ロジカルシンキングで問題解決!例題で学んでおきたい解決策立案のコツ!

1.前段「問題の設定(=課題形成)」のアウトプットとは

あなたは仕事の中で、手に負えない問題に直面した時にはどうしていますか?諦めますか?仕事仲間とワイワイやりながら解決を試みようとしますか?それともコンサルタントに依頼して一緒に解決しますか?

コンサルタントに言わせると「解決できない問題はない」などと聞きますが、彼らはどうしてそのような自信を持っているのでしょうか。それは、「必ず解決できる」という信念を持って取組むといった精神的な支えと経験があるという理由だけではありません。ロジカルシンキングを駆使して、問題の本質を正しく捉え、複数の解決策を考え、状況に応じて最適な解決策を実行するという柔軟なやり方で問題に立ち向かうことができるからです。

あなたも、問題解決プロセスの基本的な事柄を理解し、ロジカルシンキングを適切に活用すればはじめは苦労するかもしれませんが、“解決策立案のコツ”を掴めばやがて少し難しい問題の解決にも取組めるようになれるはずです。この機会に試しにちょっとやってみませんか。

「問題解決プロセス」は、通常、「問題の設定」と「問題の解決」という2段階で構成され、実施されるものです。前段の「問題の設定」に関しては、別の記事でご紹介しました。どうしても予め理解しておかなければならない事柄についても触れてありますので、一度、目を通しておいていただきたいと思います。

この記事では後段の「問題の解決(=解決策の立案、実行)」に焦点を当て、あなたには当事者部門のリーダーの役割を担っていただき、実際に、例題事例に取組んでいただきながら解説して参ります。問題解決のほんの一部分ですから、是非、少し時間をかけて一緒に取組んでいただきたいと思います。

なお、「問題解決」について更に深く知りたいという場合には本サイトの論理思考テキスト講座「問題解決の主役」をご参照ください。論理思考ビデオ講座「問題解決プロセス」でも詳しく紹介していますのでご活用ください。

問題解決の手順は、問題の定義からイメージされるように、基本的には前段の「問題の設定」と後段の「問題の解決」という2段階で構成されています。前段の「問題の設定」では「課題形成」プロセスによって、問題の本質は一体何であるのかを明らかにし、“明確化された解決すべき課題”としてアウトプットしています。

前段の「課題形成」プロセスの狙いとするところは「課題を明確にし、目的達成のための本質的解決策の基本方向を明らかにする」点にあります。従って、後段の「問題の解決」においては、前段で示された“明確化された解決すべき課題”がインプットとなり、それが“本質的解決策の基本方向”を示しており、これに沿って解決策を検討して行くことになります。

では、前段の「問題の設定」において、下記例題事例にある問題に対して「課題形成」プロセスで明確化された“解決すべき課題”を改めて紹介しておきましょう。あなたは、この例題事例に登場する「海外市場向け製品のサービス業務の本部機能を担当する部門」のリーダーですから、そのつもりで、以下に記述されている情報には、しっかり目を通しておいていただきたいと思います。

例題:下記は、あるメーカーにおいて海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当する部門で観察される状況です。この部門にはどのような本質的問題があるでしょうか。

  • この部門では海外市場向け業務用製品のサービス業務の本部機能を担当している
  • メンバーは毎日遅くまで市場対応(各国サービスマンからの顧客クレーム対応)に追われている
  • 最近は海外にも新製品が次々と市場に投入され、市場で稼動している製品の数が年々増加している
  • 海外市場向け製品は国内市場向け製品とは電源規格や言語表示が違うだけで殆ど同じ機能である
  • クレーム内容には設計起因の問題と顧客の使い方起因の問題が多い
  • メンバーは平日だけでは対応しきれずに、休日も出勤しなければならず、身体を壊してしまった者もいる
  • 新製品が出る度に市場から多くのクレームが寄せられる
  • ここ数年メンバーは増えていない
  • 海外のサービス拠点では、独自に考えたクレーム対応策を持って対応しているところもある
  • メンバーは海外拠点のサービスマンへのサービス教育を実施する仕事も担当している
  • メンバーには疲労感が見られ、とても生き生きと仕事をしている様子とは程遠い状況である
  • 海外市場向けサービス部門とは別に国内市場向けサービス部門があるが、お互いに情報は閉ざしている
  • 設計起因のクレームには設計部門の人にフィードバックして対応してもらっている
  • 類似のクレームが多い
  • クレームへの対応方法が決まるとメンバーは「サービスニュース」を作成し、メールに添付して各サービス拠点に送付している
  • メンバーはメールで寄せられるサービスマンからの顧客クレームに1件ずつ対応している

