」を調査する必要があるということもわかる.

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因果関係図の作成は,基本構造のようなところから開始しても良いし,わかりやすいところから開始しても構わない.例えば,「入学者数が少ない」,何故?,「△△英会話スクールに生徒を奪われている」,「3つのルートからの入学者が少ない」,何故?「口コミ評判が芳しくない」,・・・と矢印(←)を使って繋いで行く.「売上高講師料率が低い」,具体的には「クラス人数が多い」,・・・と同様に矢印(→)を使って繋ぐ.
かくして,「○○英会話スクールが多くの新たな入学者を獲得できていない」状況に関して解答例として図5.3のような因果関係図を作成することができる.なお,「売上高講師料率が低い」という部分にはロジックツリーが使われているのでご注意いただきたい.

503

図5.3: 例題5-2解答例:○○英会話スクールの状況

図5.3においては,「広告アピール内容が魅力に乏しい」ことおよび「スクール内容・講義の魅力が乏しい」という2つの原因について,その解消は「感度が高く,効き目がある」ことに気づくであろう.これらの本質的原因を克服できれば,顧客サイドの需要が存在する限り,問題を解決することができると言える.更に,この例の場合,「△△英会話スクールは何故多くの生徒を獲得できているのか」を調査し,上記本質的原因との一致を確認できれば,より確度の高い解決策が考えられるに違いない.例えば,案の定,△△英会話スクールには超人気美人講師がいたといったことが確認できるかもしれない.
蛇足であるが,たとえ,「講師の謝礼が少額である」ことを解消しても解決するとは限らないといったことも頷けると思う.

5.2.2 現象型問題の本質的原因解明にも適用する

私達が直面する現象型の問題というのは,その本質を探るべく深く考察して行くと構造型の問題として捉えることが可能になる場合が多いものだ.次の例題はそのような事例である.

例題5-3 ある企業の技術開発部門の中堅技術者Tさんは下記のような状況であるが,今後どう進めば良いか迷っている.Tさんの抱える本質的問題はどのようなことであろうか.

  1. 実践的な仕事が好きなTさんは,現場からの期待も大きく技術的支援を求められることが多い
  2. 上司からは今までの業績を高く評価され,Tさんには若手技術者への技術指導を期待されている
  3. 目下Tさんの最大関心事は上司の期待に沿うべきか,それとも現場の技術支援にタッチするのが良いかという点である
  4. 直面する問題を解決するような場合には,しばしばTさんの意見は的確であり,定評がある
  5. Tさんは技術へのこだわりが強く,現場に近いところで今後も活躍できるはずだと思っている
  6. 中堅技術者Tさんの現状は,日常的に忙しくグルグル動き回っているのが実態で,経験は豊富になるものの,自身の技術レベルの向上にはつながっていない
  7. Tさんの技術的見解であれば,誰もが一目を置いてくれている
  8. 最近は若手技術者が新規技術を使いこなすようになり,Tさんの得意技術は急速に陳腐化しつつある
  9. 先月,7年ぶりに学会に参加したTさんは,自分の深く理解できていない技術分野の進歩に大変なショックを受けた
  10. Tさんは自分の得意な技術分野におけるシミュレーション技術の著しい進歩にはずっと背を向けてきた
  11. Tさんは自分の技術力には自信はあるが,ここ2,3年優秀な若手技術者には異質な実力を感じることがあり,敢えて突っ込んだ技術議論を避けている
  12. Tさんはこれまで得意の技術分野でいくつかの輝かしい業績を挙げたことで社内では良く知られている

説明は省略するが,この問題を現象型の問題と捉え,問題発見志向で事象をグルーピングしてボトムアップ・アプローチにより論理ピラミッドを構築すると以下のようになる.