上記の例題事例に対して、問題解決プロセスの前段「問題の設定=課題形成プロセス」を終えて「要するに何が本質的問題であるのか」を明らかにして、課題化まで済んでいます。その課題は以下の通りです。

「課題形成」プロセスで明確化された解決すべき課題=前段「問題の設定」のアウトプット:
「本部機能が推進すべき、クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策を実施する」

前段の「問題の設定」を終えたところで、リーダーであるあなたは、今後取組むべき上記課題を示され、「やはり、そうでしたか。うすうす気づいていたのですが、手に負えそうもないと感じて放っておいたのがマズかったです。」と反省の弁を述べておられました。

2.後段の「問題の解決(=解決策立案と実行)」に取組む前に

例題事例の具体的な「問題の解決」に取組んでいただく前に、予め、承知しておいて欲しいことがあります。

1)課題は既に明確になっている

「問題の解決」においては、前段で示された本質的解決策の基本方向に沿って、“解決すべき課題”の解決策を考えることになります。言い替えますと、「問題の解決」段階に入ると元の問題が原因のある問題か原因のない問題かにかかわらず、取組みの対象が「解決すべき課題」という姿で課題化されていますので、基本的な進め方はどんな問題でも同じです。

2)「問題の解決」は解決策立案プロセスと実行プロセスで

「問題の解決」段階は、主として思考中心の「解決策立案」と行動中心の「実行」で構成されます。そこで、筆者は問題解決プロセスとしては、これら2つのプロセスに分けて紹介しています。

3)“解決策立案のコツ”を掴む

全く経験がない、あるいは未知の分野なので自信が持てないなど、いかなる事情があっても「解決策」が考えられなければ始まりません。ロジカルシンキングにおいては、解決策を創出し易くするように、考えるための“枠組み”というものを提供してくれます。すると、枠組みに沿ってアイディアを出すことが容易になるのですが、「問題の解決」段階では、この「枠組み設定とアイディア出し」部分が“解決策立案のコツ”となるところですから、集中して、しっかり理解しておきましょう。

こちら論理思考テキスト講座「フレームワーク思考」およびロジカルシンキングにおけるフレームワークとは?フレームワーク思考で問題解決!も役に立つと思います。

4)問題解決プロセス全体について

問題解決プロセス全体については、別途記事にしてご紹介しております。本来であれば、問題解決プロセスの全体構成を説明し、その後に「問題の設定」、「問題の解決」をブレークダウンして紹介するという順序の方が進めやすいと思っています。

しかし、プロセスの説明は相応に抽象度が高いため、具体的な事柄をイメージして頂いた方が宜しいのではないかと考え、「問題の設定」関連の記事と「問題の解決」関連の記事を独立して紹介しています。

3.解決策立案および実行プロセスに沿って問題の解決に取組む

当事者部門のリーダーである、あなたのチャレンジはここから開始です。最初に解決策立案プロセスについて理解しながら、例題事例に取組みましょう。

1)解決策立案プロセス

解決策立案プロセスの狙いは「最初の課題形成プロセスにて明確にした、解決策の基本方向に沿った、最適な解決策を選択する」という点にあります。

解決策立案プロセスは3つのステップで構成されています。

第1ステップ:枠組み設定とアイディア出し

まず、解決策の基本方向に沿って、解決策を立案するための適切な枠組み(フレームワーク)を設定します。ここでは、論理思考と創造思考が活躍します。

解決策を創出するための適切な枠組みを設定するには、ロジカルシンキングで学んだ、目的に合わせてロジックツリー(論理ツリー)展開することであり、作成されたロジックツリーがそのまま枠組み(フレームワーク)となります。そして、適切な枠組みが設定されると、今度は創造思考の出番となりますが、枠組みに沿って、複数の実効的なアイディアを創出しやすくなります。

最初の課題形成プロセスにて明確にされた解決策の基本方向として、本部機能が推進すべきことは、「クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施」です。従って、解決策案を検討する枠組みは、課題「クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施」に沿って作成します。

その前に

まず、いきなり具体策を考える前に、前提となる事柄があれば検討しておきましょう。

例えば、「他部門、特に同じ製品を扱っている国内市場サービス部門との間で、クレーム対応情報の共有化が実現できるのか」という点については確認しておかなくてはならないと気づくのではないでしょうか。

企業内部には、組織のトップどうしの間で積年のひがみ・妬み関係にあるとか、組織間に思いがけない微妙な力学が働いているとか、外部から見れば実にくだらない部門間の対立や利害関係が存在して、意志疎通すらできないという、常識が通じない状況に陥っていることも多々あります。

そこで、プロセスのできるだけ上流で、例えば、例題事例の場合には「組織間のクレーム対応情報の共有は可能である」といった前提条件が成り立つかどうかの確認を行い、それらを明らかにしておきましょう。「成り立たない」ということであれば、解決策の自由度が減少してしまいますので、最初の段階で情報共有化の障害となっている事柄の解消を試みることが必要な場合もあります。

幸いにして、前提条件「組織間のクレーム対応情報の共有は可能とする」は確認できました。「国内市場向けサービス部門」との間では、特に変な関係ではなく、互いに自部門のやり繰りで手一杯で、視野を広げて業務の効率化を考えるまでに至っていなかったというのが実態でした。しかも、ラッキーだったのは「国内市場向けサービス部門」から、「それなら、当部門で使っている製品サービス情報システムを海外市場向けに言語変換するだけで、済むのではないか」といった提案まであったのです。

“解決策立案のコツ”とは

課題に示された解決策方向に沿って、具体的な解決策が考えられる抽象度まで、できるだけMECEにロジックツリー展開して、作成された枠組み(フレームワーク)をヒントにして解決策案を考えることです。→ロジカルシンキングのロジックツリー例題でトレーニング!MECEでもNGな訳とは?も参考になります。

それでは、下記の例に倣って、例題事例の課題を解決する具体的な方法に関して、ロジックツリー展開してください。

例)課題:製品の売上高を増やす
>製品の販売数量を増やす
>価格を変えずに販売数量を増やす
販売対象を拡大する
販売シェアを上げる
>価格を変えて販売数量を増やす
販売価格を下げる
>製品の販売価格を上げる

さて、あなたはどのようなロジックツリーを作成されたでしょうか。

一例ですが、論理的思考に基づいて、次のようなロジックツリー展開が描けると、枠組みが具体的で明確になりますので、アイディアが出しやすくなると思います。(FYI:スマホでご覧になっている場合は、ここでは画面を横向きにすると見やすいでしょう。)

課題:クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施
>クレーム数を削減する(製品あたりのクレーム数を削減する)
設計起因のクレームを減らす
顧客の使い方起因のクレームを減らす
>クレーム数の削減以外の方法を実施する(クレーム処理効率を上げる)
全世界で同一種類のクレーム対応方法を共有化
顧客自身が対応可能な手段の提供