Tさんが抱える本質的問題(仮説):
周囲からの評価と期待に甘んじ,自身の技術力向上の必要性を自覚しておらず,得意技術の陳腐化が進んでしまっている

・過去の業績は高く評価され,周りからも一目置かれ技術力の活用を期待されている
-過去の業績は高く評価されている

  1. 上司からは今までの業績を高く評価されている
  2. Tさんはこれまで得意の技術分野でいくつかの輝かしい業績を挙げたことで社内では良く知られている

-周りからは一目置かれ技術力の活用を期待されている

  1. 実践的な仕事が好きなTさんは,現場からの期待も大きく技術的支援を求められることが多い
  2. 直面する問題を解決するような場合には,しばしばTさんの意見は的確であり,定評がある
  3. Tさんの技術的見解であれば,誰もが一目を置いてくれている
  4. 上司からはTさんには若手技術者の技術指導を期待されている

・従来の延長上の技術分野でまだ活躍できると思っている

  1. 目下Tさんの最大関心事は上司の期待に沿うべきか,それとも現場の技術支援にタッチするのが良いかという点である
  2. Tさんは技術へのこだわりが強く,現場に近いところで今後も活躍できるはずだと思っている

・技術力向上への努力を怠ってきたために得意技術の陳腐化が進んでいる

-現状に埋没し技術進歩について行くことや技術レベル向上へのチャレンジを怠ってきた

  1. 中堅技術者Tさんの現状は,日常的に忙しくグルグル動き回っているのが実態で,経験は豊富になるものの,自身の技術レベルの向上にはつながっていない
  2. Tさんは自分の得意な技術分野におけるシミュレーション技術の著しい進歩にはずっと背を向けてきた
  3. Tさんは自分の技術力には自信はあるが,ここ2,3年優秀な若手技術者には異質な実力を感じることがあり,敢えて突っ込んだ技術議論を避けている

-新規技術の台頭や理解できていない技術分野の進歩により,得意技術は陳腐化が進んでいる

  1. 最近は若手技術者が新規技術を使いこなすようになり,Tさんの得意技術は急速に陳腐化しつつある
  2. 先月,7年ぶりに学会に参加したTさんは,自分の深く理解できていない技術分野の進歩に大変なショックを受けた

一方,この問題は構造型の問題と見ることも可能で,因果関係図を作成してみると解答例として図5.4のようになる.ただし,因果関係図を作成する過程で,2つの仮説が設定されている.

例題5-3 解答例
(仮説1)上司にはTさんの現在の技術力や若手技術者に対する技術指導力を客観的に評価できていない可能性がある
(仮説2)Tさん自身は自分の得意技術分野の進歩に全くついて行けていないことに気がついている可能性はある

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図5.4: 例題5-3解答例:中堅技術者Tさんを取り巻く問題状況

上段側の仮説は検証を要する重要な仮説であるが,事実情報が不足しているケースでは,このように可能性の高い仮説を設定する等の工夫をすると良い.上司にもいろいろな上司がいるものであり,社内営業に熱心で多忙な上司などにおいては過去の業績や周りの評判などの感触に基づく先入観で捉えている場合がある.それ故,意外にも部下の実態を正しく把握できていない上司が少なからずいるものだ.
反対に,この例題を考える際に「上司はTさんの技術力に関して,正しい現状認識ができている」,「上司や現場がTさんに期待しているのはTさんの持っている,ある特定範囲技術である」という仮説を置いて取組むという考え方があっても良いだろう.その場合には「Tさんは陳腐化影響の少ない従来からの経験的な特定技術(例えば,すり合わせ技術)分野において周囲からも期待され,自分でも活躍できると思っている」といった問題が見えて来るはずである.
図5.4の因果関係図によると,Tさんの抱える本質的問題は「周りからの期待に甘んじ,自身の技術力向上の必要性を自覚できていない」という点にあることが示されており,現象型の問題として浮上した「周囲からの評価と期待に甘んじ,自身の技術力向上の必要性を自覚しておらず,得意技術の陳腐化が進んでしまっている」とほぼ一致していることがわかる.

ついでに,2通りの本質的問題発見方法を通してその相違点にも触れておきたい.実際に2つの方法によって導いた本質的問題には違いがあることに気づくだろう.共に本質的問題(ここでは原因)発見という目的達成志向を持って取組んでも,論理構築による場合はそのアプローチの特性上「問題が集約される」傾向が現れ,因果関係解明による場合はそのアプローチの特性上「個別事象に焦点が当てられる」傾向があるので,結果において違いが生じる.しかし,いずれのアプローチにおいても同じ目的達成志向で取組む限りは本質をはずすことはないと考えて良い.

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