このように解決策案を検討するための枠組みを作成しました。

すると、早速、枠組み(フレームワーク)に沿ったアイディア出しが可能になります。

進め方は、ロジックツリー展開そのものです。解決策を考えるには、例えば、「設計起因のクレーム数を減らす」には?と枠組みからの問いかけに答えます。

設計起因のクレーム数を減らす:
過去の設計起因クレームに対する再発防止のため、設計基準を見直し・改定する
製品認定段階での評価基準を見直し・改定する

なお、ロジックツリー展開された先の個々の具体的解決策は互いに「or」の関係にあります。

参考までに、これらの具体策は、関連該当部門における、業務上の役割でもあります。しかも、当初の問題状況の中に「クレーム内容には設計起因の問題と顧客の使い方起因の問題が多い」といった情報もありますので、少なくともサービス部門ではなく、設計部門が対応すべき課題であることは明らかですね。

因みに、適切な枠組みを作成しないまま、例えば、課題「クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施」から解決策のアイディアを出せと言われても課題の抽象度が高いので、容易には考えられないということも確認しておいていただきたいと思います。

課題:クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施

あなたも、「枠組みに沿ってアイディア出し」を実施し、具体的な解決策を立案しましょう。例えば、課題の抽象度を2つ下げた「>全世界で同一クレーム対応方法を共有化」という、下記枠組みに対する解決策案のアイディア出しに絞ってトライして頂きましょうか。

課題:クレーム対応を中心とするサービス業務の効率化施策の実施
>クレーム数の削減以外の方法を実施する(クレーム処理効率を上げる)
全世界で同一クレーム対応方法を共有化:

どのようなアイディアが考えられますか?「今まで放っておいた」のですから、リーダーとしての責任上、少しお考えください。

・・・・・

そうです。言われるまでもないことですね。「全世界で同一クレーム対応方法を共有化」という枠組みからは、言語の変換は必要であるものの、例えば「自社インターネット・サイト上で製品のサービス情報を国内外の現地サービスマンと共有化」といった解決策が、高い確率で思いつきますね。

>クレーム数の削減以外の方法を実施する(クレーム処理効率を上げる)
全世界で同一クレーム対応方法を共有化:
自社インターネット・サイト上で製品のサービス情報共有化
製品のクレーム対応情報データベースとして提供

第2ステップ:解決策の仮説設定

それぞれの枠組みに対して、1件以上の解決策を立案したら、今度はそれらの解決策の中から、最適な解決策を選択します。

例えば「>顧客の使い方起因のクレームを減らす」枠組みに対して、下記の解決策案を検討したとします。最下位(それ以下に何も書かれていない)の解決策案が5件(赤色文字部分)ありますが、どの解決策を実施するか選択するということです。

>顧客の使い方起因のクレームを減らす:
>顧客の使い方が不適切で発生するクレーム
顧客が正しく使えるようにする
操作マニュアルを充実化する
顧客に正しい使い方講習プログラムを実施する
顧客の誤操作防止策を設計レベルで製品に組み入れる
>顧客の使い方が不適切でもトラブルが生じない設計に改良する
>顧客の使い方が適切でも発生するクレーム
トラブルが生じても顧客自身で対応可能な情報を提供する
製品内部エラー情報と対応方法情報を充実化する
顧客向けトラブル対応情報を提供する

そのためには、上記ツリーの先(最下位)にある解決策案に限らず、ツリー全体の先(最下位)にあるすべての解決策案を状況に応じて評価項目を決めて、評価選択するわけです。
例えば、

  • コストはどうか
  • 人手がかかるか
  • 実現可能性はどうか(実現は容易か)
  • 効果の大きさはどうか
  • 波及効果があるか
  • 応急的な対応策か
  • 長期的な恒久策か

等の観点から評価して、実行しようとする案を選択します。

複数の解決策の中から、最適な解決策を選択することになります。最適と言っても1つとは限りません。すべてが代替案ですから、設計部門が担当する解決策とサービス部門が担当する解決策は同時並行で実行することも考慮するとか、少ない投資で効果の大きい案を組合わせるなどを検討して選択すべきです。

あなたも検討した解決策案について、評価し、「これぞ!」という案を選択しましょう。例えば、こんな感じの解決策評価マトリクスを作成してみてはいかがでしょうか。

解決策案定量化・評価(10段階)検証実施主担当部門
費用・コスト実現負荷実現可能性効果優先度設計海外サ品質保証
過去の設計起因クレームに対する再発防止のため、設計基準を見直し・改定する33978  
製品認定段階での評価基準を見直し・改定する23755 

国内市場サービス部門、設計部門、国内外現地サービス拠点、品質保証部門との間で双方向の情報交換と共有を可能とする、製品サービス情報システムを視野に入れて具体化すれば、極めて効率的なクレーム対応の仕組みとして機能するでしょう。

勿論、関連部門ごとに部分的なアクセス権限を付与するとか、クレーム対応方法の認定方法や顧客向けに開示した、顧客自身によるトラブル対応情報の提供、各国言語対応等も十分検討し、役割を決めて実現することによって、優れた製品サービス情報システムとなり得ます。

2、3の製品サービス情報システム構成の仕組み案を検討し、自社にとって、最適な案を選択しましょう。海外市場向けクレーム対応において、著しい効率化を図ることができ、しかも国内市場も含めて、自社製品の競争力が向上することに繋がるような選択肢が望ましいと思います。

第3ステップ:解決策の検証

実行する解決策案が目的達成となることを検証します。検証方法は様々ですが、シミュレーションを含め、机上検証が可能であれば容易です。どうしても机上検証が難しいということであれば、試行して検証する必要がある場合もあります。

例えば、次の解決策の場合、

トラブルが生じても顧客自身で対応可能な情報を提供する
顧客向けトラブル対応情報を提供する

自社のサービス情報サイトに「製品ごとの顧客向けトラブル対応情報」を載せ、顧客に実際に対応して貰い、業務用製品ですから顧客サイドでの製品稼働率に支障を生じさせないメリットを確認するといった実験をするのも1つの検証方法です。

2)実行プロセス

問題解決プロセスの後段「問題の解決」における、この実行プロセスの狙いは「実施する解決策を関係者と共有・納得の上で計画的に進め、状況の変化に対応する」ことです。

第1ステップ:結果と論理の明確化

ここまでのプロセスを振り返り、関係者の説得が可能な結果と論理であることを確認します。具体的には、最初の「問題の設定」において問題の本質を明らかにして課題化し、課題の解決策を検討し、選択・検証した経緯を振り返り、実行ステップに至るまでの論理の明確化と確認を行うことです。

あなた自身が納得できていなければ見直しが必要と考えておかなくてはなりません。少なくとも、関係者が「なるほど」と納得の行くロジカルな結論でなければ、本気で協力を得ることは難しいので、大事なステップです。

第2ステップ:キーパーソンの説得と実行

キーパーソンと解決策を共有し、実行計画を立て推進します。1人で実行するという場合は関係者への説明程度で構いませんが、チームとして解決策の実行に取組むのであれば、少なくともキーパーソン、可能なら関係者および全チームメンバーとこれまでの結果と論理を共有し、実行計画を立て推進するということです。

この共有化場面というのは、思いのほか神経を使うことになります。「仕事だから協力するのが当然」といった感覚や「業務命令には文句を言わずに従うべきだ」といった発想では大抵うまく行きません。ロジカルシンキングによる結論であることは必須ですが、最低限、チームメンバーが「なるほど、そうだ。納得できる。」と受取ることができなければ、協力を得るのが難しいのです。

いきなり結果と論理を提示されても、拒否する人がいる場合がありますが、それを避けるには、早い段階からの共有や、問題解決プロセスの要所・要所への巻き込みも有効です。

あなたが自部門の問題解決推進リーダーですから、関連部門をはじめ関係者やチームメンバーの誰もが、懸案の問題を解決することに意義を感じ、リーダーの想いに共鳴して、解決策を全力で実現して貰えるように動機付けることができれば理想的です。

メンバーは「やっとリーダーがやる気になった。」、「だから前から提案していたのに聞いて貰えなかった。」、「これで漸くマシな仕事ができるようになる。」、「当然、協力する。」といった反応でした。

実行計画

ここでは細かいことには触れませんが、実現する解決策の全体を視野に入れ、実行する事柄をブレークダウンして、計画的に進めましょう。

第3ステップ:モニタリングと見直し・修正

言うまでもないことですが、実行を開始したら、絶えず、進捗状況を把握し、状況の変化に適切に対応することが大事ですね。

4.問題解決への取組みにおける付随する事柄

ロジカルシンキングを活用して、問題解決に取組む際に、もし問題の種類に合わせて問題解決プロセスを変更しなければならないとしたらどうでしょうか。ただでさえ問題解決を適切に進めるのは骨の折れることですから、問題に合わせてプロセスを変更するなど、更に難しいことになってしまいます。

そこで、本サイトでは首尾一貫して、どのような問題に対しても、共通して使える1つの普遍的な問題解決プロセスを紹介しています。その上で、問題解決への取組みにおいて、常に念頭に入れておきたい事柄について以下に説明します。

1)見直し・繰返しながら進む問題解決のプロセス

問題解決プロセスには一定のステップがありますが、たとえステップに沿って進めても、矛盾や不備に気づき、途中で元のステップに戻って見直す、または発散・収束の繰返しの必要が生じるものだと認識しておきましょう。

例えば、解決策案を検討している際に、現地の組織体制に関する情報不足に気づき、改めて調査したところ、その解決策は非現実的であることがわかり、解決策の検討が振出しに戻るといったことが起こります。極端な場合は、当初の問題状況に関して認識不足があり、再度情報収集して、本質的問題の明確化からやり直しを余儀なくされることもあります。

結果的に、新たな情報や知見・考察が加わることによって、矛盾や不備に気づき、見直し、発散・収束を繰返しながら、その都度各ステップのアウトプットが充実化して行く、いわばスパイラルにアップして行くという状態に似ています。

2)問題に応じて異なる各プロセス・ステップの重み

問題解決の各プロセス・ステップの重要度は目的・背景や問題の性格に応じて異なるものであり、状況に応じて重みづけを変え、柔軟に臨機応変に取り組むべきであることを理解しておきましょう。

例えば、問題によっては必要以上に“本質”に拘らなくても良い問題もあるとか、良い解決策案が見つかったら、問題の状況次第では、検証や共有化のステップをスキップして、即実行というケースもあり得る等々とお考えいただきたいと思います。

3)前提条件の設定は随時実施

問題解決に際しては、可能な限り「より上流プロセス」において、不合理でない適切な前提条件を明確に設定して進むべきです。しかし、実際は下流プロセスに進んでから前提条件の設定必要性に気づくことも多く、必要な段階で随時設定しても構いません。

適切な前提条件の設定は課題を明確にし、どうでも良いことに無駄なエネルギーを使わず、考察を助け、本質部分に集中して頭を使えるようにするために大変役に立ちます。

今回の例題事例においても、「他部門、特に同じ製品を扱っている国内市場サービス部門との間で、クレーム対応情報の共有化が実現できるのか」という点について明確にしておく必要に気づき、「組織間のクレーム対応情報の共有は可能である」という前提条件を確認しました。

5.例題に取組んでみよう

さて、今回、あなたには組織のリーダーとして「問題の解決」に取組んでいただきました。紙面上で実際に解決策を実行することはできませんので、実行プロセスについては簡単な説明だけで終わりましたが、“解決策立案のコツ”は掴めましたでしょうか?

「問題の解決」における1つの山場は「解決策の立案」ですが、先に述べた通り、ロジカルシンキングを活用して課題をロジックツリー展開し、枠組み(フレームワーク)を作成して、枠組みに沿ってアイディアを創出するところが肝心な部分です。

そこで、しつこいようですが、あなたには、最後にもう1度「解決策の立案」について、次の練習問題に取組んでいただこうと思います。ゼロからお考えください。

練習問題:
ロジックツリー展開を用いて、次の課題の解決策を考えるための枠組みを作成しなさい。           

 

あなたは、単独登山の途中で雨が降って来たので、途中にある無人山小屋でしばらく休憩していました。そこへ登山で遭難し、3日間山中をさまよった挙句、今やっと自力で山小屋まで辿り着いた1人の登山者が来るなり、目の前で倒れてしまいました。その登山者は、猛烈な睡魔と空腹感に襲われているようで、身体を動かすことも難しい状態にあります。

あなたは、その登山者に何とかして「食べ物を口に入れ、栄養分を補給しなければならない」状況ですが、どのような策が考えられますか。必要なら、不合理でない前提条件を設定して構いません。

ただし
山小屋にはあなたとその登山者しかいません。
飲料水のほか食べ物なら非常食程度のものはあります。

解答例は、最後にご紹介します。

まとめ

  • 問題解決プロセスの前段「問題の設定」におけるアウトプットは、「課題形成」プロセスによって、問題の本質は一体何であるのかを明らかにした、“解決すべき課題”です。
  • 問題解決プロセスの後段「問題の解決」におけるインプットは、前段「問題の設定」で、アウトプットされた“解決すべき課題”であり、これが本質的解決策の基本方向となります。
  • 「問題の解決」においては、解決策立案および実行プロセスに沿って、取組みます。
    • 解決策立案プロセスの3ステップ
      1)枠組みの設定とアイディア出し
      2)解決策の仮説設定
      3)解決策の検証
    • 実行プロセスの3ステップ
      1)結果と論理の明確化
      2)キーパーソンの説得と実行
      3)モニタリングと見直し・修正
  • 枠組みの設定とアイディア出しステップにて、“解決策立案のコツ”を掴んでいただきました。
    • 課題に示された解決策方向に沿って、具体的な解決策が考えられる抽象度まで、できるだけMECEにロジックツリー展開して、作成された枠組みをヒントにして解決策案を考える。
  • 問題解決の取組みにおける付随する事柄について学びました。
    • 「問題解決」への取組ポイント
      1)随時不合理でない前提条件を設定する
      2)問題に応じて各プロセス・ステップの重みを変える
      3)状況に応じて見直し・繰返しながら柔軟に進める

補足

せっかくの機会ですから、あなたには、自発的な問題解決への取組みをお勧めしておきたいと思います。

企業の中にいて何らかの問題解決を必要としている場合、たとえ1人で解決策を考えることができたとしても、解決策の実行となると他の人の協力が不可欠になる課題が多いものです。実行段階では「対人能力」も使うことになります。それでも担当業務の範囲であれば、通常は、日常的に接している人達との関係であり、それほど難しいことにはならないと思われます。

しかし、外部環境の変化が激しい現代の企業の中には、むしろ、担当業務を超えたところに多くの問題が山積しています。企業の体質が外部環境の変化に適応できていないのです。つまり、「思考能力」に加えて「対人能力」を磨く機会はいくらでも存在するということです。

自分の担当業務を超えて、率先して有志を結集し、それらの問題解決に取組むべき状況が至る所に存在しています。多忙を極める状況の中で、誰かに頼まれるわけでもなく、自ら進んでそのような担当業務外の問題解決に取組むということは、少なくとも仲間を巻き込むだけの情熱と共感喚起能力を必要とするものです。

問題解決に取り掛かれば、意見の対立に直面しますが、妥協でなく納得レベルで対立を克服する度に思考力と対人力を磨くことになります。多くの困難を乗り越えて問題解決に至る過程で関係者の仲間意識が醸成され、成果とともに大事な事柄や本質が共有されることになります。素晴らしいことではないでしょうか。
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ここからは、例題の解答例です。
解答例:解決策を考えるための枠組みの作成
恐らく、このような枠組みを一瞬で頭に描き、問題の登山者の様子を観察しながら、幾つかの解決策を思いつくのではないでしょうか。意識の有無を含めて「自力で食べられるか」どうか、「手が使えるかどうか」といった切り口で、枠組みの設定ができていれば宜しいかと思います。

解決策はこんなものでしょう。山小屋ですから「点滴する」などの実現性はないと思いますが、一瞬にして解決策を立案したら、様子を見ながら、途中のステップをスキップして、即試行・実行でしょうね。